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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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親に付いて

「私は正妻の子供ではないのだ」


 その単語を直ぐに理解出来なかったリルは、ハルの言葉を繰り返した。


「せいさいの子供ではない・・・せいさい?」

「ああ。父には正妻がいたのだが、しばらく子供が出来なかった。それなので跡継ぎを作る為に、父が結婚する前に婚約者だった私の母が、父の第二夫人になったのだ」

「えっと、ごめん、ちょっと待って」

「ああ」

「・・・なんかもう、良く分かんなくなってるんだけど、第二夫人?」

「ああ。私の母は第二夫人だ」

「それって詰まり、何人も奥さんを迎えられるって事?」

「人数には限りがあるが・・・まあ、そうだな」

「そう・・・結婚する前の婚約者って?どう言う事?」

「それは、父と私の母は、婚約をしていたと言う事だ」

「・・・なるほど?」

「しかし父と母は婚約を解消した」

「・・・そう、なのね」

「ああ。そして父は正妻と結婚したのだ」

「ハルのお母さんは?」

「母が?・・・母が何だろうか?」

「ハルのお父さんとの婚約を解消したんでしょ?」

「ああ」

「その(あと)ハルのお母さんは、誰と結婚したの?」

「・・・いいや」

「いいや?」

「母は結婚しなかった」

「え?お父さんは結婚したのに、お母さんはしなかったの?」

「ああ」

「だって婚約してたんなら、お父さんが結婚したなら、お母さんも結婚できる年齢だったんじゃないの?」

「そうだが・・・婚約解消は、母の汚点だったからな」

「汚点?」

「ああ。母は、詰まり、女性としては傷物だったと言う訳だ。結婚相手として選ばれる事は、まずなかった筈だ」

「・・・なにそれ?って、それがハルの世界の常識なのね?」

「・・・そうだ」

「なによ、それ。その婚約解消って、ハルのお母さんが悪かったの?」

「・・・違うとは、思う」

「なんで婚約解消したの?理由はなに?」

「それは、父が正妻と結婚しなければならなかったからだ」

「しなければって、本人の都合じゃないのね?」

「いや、何と言うか、違うとも言い切れない」

「それ、家の都合って事?」

「まあ、そうだな」

「それって、ハルのお父さんの家や、正妻さんの家の都合なんでしょ?」

「まあ」

「ハルのお母さんの家の都合じゃないのよね?」

「・・・最終的には、母の実家も納得していた筈だ」

「・・・なにそれ?」


 リルはハルを見上げ、眉根を寄せて目を細める。


「ハルのお母さんは?・・・お母さん自身は納得してたの?」

「・・・どうだろうな」

「・・・なによ、それ」


 リルはハルの胸に拳を当てて、そこに視線を移した。

 ハルはリルが憤りを見せる様子に、リルに申し訳なく思うと共に嬉しくも感じていた。



「それで、私の母が第二夫人となって、私が生まれたのだ」

「正妻は?赤ちゃんを産んでないのね?」

「父に取っては、私が第一子だった」

「そうなんだ・・・良かった」


 そう言って笑みを浮かべるリルに、ハルも真面目な表情を返す。


「しかし、私は父とは似ても似つかない、親族の誰とも似ない髪と瞳の色を持って生まれた」

「・・・それって、今の髪や目と違う色なのよね?」

「ああ」

「今はお父さんの色だって言ってたよね?」

「ああ、そうなんだ」

「ああ、それで、髪の色を変える魔法がある事、確認したのね?」

「ああ、その通りだ」


 肯くハルをリルは見詰めた。そのまましばらく、二人は見詰め合う。


「それで?」


 そのリルの問いの口調に、ハルは今の視線に込めた気持ちが、全然全く伝わっていない様に感じた。仕方ない。


「それで、私の母は、私を産むと直ぐに亡くなったそうだ」

「え?・・・そうだったの?」

「ああ」

「それは、ごめんなさい」

「うん?いいや。それなので私は母の事を全く知らない。だからリルが謝る事などないのだ」

「あ、でも、私は両親の話とか、ハルにしちゃったし」

「いいや。大丈夫だ。却って、リルの御両親の話は、私には興味深い」

「そう?」

「ああ。だが、却ってと言うのは変か?」

「そうね?・・・変かも?」


 リルの言葉を聞いて、ハルはふっと息を吐く。


「そうか。やはり変か。夫婦とか親子とか、私の持っているイメージは、どうもズレている様だからな」

「それなのに、ズレてるのに、帰ったら結婚するの?」

「以前なら、結婚する事になっただろう」

「それって、相手の人もズレてるの?」

「まあ、リルから見たら、私も、私の結婚相手に選ばれる女性も、ズレて見えるかも知れない」


 そのハルの言葉に何も返さずに、リルはただハルをしばらく見詰めていた。



「ハルは、私と結婚しようとしてた?」

「あ?ああ。リルが結婚してくれるなら、私はリルと結婚したい」

