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空腹

 空腹で目が覚めたリルは、ここがどこだか分からなくて驚いて、更に隣に半裸の男が寝ているのでとても驚いた。

 驚き過ぎて声が出なかったから、幸い男を起こしたりはしていない。


 男の事を思い出したリルは、顔を覗き込む。

 髭だらけで良く分からないけれど、顔色は良くはない様に見える。


「あれ?髪とか髭とか、こんな色だったかな?」


 初めて見た時とは大分印象が違うので違和感があるけれど、浴びせ続けた清浄魔法の所為で、髪も髭も汚れが落ちたのに違いない。

 そう考えて肯くと、リルのお(なか)が鳴った。



 リルは土ドームの外の気配を探るけれど、魔獣の存在は感じられない。


「巣穴の傍だった筈よね?」


 杖がないから探知魔法の精度も怪しいけれど、それでも魔獣がいるかいないかは分かる筈だ。

 リルは、探知魔法が間違っていて周りを魔獣が囲んでいる可能性も考えて、土魔法で横穴を掘って、寝ている男から少し離れた位置から地面に出た。


 地表は木が倒れ土は掘り返され、辺りは酷い有様だった。

 リルが倒した魔獣の死骸も見付かるけれど、既に森の掃除屋に片付けられて、ほとんど骨しか残っていない。


「魔石もほとんど取れてなかったのに」


 リルは悲しそうに呟いた。


 魔獣の死骸の残骸の様子から見て、リルが土ドームに籠もってから、既に2日は経った様に思えた。


「お腹が()く筈よね」


 その言葉にリルのお腹が鳴いて応える。


 地面を見ると、靴跡があった。あの男の物かと思ったけれど、どれも魔獣の足跡の上に付いているし、何種類かに分けられる。


「そう言えば、あの人の荷物は?」


 男が何かを持っていたのかは覚えていないけれど、少なくとも剣は持っていた。しかし男が倒れた辺りを見回しても剣は見当たらないし、当てにならない探知魔法でも見当たらない。適当な枝を拾ってまた杖にしてみたけれど、探知魔法の結果は同じ。周囲には結局、男の持ち物と思われる物は何も見付からなかった。


「たくさんの足跡はあの人の仲間のかな?それで剣を見付けて持って行った?でもそうだとすると、土のドームを見れば、その中に避難してるんじゃないかって、考えると思うんだけど?」


 そう言って土ドームを振り返ると、全然目立たない事に気付いた。

 土ドームを作る時に、魔獣の巣穴の入口を破壊したらしく、巣穴の天井が長く裂けて周囲に土が飛び散っている。それを被って、土ドームは存在感を消していた。


「巣穴を壊しちゃったから、ゴボウルフもいなくなったのかな?」


 そう言って巣穴跡を調べて見ると、そこには見逃せない足跡があった。


「イガグリズリーにそっくりだけど、少し小さい。子供かな?それともダンジョンの外ではこれくらいなのかな?」


 ダンジョン内のイガグリズリーは、身長がリルの三倍はある。


「あの人の仲間はイガグリズリーを見て逃げた?でも何人もいたみたいだから、普通は倒すわよね?ゴボウルフはイガグリズリーに追われて逃げたみたいだけど」


 巣穴の天井が壊れてしまったので、イガグリズリーはゴボウルフの巣穴の奥まで侵入したみたいだ。


「どうしよう?お腹が()いてるから早く何か食べたいけど、イガグリズリーを追ってみる?」


 ダンジョンのイガグリズリーの肉はとてもおいしい。ダンジョンの外の方がクセがないとも聞く。

 しかし土ドームからあまり離れると、男の事が心配でもある。


「取り敢えず、魔実が見付かればそれを採って帰ろう。他の魔獣でも勝てそうならそれを狩って来れば良い。食べられる何かが見付かるまでは、イガグリズリーの足跡を追おう」


 そう決めたけれどリルの口はもう既に、イガグリズリー肉の味を欲していた。



 そしてリルは、目的のイガグリズリーを見付ける。

 やはりダンジョンのよりは小さくて、リルの身長の2倍程度しかない。


 イガグリズリーは相手が自分より弱いと見れば、後ろ足で立ち上がって前足を高く振りかぶり、その鋭い爪を振り下ろして敵や獲物を倒す。


 リルの前でイガグリズリーが立ち上がって前足を振り上げると、リルは拾った枝で魔法を使い、石の礫をイガグリズリーの一方の脇の下に打ち込むと、続けて同じ側の股関節にも打ち込んだ。

 たとえ体の頑丈な魔獣でも、四肢の付け根は柔らかい。とは言え、やはりリルの魔法の制御が不充分で、威力は強過ぎだった。

 どちらの箇所も関節が砕けて肉は千切れんばかりで、イガグリズリーはもう二本足では立つことは出来ず、四つ足でも移動が出来なくなった。それでもまだ、匍匐前進の様な動きでなら逃げる事は出来る。

 リルは枝の杖をイガグリズリーに触れさせて、雷魔法で痺れさせて動く事も出来なくすると、素早く魔石を採取した。


 男の事も心配ではあったので、リルはおいしい部位優先で自分で運べるだけの肉を手に入れると、急いで土ドームに戻る。


 普段なら肉も素材も一切無駄にはしないし、しっかりと葬ってから立ち去る様にしている。

 自分の気休めでしかないし、倒された魔獣に取っては意味がない事だと分かっているけれど、先日のゴボウルフに続いて今回も、きちんとした始末が出来ていない事は、リルの心に引っ掛かりを残した。

 そうは言っても、始末に時間を掛けた所為で男に何かがあったりしたら、引っ掛かりどころか一生忘れられなくなる事が、リルには分かっていた。

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