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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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スタンピードの先

 その後もリルとハルは、幾つもの種類の魔獣の群れと出会(でくわ)し、それぞれの群れ毎に討伐していった。

 そしてとうとう、複数の種類の魔獣が混在する群れとも遭遇する。

 しかしそれも、群れ全体を刃付きの壁で囲んでから柱を立てて自由を奪い、ハルが剣で止めを刺していく事で倒し切った。


「とうとう、混ざったな」

「魔獣の種類の事?」

「ああ。魔獣が種類別に分かれるのに、距離が足りないのだろう」

「うん?どう言う事?」

「発生源が近いと言う事だ」

「それはそうよ?もう直ぐオフリーだし」

「ふっ、それもそうか」

「でもそろそろ、オフリーのダンジョンまで、魔獣が途切れなくなるかもね」

「そうだな」

「休憩する?」

「そうだな。そうしよう」


 倒した魔獣をハルが土魔法で埋める間に、リルはベッドとテーブルを作って、土ドームで覆う。ハルが中に入ったら、ドームを閉じた。


「見張らないのか?」

「探知魔法で見張るから、ハルは先に休んで」

「いや、リルが先に休め」

「ハルは昨夜寝てないし、移動も私を抱いてだし、私は移動中休めてたからね?」

「そうか。だがその前に、食事にしないか?」

「あ、そうか。お腹減ったよね?じゃあまた肉を焼くけど、ウリボアにする?」

「ああ。あれは美味しかったな。ウリボアにしよう」

「うん」


 ハルはベッドに横になって、リルが肉を焼くのを眺めた。


「オフリーに着いたら、どうするのだ?」

「どうするって?」

「スタンピードを止めねばならないだろう?」

「どうやって止めるの?」

「いや、それをリルに尋ねようとしたのだが」

「どうするんだろうね?タヤのスタンピードも、どうやって止まったのか分かんないし」

「そうだったな」

「急に起こるから、急に終わるのかな?」

「だがタヤは何ヶ月も続いていた筈だ」

「あれはでも、ダンジョンから溢れたアンデッドに、街の人が次々にアンデッドにされちゃって、収拾が付かなくなったからだし」

「なるほど。オフリーではそうはならないか」

「ダンジョンだけならね。オフリーからもアンデッドが出なければ」

「・・・そうか。そうだな」

「焼けたよ」

「ああ」


 ハルはベッドから体を起こし、テーブルのベンチに腰を下ろす。リルはハルの前に、肉を載せた皿を置いた。


「美味しそうだ」

「でしょ?」

「私は他の料理も全く出来ないが、こうして肉を焼く事さえも、リルには敵う気がしない」

「だって、ハルが初めて肉を焼いたのなんて、私と出会ってからでしょ?」

「ああ」

「家事全般まで直ぐに上達されたら、私の立場がなくなっちゃうから」

「その様な事はないだろう?庶民は使用人を雇わないのではなかったか?」

「え?それが何か?」

「だから家事は家族で手分けをするのではないのか?」

「う~ん?そうだったかも?」

「リルの・・・」


 そこまで言ってハルは言い淀む。両親の事をリルに思い出させて良いのか、ハルは躊躇した。


「私の母は料理を全然作らなかったから。お母さんがご飯を作ると、大変な事になるらしかった。ご飯を作るのも掃除をするのもお父さん。お父さん、変な物を入れるけどね」

「変な物?」

「うん。苦かったり酸っぱかったり。薬師だからレシピがあれば料理もその通りに何でも作れるんだけど、薬師だから思い付くと色々と試したがりもして、前回美味しかった料理と見た目も匂いも一緒だけど、辛くて食べらんないとか、噛み切れなくて飲み込めないとか、たまにあったわ」

「そうなのか」

「なので私が料理を作れる様になってからは、私が作る事が多かったな。その代わり掃除はお父さん」

「リルはやらないのか?」

「やるけどね。調薬の道具とか調剤室とか、使ったら直ぐに洗ったり掃除したりするから慣れてるし。でも私がご飯を作ってる間に、お父さんが掃除をしちゃうから」

「そうだったのか」

「だからそう簡単には、料理の腕はハルには抜かさせない」

「ふふっ」

「え?なに?抜かさせないよ?」

「いや、そうだな。落ち着いたらリルには、料理も掃除も教えて貰おう」

「洗濯もね」

「ああ」

「逆にハルも私に何か教えてね?」

「何かとは?」

「私、お父さんには薬の事を教わったし、お母さんには魔法を教わったけど、後はろくに知らないから。後は魔獣の事くらいだけど、知らない魔獣の方が多い筈だし。お母さんの魔法は、一般的でもないし。だから常識的な事、教わりたい」

「そうか。教師が付いて習う様な事なら、私にも教えられると思うが、その様な事柄でも良いか?」

「もちろん」

「分かった。それではこのスタンピード騒動が片付いて、一緒に暮らせる様になったら」

「待って・・・」

「どうした?」

「一緒に暮らすかどうか、私まだ答えてないよね?」

「・・・そうだな。まだ応えて貰ってはいないな」

「王都に行くまでに考えるって約束だから。違うから。でも、こんな事になったから、もっと考える時間が欲しいかも」

「ああ、構わない。なんならズーリナにでもイザンにでも、付いて行くと言っただろう?王都を目指すのを()めても良いのだ」

「だからそれはダメ。お父さんに会うんでしょ?」

「父に会うのはリルに応えて貰ってからだ」

「え、でも」

「だから王都に行くのは延ばしても構わない。納得いくまで考えてくれ。ただし答えを出して貰えるまでは、他の男に目を向けるのは妨害させて貰うからな?」

「そんな事、しないわよ」

「まあ、ゆっくりと考えて貰える様にする為にも、可能な限り早く、スタンピード騒動を終わらせよう」

「そうよね」

「ああ」


 リルはハルと魔獣を狩る事が楽しくなって来ていた。ハルと一緒に冒険者をしていけば、生活には困る事はないとも思える。

 その事に流されて、ハルをハルの世界に帰したり、自分もハルの世界に乗り込んで行くと言う選択肢を捨てそうになっている事に、リルは戸惑っていた。

 だが普段でも想像が難しいハルの世界の事なんて、スタンピードに直面している現在、考えられる筈もなかった。

 それなのでハルとの未来に付いて、リルは一切考えない事にする。ハルの言う通り、スタンピードを終わらせる事に集中しよう、とリルは決心をした。

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