「なんで?」

「何で?何でとは?」

「なんでハルは、私と結婚したいの?恩人だから?」

「リルは確かに恩人だが、それだからだけではない」

「恩人じゃなくても?」

「ああ」

「でも、それだと私とは出会ってもないわよ?ハルがゴボウルフに襲われてなければ、私はハルに会わなかったでしょ?」

「それは、そうだな」

「そうしたら、ハルには私は見付けられないよね?私の事を知らないわけだし」

「・・・そうだな」

「他の誰かに助けられたら、その人と結婚するかもね?」

「そうだったかも知れないが、そんな架空の話に意味はないだろう?」

「なんで?意味がないってどう言う意味?」

「私はゴボウルフに襲われたし、リルに助けて貰った。架空の話をいくらしても、その事実は変わらない」

「そうだけど、違うの。この先、ハルに何かがあって、私じゃ助けられなくて、例えば聖女様がハルを助けたら、ハルは聖女様と結婚するの?」

「いいや。私は既にリルと出会った。今後たとえ誰と出会おうとも、私はリルを選ぶ」

「もし、私がハルに魔法を教えてなくても?」

「だから、そんな仮定は意味がないだろう?」

「意味はあるわ。ハルが誰かに火魔法を教わるかも知れないじゃない?」

「・・・そう言う事か。ああ。リルが私を助けてくれなくても、リルが魔法を使えなくても、今の私はリルを選ぶと誓おう」

「助けてくれなくてもって、助けたけど?」

「いや、待て。リルは何が言いたいのだ?仮定の話をしたいのではないのか?」

「仮定じゃなくて、未来の話よ。ハルは私の事何も知らないのに、責任を取って結婚しても良いって言ってたでしょ?」

「リルの為人は理解した積もりだが?」

「積もりなだけでしょ?私の事をだんだんと知っていって、やっぱり間違えたとか、あっちの女性の方が良かったとか、なるかも知れないじゃない」

「そんな事はない」

「でも王都に戻って、直ぐに婚約者が用意されたら、そんなの分かんないじゃない」


 リルの瞳が潤むのを見て、ハルは小さく息を吐いた。


「リル?」

「・・・なに?」

「私は父を尊敬しているんだ」

「そう、なの?」

「ああ。父は正妻との結婚を最後まで拒んでいたそうだ。まあ、人伝の話なので、本当かどうかは分からないが、私は本当だと信じている」

「そうなのね」

「ああ。父は母との婚約解消を拒んだし、婚約解消をする事に決まっても、母の名誉を守ろうと力を尽くしたそうだ。その為に、正妻との間にも、不利な条件で取引をしたと聞いている」

「そうだったのね」

「跡継ぎが出来なかった時も、母を第二夫人に迎える為に、父は様々な手段を取ったそうだ」

「それは、責任を感じて?」

「もちろんそれもあるだろう。そもそも父と母の婚約も、政略が絡んだものだった筈だ。だが婚約期間を通して、父と母とは心を通わせていった。そう聞いている」

「それは・・・それを私に話すって事は、ハルにもその事が素敵に感じるのよね?」

「ああ。リルにもそう感じて貰えているのだろうか?」

「うん。ハルのお父さんとお母さんの関係が素敵に感じるのは、私とズレてないわ」

「私も、リルの御両親の事を尊敬している」

「え?尊敬?」

「ああ」

「会った事ないのに?」

「ああ」

「ヒゲを剃り残したり、忘れ物をしたりする夫婦よ?」

「それでも、冒険者達を助ける為にダンジョン内で治療をしたり、スタンピードが発生したら人々を助ける為に戻ったりしたのだろう?」

「それはそうだけど、仕事だから、ちゃんとお金を取ってたからね?」

「それは当然だ。だが、その根本にあるのは、人を助けようとする心ではないか」

「そう、だ、けど」

「それに何より、リルを育てたのだ」

「え?子供を育てたのは私の両親だけじゃなく、親なら普通そうでしょ?ハルだってお父さんはハルの事を育てたし、お母さんだってお腹の中でハルを育てたから、ハルが生まれたんじゃない」

「そうだ。だが、今、私の目の前にいるリルを育てたのは、リルの御両親だ。私が心惹かれるリルは、リルの御両親がリルの御両親だったからだ。この事で私はリルの御両親に感謝をするし、尊敬の念を抱く」

「・・・大袈裟じゃない?」

「いいや、大袈裟なものか」

「ハルの言葉から受けるイメージが、私の両親に合わないんだけど?」

「まあ、そんな気はしていた」

「え?そうなの?」

「ああ。私のリルに対する評価と、リル自身のリルに対する評価がズレているだろう?」

「え?そう?」

「そうだとも。だから、リルの御両親に対してのイメージも、私とリルとでは違うのだ」


 そう言ってハルは深く肯く。


「なんか、ハルの態度って、私より私の事を分かってるって言ってるみたいに感じるんだけど?」


 そう言ってリルはハルを睨み上げた。

 それに対してハルはもう一度肯く。


「その通りだ。私はこの世界できっと御両親の次に、リルの事を理解している」


 そう言うハルの胸をリルは、拳でドンと叩いた。

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