多対2対応
リルを抱き抱えて走りながら、ハルは少しずつ魔力を漏らし始める。やがて1頭の魔獣がハルの魔力に気付くと、鳴き声を上げながらハルに向きを変えた。それに気付いた他の魔獣もハルに気付き、次々とハルを目指して飛んで来る。
「さすが。上手く釣れたね」
「やはり、前に見たクワイバーンより大きいのか?」
「うん。ダンジョンのボスとか、あれくらいのサイズだけど」
「あれほど多量の魔獣がいたら、話題にならない筈がない。どこかに隠れていたのか、突然現れたのか」
「つまり、ダンジョンから出て来たって事?」
「やはり、そう考えられるのではないか?」
「取り敢えず、倒してから考えよう」
「そうだな」
リルはハルの前に立ち、ハルの両腕を左右に抱えて、両方の手に手を添えた。
「さっきと同じ、あ、でも、礫は弱め」
リルは自分の手のひらに礫を作ってハルに渡す。
「こんな感じで柔らかめで次々作って。次々撃つから魔力を貸りるね」
「ああ、だが、座ってやろう」
ハルはその場に土魔法で椅子を作るとリルの両脇を両腕で持ち上げ、腿の上にリルを載せた。
「この方が、礫を作り易い」
「そう」
リルは1発目として自分で作った礫を使い、ハルの魔力で力魔法を撃つ。それは後方の魔獣の1頭の胸に当たり、その魔獣は一声鳴いて落下する。そして2人からかなり遠い位置に墜ちた。
1頭目が地面に墜ちるのを待たずに、リルはハルの作った礫を次々と魔獣の胸に当て、1発で1頭の魔獣を墜としていく。
「何故小さいのから狙うのだ?」
「ボスから倒すと、小さいのが逃げると思うんだ」
「なるほど」
大きな魔獣が小さな魔獣を守る様に旋回をした。
「これで群れ全体の移動速度が墜ちるはず」
そう言いながらリルは、やはり小さいのから次々に墜とす。
ボス級の1頭が旋回を止めて、2人に向かって向きを変える。その魔獣の片翼にリルは礫を当てた。するとその魔獣は流される様に進路をずらして、2人から離れていく。
「今のは狙ったのか?」
「うん。大きいのはとにかく後。狙って来たら進路を逸らして残しとく」
次々と墜とされた魔獣はまだ生きていて、地上からの鳴き声が徐々に増えていく。その上空を群れが旋回をしたり、1頭で2人に向かって来ては去なされたりしながら、飛んでいる魔獣は徐々に数を減らしていった。
それほど時間を掛けずに、1番大きな魔獣が1番最後に地上に墜とされた。
遠くからは魔獣の鳴き声がまだ聞こえている。
リルは立ち上がると手を引っ張って、ハルを立たせた。
「止めを差しに行こう」
「ああ」
ハルはまたリルを抱き上げると、魔獣を墜とした場所に向けて走り出した。
墜とされた魔獣達は暴れていた。
「これは?」
「魔石を狙ったから、苦しんでる」
先に墜ちた小さい魔獣は、大きな個体が墜ちた時の下敷きになったり、踏まれたり嘴で刺されたりして、絶命しているものも多かった。
「ハルはどうする?礫?剣?」
「剣で切れるのか?」
「ハルなら」
「では剣で」
ハルは土魔法で刃先が長めの剣を作る。
「魔石はどうする?」
「割れちゃってるけど、復活しない様に回収してく。あ、私がやるから」
「分かった。では私は止めだけを刺す」
「うん、お願い」
2人は漏れがないように確認しながら、ゆっくりと魔獣の群れを殲滅していった。
すべて倒し終わってから、2人は土魔法で魔獣の死体を埋める。
「知らない魔獣はまだ向こうだから、ここを見たらクワイバーンを間違えたって思われるかな?」
「街の人間に掘り返された時の話か?」
「うん」
「どうでも良いだろう?」
「まあそうだけど」
「それより、誤解を心配すると言う事は、リルは先程の街には戻らない積もりなのだな?」
「そうね。戻る?」
「いいや。クワイバーンが飛んで来た方向の方が気になる」
「うん。あっちってオフリーの方だよね?」
「ああ」
ハルは肯くとリルをまた抱き上げた。




