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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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魔獣がいないので

 入れなかった街から離れ、リルとハルは王都に向かって街道を進み、次の街を目指した。途中で魔獣ミディアを討伐する予定だ。

 しかし街道をどれだけ進んでも、魔獣は現れない。ミディア以外の魔獣もいなかった。


「もしかしたら、街道を横切る魔獣が目撃された、とかだろうか?通り過ぎて、既にどこかに行ってしまったとか?」


 ハルの言葉にリルは小首を傾げる。


「そうだとしても、ここまで魔獣の痕跡がなかったから、まだ先なのかな?」

「痕跡とは、足跡とかだろうか?」

「うん。なかったでしょ?」

「いや、分からなかった」

「なければ気付けないからね」

「そうではなく、リルみたいにないと断言出来ない。見逃していない自信が俺にはない」

「う~ん・・・強いのも考え物かもね?」


 更に首を傾けるリルの様子に、ハルは目を細めた。


「どう言う意味だ?」

「ダンジョンの外の魔獣ならハルの敵にはならないから、ハルは危機感があんまり持てないんじゃない?」

「その様な積もりではないのだが」

「私はダンジョンで、油断したら死んじゃう経験があるから、警戒が体に染み付いてるけど。だから魔獣の痕跡や気配には自然と注意が向くし」

「ダンジョンでの魔獣狩りは、俺も経験して置いた方が良いのだろうか?」

「チャンスがあったらやってみる?やってみたい?」

「そうだな。リルと話を合わせる為に、同じ経験はして置きたい」


 真面目な表情でそう告げるハルに、リルは喜びを顔に表す。


「じゃあ一緒にダンジョンに行こうね?」

「ああ。随分と嬉しそうだが、リルはダンジョンが好きなのか?」

「ダンジョン自体は好きも嫌いも今はないけど、最近は魔獣狩りで、ハルに教える事がなくなってるじゃない?ダンジョンならまた、先輩としてハルに威張れるし」

「今までも特には威張ってなどいなかったのではないか?」

「そう?」

「それに今この時も、俺はリルを尊敬している」

「え?あ、そう?」

「ああ。尊敬できない相手を好きになったりは出来ないだろう?」


 尊敬と言われて揺れたリルの気持ちは、好きと言われて膨れ上がった。


「不意討ち、ズルい」

「何がだ?」

「こんなところで急に、その、好きなんて言って」

「どこなら良いのだ?」

「それは、その・・・」

「急にと言われるのも難しいが、予告すれば良いのか?これから好きと言うぞ、と?」

「・・・もしかしてからかってる?」

「いいや。決してさっきの街で、赤くされた仕返しではないぞ?」

「仕返しじゃない!からかったのね?!」

「いいや違う。俺はリルに向かって好きと言うチャンスを逃さない事にしたのだ」

「チャンスってなによ」

「今の事だ。好きだよ、リル」


 微笑んでそう囁くハルの声がとても甘く響き、許容量を超えられたリルはハルをぱしぱしと叩く。


「もう!もう!」

「どうやら俺の気持ちは、しっかりとリルの心に届いている様だな」

「もう!」


 その後も歩きながら、リルはハルを叩き続けた。

 

 しかしだんだんと叩く力は弱くなっていく。やがて指先だけでリズムを取る様に、リルはハルを叩いていた。


「リル?」

「なに?」


 ハルに呼び掛けられ、リルの手が止まる。


「ダンジョンに行くのなら王都ではなくて、違うところに向かわなくてはならないのではないか?」

「そうね。ダンジョンってどこにあるのかな?」

「国内に数箇所あるが、ここから一番近いのはオフリーだな」

「オフリーかぁ」

「道を戻る事にはなるが、リルが拠点としていたダンジョンだな?」

「うん。オフリーは避けたいな。会いたくない人達がいるし」

「前のパーティの者達か?」

「とかね。王都の周辺にはダンジョンってないの?魔獣がいないんなら、ないのかな?」

「そうだな。まだ活性のあるダンジョンはない」

「活性?非活性ならあるの?」

「王都は元はダンジョン都市だ」

「そうなの?」

「ああ。発生したスタンピードを食い止めて、ダンジョンを封印したのが今の王家の祖先だと言われているが、知らないか?」

「うん。そうなのね。でも封印って大丈夫なの?」

「ダンジョン内を綺麗に浄化してしまってあるから、もう魔物が発生する恐れはない。その上で万が一に備えて、封印をしたそうだ」

「魔獣の素材とか、諦めて割り切ったのね」

「ああ。代わりに、それまでの城壁はダンジョンから魔物を溢れさせない為の物だったが、封印してからの城壁は外から魔物が入って来ない様にする為の物になり、王都はこの国で一番安全な場所になったと言う訳だ」

「それで冒険者達は王都を出て行って他のダンジョンに向かって、代わりに安全を求める人達が王都で暮らす様になったのね?」

「ああ。そうだな」


 そこでリルはハッと気付く。いつの間にかハルと手を繋いでいたのだ。

 リルはハルの手の中から自分の手をパッと抜くと、ハルを見上げた。ハルは笑っている。リルがダンジョンの話に集中している間に、ハルがしれっと手を繋いだのだ。


「ハレンチ!」

「夫婦なのだから、手を握っても良いのではないか?」

「夫婦は、そうだけど」

「それにリルも私の手を握っていたではないか?」

「あれは治療の為だし」

「そうだな。治療の為に何度も握ってくれたのだから、今更ではないか」

「だってあの頃はハルの事、なんとも思ってなかったし」

「なるほど」

「そうよ」

「しかしつい先日も握られた覚えがあるな」

「それは、だって、もうお別れだと思って、その、つい、記念にと言うか」

「今はどうなのだ?」

「今は?」

「あの頃は俺の事をなんとも思ってはいなかったのだろう?それなら今はどうなのだ?」

「今はって、あれよ」

「あれとは?」

「・・・分かってるでしょ?」

「リル?」

「・・・なに?」

「俺はリルが好きだよ」

「え?あ、うん」

「それで?」

「え?それで?」

「ああ・・・それで?」


 顔を赤くしたリルは、「もう!」と言いながらまたハルを叩いた。

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