途切れない魔獣
オフリーに近付くと、絶えず魔獣に遭遇する事になる。
「疲れた~!」
「やっかいだな」
「休みた~い!」
叫びながらもリルは、ハルの魔力を使って魔獣を仕留めていった。
「先程から我々の下に魔獣が集まって来ているが、離れて行くものはいないな」
「そりゃもうハルの魔力に魅入られてるからね」
「良し。休もう」
そう言うとハルはいきなり土ドームを作り、リルと自分を中に閉じ籠めた。
「急に危ないじゃない!」
土ドームの中で礫を撃ちそうになって、慌てて止めたリルがハルを睨んだ。
「済まなかった」
「魔獣はどうするのよ?!」
「私が魔力を漏らしている限り、逃げないのだろう?」
「あ、そうか。賢い」
「褒めてくれて、ありがとう」
「あ、うん。でも休憩が終わったら、外が凄い事になってそうだね」
「まあ、集めるだけ集めておくから、リルは先に休んでくれ」
「うん。後で交代ね」
「ああ」
ハルがベッドを作ると、リルは直ぐに横になった。
「あ、火だけ着けとく」
「そうだな。頼む」
ハルが直ぐに枝を乾かしてリルに渡す。それに火を着けると、リルはハルに差し出した。
「ありがとう」
「うん。お休み」
「ああ、お休み」
直ぐにリルは寝息を立てる。
ハルは、手を握られなかった事を少し物足りなく思いながら、自分の分の食事の用意を始めた。
「おはよ」
リルは目を覚ますと直ぐに、挨拶をしながら探知魔法で周囲を探る。
声を掛けられて、ハルは振り向いた。
「おはよう。休めたか?」
「ねえ?何かあったの?」
「どうしたのだ?」
「魔獣が減ってる?分かんないけど、少なくとも増えてないみたい」
「そうなのか?」
ハルが顔を蹙める。
「魔力は漏らし続けているが、逃がしてしまったのだろうか?」
「う~ん?ドームの周辺に、魔獣の死骸が結構あるみたい。ハル?外に出た?」
「いいや。ずっとドームの中にいたが?」
「あ!共食いだ!違う!強いのが弱いのを捕食してるんだ」
「そうなのか?」
「うん。魔獣同士、戦ってる」
「その様な事があるのか?」
「ダンジョン内でも強い魔獣が弱い魔獣を食べる事はあるから。普通は人間がいたらそっちを狙うから、滅多に見ないけど、痕跡は見掛ける」
「それが外でも起こっているのか」
「ハルの魔力に集まってたところに、遅れて強いのが来たのかな?」
「そうすると、弱い魔獣は逃げてしまったのだろうか?」
「う~ん?弱いのも残ってるし、強いのから逃げようとはしてるけど、土ドームからは離れて行こうとはしてないかな?」
「魔獣を食べた魔獣は、やはりもっと強くなるのか?」
「なるとは思うけど、それって魔獣に取ってはただの食事だから、食べた魔獣の分だけ強くなったりはしない筈」
「そうなのか」
「そうじゃないと、種類毎に大体強さが決まっていたり、しないでしょ?」
「それもそうだな」
「私達も、ウリボア食べたらウリボア分、強くなったりしてないし」
「確かに」
失敗をして魔獣を逃がしてしまったかと思って緊張していたハルは、リルとの会話で力が抜けて行き、ついには笑顔を見せた。リルも笑顔を返す。
「でもこのままなら、数が減らせて良いかもね?」
「捕食をさせるのか」
「うん。ねえ?寝ながらも魔力、漏らせる?」
「いや、どうだろう?」
「難しいかな?今はもう、寝てても魔力漏れないもんね」
「そうだな。全開にして寝るなら出来そうだが」
「それはダメ。魔獣が怖がって逃げちゃう」
「そうか」
「ちょっと魔力貰うね」
「うん?ああ」
リルが伸ばして来た手をハルは握った。
「少しずつ、漏らしてる魔力を減らして」
「うん?こうか?」
「うん」
ハルが漏らす魔力を減らした分だけ、リルが魔力を漏らす。
リルは探知魔法で外の様子を確認すると、ハルに笑顔を向けた。
「良い感じ。このまま漏れなくなるまで魔力を絞って」
「これではかなりの魔力をリルを通して漏らせる事になるが、リルは大丈夫なのか?」
「うん。ハルほど魔力ないけど、結構な魔力放出、私も出来るから」
「分かった。絞り続けてみよう」
「うん」
漏らす魔力をハルは減らし続け、リルは増やし続ける。やがてハルは魔力を漏らす事を止め、リルだけが魔力を漏らした。
「大丈夫か?」
「うん、全然。ハルも大丈夫?私がこんなに吸い出して」
「ああ。自分で漏らすのより、私は楽な気がする」
「魔力コントロール、しなくて良いもんね?」
「そうだな。リル?」
「なに?」
「辛くなったら言ってくれ」
「もちろん。失敗して魔獣を逃がしたりしたくないもんね。その時は遠慮なく起こすから、ハルは寝て良いよ」
リルはベッドから立ち上がって、ハルをベッドに座らせようとする。
「いや、交替の前にリルは食事を摂らないと駄目だ」
「あ、そうか」
「もう一度、私が魔力を漏らすから」
「え?このままでも」
「手を繋いだまま、料理をする気か?」
「焼くだけだから出来るよ。ほら」
そう言うとリルはハルと繋いでいる方の手の肘と、もう一方の手のひらの間で、熱魔法を使って肉を焼き始めた。
その様子を見たハルが笑い出す。
「魔法とは、手で産み出すものだと思っていた」
「なんで?杖も使うし、それに前に、靴を濡らさずに川の中に入った事あったでしょ?」
「あったがあれはもしかして?」
「もちろん足で魔法を使ってたのよ。手で別の魔法撃ってたじゃない」
「確かに!」
あの時の様子を思い出して、ハルは目を見開いた。そのハルの表情を見てリルは笑い、釣られる様にハルもまた笑い始める。
疲れの所為か2人の笑いはなかなか止まらず、肉は少し焦げてしまった。




