ハルの解説
「その格好、足、痺れるでしょ?」
リルはそう言ってハルの手を持ち上げて、自分はベンチに座ったまま、片膝を突いているハルを立たせた。
「ベンチに座ってよ」
リルが導く様に手を引く事に、ハルは抵抗する。
これまで何度かリルの前に片膝を突いて来たけれど、ハルに取って今回のアクションは特別だった。それなのにリルに立たされて、ハルはリルに躱された様に感じた。
ハルは片足を突っ張って、自分からもリルの手を引く。するとリルは簡単に立ち上がらせられてしまい、よろめいてハルの体に凭れ掛かってしまった。
「あ、ごめんだけど、なにするのよ?」
そう言って謝りながらも顔を見上げて抗議するリルをハルは両腕で包む。リルはハルの胸に両手を当てて、体を離そうとした。
「ちょっと・・・ハレンチでしょ?」
「ああ」
「こう言うの、ハルの常識では結婚してからじゃないの?」
「そうだな。かなり破廉恥だ」
「そもそも結婚出来ないのもそうだけど、私の常識だとまずお付き合いして、お互いの気持ちを確認して、結婚の合意が取れてから結婚だからね?」
「私の常識でもそれほど変わらない。そこに家の事情が絡むくらいだ」
「変わるでしょ?家の格の違いとか言ったら、私とハルは結婚出来ないでしょ?私は両親もいないし、家もないし」
「まあ、結婚は置いておいたとして」
「自分がプロポーズしたんじゃない」
「そうだが、その前に、お互いの気持ちは確認できたと言う事で良いのだな?」
「・・・良いけど、結婚は出来ないからね?」
「結婚の事はしばらく置いておいて欲しい。お互いの気持ちと言うのは、私はリルが好きだし、リルは私が好きだと言う事で良いのだな?」
「それは・・・そうだけど、でも、そんなのダメでしょ?」
「何が駄目なのだ?」
「私がハルを好きになったり、ハルが私を、その、好きになったり」
「それも置いておこう」
「え?なに?なにもかも置いて、どこ行くの?」
「まずリルに命を救われた事だが、私は男性に命を救われたとしても、その事に付いてはリルに感謝しているのと同程度に、その男性にも感謝をするだろう。それは分かって貰えるだろうか?」
「・・・ええ、まあ。どちらもハルの命を救ったからと言う事よね?」
「ああ、そうだ。そして私に魔法を教えてくれたのが男性だったとしても、やはりリルへの感謝と同程度の感謝をその人物に向けるだろう」
「まあ、そうなんでしょうね」
「ああ。そしてだ。私の命を救ったのが女性でも、私に魔法を教えたのが女性でも、私はリルへの感謝と同程度の感謝をその女性に感じる筈だ」
「・・・そう」
「だが、それだけだ」
「それだけ?」
「ああ。その女性を好きになる事はない」
「なんで?だって私と同じ事をハルにするんでしょ?」
「ああ。つまり私は確かにリルに感謝をしているが、命を助けて貰ったから好きになったのではないし、魔法を教えて貰ったから好きになったのでもない。今日までのリルを見てきて、私はリルを女性として好ましいと思っているのだ」
「じゃあその女性がハルの好みに合う様に私と同じ事をしたら?」
「変わらない。男性に向けるのと同等の感謝はするが、異性として好きになる事はないだろう」
「なんで?だって私と同じ事をするのよ?なんでその人を好きにならないの?」
「私の心にはもうリルがいるのだから、好きになる筈がない」
「・・・私と出会う前だったら?」
「その相手がリルではない限り、私が好きになる事はない」
「なんで?おかしいじゃない?私とはまだ出会ってないのよ?」
「それでもやがて私はリルと出会って、私はリルを好きになる」
「どうして?そんなのおかしいわよ」
「少しもおかしくはない。私とリルが出会っても、私だけがリルに好意を抱いていたのなら、私はこれほどリルを思う事はなかっただろう」
「・・・私がハルを好きになったからって事?」
「ああ、その通りだ。お互いの気持ちがお互いに近付いて行ったから、私はリルをこれ程好ましく思うのだし、リルも同じ様に思ってくれているのではないか?」
リルはハルから視線を外すと少し俯いた。




