告白だけど違う
リルは大きく息を吐き、目を開けてハルを見る。
「私もハルが、その、たぶん好き」
ハルの顔が緩む。
「ありがとう」
「たぶんよ?たぶんだからね?」
「構わない。それでも充分だ」
「だって私、男の人、好きになんてならないって思ってたし」
「そうか。それは私もだ」
「そうなのね?」
「ああ。だが今は、私はリルが好きだ」
「あ、あの・・・ありがとう」
「ああ。まだ愛とか、良く分からないが、リルと暮らす中で、育んでいきたいと思っている」
「あ、私も良く分からないけど、ちょっと待って」
「ああ。どうしたのだ?」
「そうではなくて、私はハルが好き。たぶん。それなのに、結婚しようって言うのって、残酷でしょ?」
「残酷?私がか?」
「うん」
「何故?どこが残酷なのだ?」
「だって、結婚なんて出来ないのに、結婚しようなんて」
「私はリルと結婚する為なら、いかなる困難も克服してみせる。何故、結婚出来ないなどと決め付けるのだ?」
「だって、常識だって色々と違うし、身分だってたぶん違うんでしょ?結婚なんて、ムリに決まっているじゃない」
「差異があるならそれらは全て、私がリルに合わせよう」
「そんな簡単にいく訳ないでしょ?」
「確かに中には、リルに努力をして貰う事もあるだろう」
「それはそうよ。結婚って二人でするものだもの。ハルの努力だけで問題が全部解決する筈がないわ」
「ああ。だから、リルがその努力をしても良いと思えるくらい、リルに私の事を好きになって貰えば良いのだろう?」
「・・・そう言う考えだったんだ」
「ああ。これが伝わっていなかったのだな」
「でも、ハルとの結婚は、どう考えてもムリでしょ?」
「無理ではなくなるくらいにリルに好意を寄せて貰える様に、私は努力をすると誓う」
「でも、ムリったらムリ」
「それは、これ以上、リルが私を好きになる事はないと言う事か?」
「それ、は、分かんない、けど」
「それなら分からないではないか」
「そんなの・・・分かるわよ」
「分かった。では、終了条件を設けよう」
「え?終了条件?ってなに?」
「リルに私以外に好きな人物が出来て、その人物もリルが好きで、二人が結婚したのなら、私は一旦引き下がろう」
「一旦ってなに?引き下がる?」
「いや、リルへの思いは諦められなくても、リルとの結婚は諦めよう」
「なにそれ?私に好きな人が出来たらで良いじゃない」
「リルは今は私が好きなのだろう?」
「そうだけど、たぶんよ?」
「それなのに他の人物を好きになったのなら、また戻って私の事を好きになる可能性もあるではないか?リルが誰かを好きになっただけでは、とてもではないが諦められない」
「それを言うならハルにも、好きな人が出来るかも知れないじゃない?」
「それを条件に入れたいのなら入れても良いが、私はこれまでかなりの人数の女性の相手をして来ている」
「相手?相手って、付き合ったって事?」
「リルの言う付き合ったが、交際を指すのであるのなら違う。お見合いもしたし、そこまでではなくとも顔合わせは良く行った。そして食事やダンスをしながら、会話での交流もあった」
「それ、相手をしたって言えるの?」
「言えるだろう?いずれも結婚を前提とした交流なのだから」
「う~ん、ピンと来ない。そんなので良いなら私もあったし」
「何?そうなのか?」
「うん。治療した相手に食事に誘われたり、デートしたり」
「結婚を前提にか?」
「違うけど、結婚するなら、そう言う所からお付き合いが始まってるのが普通だから」
「付き合っていた相手がいるのか?」
「どれも二回目はなし」
「それは、なんだろう?リルが認められていない様で腹立たしいが、その一方で安堵している自分もいる」
「そう言うのじゃなくて、命を救ったお礼とかって言われたら、断り辛いじゃない?だから一回は誘いを受けるけど、二回目は断ってたの」
「同じ相手の命をまた救った場合は、また誘いを受けるのか?」
「ううん。私もそんなに暇じゃないし、そんな事があればそれはちゃんと断ってた」
「そうか」
「うん」
「では、終了条件は先程のもので良いだろうか?」
「え?なんだっけ?」
「リルに好きな人が出来て、その相手もリルが好きで、その二人が結婚したら、私はリルとの結婚を一旦諦める」
「その逆もね?」
「逆と言うのは、私が結婚をしたらリルが私を諦めると言う事か?」
「・・・要らないか」
「まあ、どちらでも良いが、私が諦めるのはあくまで結婚で、リルを好きでいる事ではないからな?」
「私の幸せを望んでくれないの?」
「もちろん望むが、それは私と一緒の未来においてだ」
「え?怖いんだけど?私の幸せを壊しに来たりはしないよね?」
「その様な事はわざわざしないが、私以外と結婚して幸せになれるとは思えない」
「なんて事言うの?」
「それにもし、リルが独身に戻ったら、私はアプローチを再開するからな?」
「え?なに言ってんの?私に子供がいたりしたらどうすんの?」
「リルの子供が小さければ、一緒に面倒を見よう」
「・・・ハルの世界って、女性は純潔を求められるんじゃないの?」
「純潔を重んじる世界とリルと、どちらが大切かと言う問題だな。もちろん、私の答えはリルだ」
「そんなの、許されるの?」
「リルの為なら許す世界を作る。必要か?」
「・・・今はいいけど」
「言って置くが、貞淑は求めるからな?」
「え?どう言う事?」
「私と結婚したら、私以外の男性に相手を求めたりしたら赦さない」
「それって前にハルが言ってた、言葉に出来ない事をするって事?」
「相手の男性にはそうだな。リルにはその様な事は出来ないから、どこかに閉じ込めて一生出さない、とか」
「普通に怖いんだけど」
「まあ、リルに浮気されるのは、私の努力が足りないからかも知れないから、その様な事にならない様に心掛けるし、実際にどうするかはその場になってだな。それにそんなあるかどうか分からない架空の未来の話より今は、いかにリルに私を好きになって貰うかの方が優先事項だ」
リルは、ハルを好きになってしまった、と思っていた。
しかしハルの話を聞いたリルは、やっぱり早まったかも知れない、と思うのだった。




