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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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不明の魔獣

 裸眼だとリルの目にはまだ見えない何かを指差しながら、ハルは言った。


「このままこの街を通り過ぎても、どこかの街で被害が出るかも知れない。あれの向かっている方向には王都もある」

「あ、うん。分かった」

「この街に被害が出ない様に、少し離れた場所で狩る。リルはここに残っていろ」

「え?バカな事言わないで」

「力任せに倒すから、リルを巻き込みかねない」

「バカね。私がいれば、力任せなんてならないから」

「いや、だが、リルも知らない魔獣なのだろう?」

「あれは知らなくても、5種類しか知らないハルよりは、経験を生かせるわ」

「いや、しかし」

「力任せじゃなくて、サクッと倒すわよ」


 リルはハルの腕を掴む。

 リルの表情を見てハルは「分かった」と肯くと、リルの体を抱き上げた。


「走って行こう」

「うん。ウリボアを狩ったところにしましょ」

「ああ」


 ハルはリルを抱いたまま、肉体強化魔法を使って走り出した。


「あれの気を引くのに、魔力を少しずつ漏らして」

「ああ」

「あれが気付いたら、漏らす量をキープで」

「分かった」


 ハルの魔力に気付いた魔獣は、羽ばたきながら空中に留まり、そして向きを変えて、ハル達を目指して来る。

 ウリボアを倒した場所に着くとハルはリルを降ろし、リルはハルの前に立ってハルの両腕を左右に抱える様にして持った。 


「礫を固く作って!」


 リルはハルの片手に自分の片手を添えて、もう一方は自分の手にハルの手を添えさせる。

 リルはハルが片手で作る礫を手のひらに載せ、それをハルの魔力で打ち出した。礫はしっかりと魔獣に当たり、跳ね返る。


「良し。硬い礫を出来るだけ早く作り続けて」

「ああ」


 ハルが作った礫を次々に、ハルの魔力を使ってリルが力魔法を使い、魔獣に当てていく。

 魔獣は直ぐに墜落した。


「あれ?もう?」

(とど)めは?」

「そうね!」


 ハルがまたリルを抱き上げて走る。

 正体不明の魔獣は、リルの思い描いた計画の、遙か遠くに墜ちていた。リルが魔力量から計算した強さより、魔獣は遙かに早く墜ちたのだ。


「魔石、割っちゃったのかな?」

「そうだとどうなるんだ?」

「かなり暴れる筈。苦しいらしいから」

「しかし、墜落した時に音はしたけれど、それっきり何も聞こえないぞ?」

「そう?」

「探知魔法ではどうなのだ?」

「う~ん、倒した様な反応なんだけどね?」

「・・・油断しないで行く」

「うん。そうして」


 魔獣が倒れている姿がリルにも見え、そこから2人は歩いて近付く。


「あ!復活しそう!」


 リルはそう言うと走り出した。それをハルが抱き上げて、肉体強化を使って一瞬で魔獣の傍に立った。

 リルはハルが降ろすより先に、ハルの腕から飛び降りる。その飛び降りの勢いも利用して、リルが魔獣の皮膚にナイフを刺すが、弾かれた。


「ハル!魔石!」


 リルがハルを振り向いて、その指差す先にハルがナイフを突き刺す。そのナイフの柄にリルが手を添える。


「もっと奥!」


 ナイフをリルが変形して伸ばし、それをハルが硬化した。リルの手の動きに合わせて、ハルが肉体強化した力尽くで、魔獣の肉を切り裂いていく。

 ぐるりと抉ると、大きな魔石が取り出せた。


「取れた~」


 リルはその場に座り込んだ。


「大きいな」


 魔石を持ち上げながらそう言うハルに、リルは明るく「ね!」と応えた。


「この肉も食べるのか?」

「どうしよう?」

「切るのにかなりの力がいるな」

「そもそも食べられるのかな?」

「何?食べられない魔獣もいるのか?」

「いるよ。毒を持ってるのとか。食べれる魔獣も、食べちゃダメな部位があったりするし」

「そう言えば、そんな事を言っていたな」

「うん」


 立ち上がろうとするリルにハルが手を差し出す。リルがその手を掴むと、ハルは優しくリルを引き上げ立たせた。


「取り敢えず、街の人を連れて来て、この魔獣を知ってる人を探して貰おうか?そうすれば食べられるかどうか分かるし、素材になる部位も分かるから」

「そうだな」


 リルは土魔法を使って、魔獣を土ドームに隠す。それに気付いたハルも手伝った。



 街に戻ると城壁の上から、先程の門兵が手を振って来る。


「あんたら、どこ行ってたんだ?」

「別の魔獣が出たから、狩ってたの」

「別の魔獣?」

「それで、その魔獣、なんだか分からないから、知ってる人を探したいんだけど」

「いや、別の魔獣って拙いだろ?」

「え?倒したわよ?」

「でも、別のが出たって事は、他にもまだまだいるかも知れないって事だろ?」

「う~ん、断言は出来ないけど」

「あんたらがいなかったから、上司が怒っちまって、戻っちゃったんだ。その上新しい魔獣なんて言ったら、絶対に門は開けらんないよ」

「そうなの?」

「なんなら魔獣をここまで運ぶから、正体だけでも調べてくれないか?」

「どうやって?」

「魔獣に詳しい人間は街にいないのか?」

「冒険者協会の人とか?」

「冒険者協会って言ってもこの街では素材の注文を受け付けるだけで、後はダンジョンで狩られた魔獣が注文通りの素材になって届くだけだ。魔獣を見た事あるやつなんていないんじゃないか?」

「そうなの?」

「ああ。普段は魔獣なんて全く出ないからな」

「それは聞いてたけど、そうか」

「そうだ。だからやっぱり、あんたらは街には入れられない。悪いけど」


 門兵が済まなそうな顔をした。

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