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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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夫婦像

 ハルはリルの頭に頬を付けながら、リルの体温を心地良く感じていた。

 リルはハルに寄り掛かり、ハルの胸元に頬を付けながら、言葉をゆっくりと口にする。


「両親は私の理想だったの」

「・・・そうか」


 話題がまた変わったのかと思ったのもあるが、リルの言葉へのハルの相槌は一拍遅れた。


「さっき言った通り、口論する事もあったけど、お父さんとお母さんはお互いの事を尊重してた。もちろん信じ合ってもいたから。良く分からないけれど、愛し合ってもいたと思う」

「良く分からない?」

「うん。家族としての愛情は分かるけど、男女間の愛情って、親は子供に見せないじゃない?」

「・・・そう、なのか」

「え?ハルのウチは違ったの?」

「・・・いや、そうかもな」

「そうかもな?」

「いや、それで?御両親がどうしたのだ?」

「うん・・・だから私も、いつか誰かと結婚して、お父さんとお母さんの様な夫婦になるのが、子供の頃の夢だったの」

「・・・そうか・・・父君がリルの理想の夫像なのだな」

「え?なんで?違うけど?」

「違う?何故なのだ?」

「何故ってなんで?両親の様な夫婦が理想だけど、私とお母さんは全然違うから」

「うん?それはそうだったのかも知れないが」

「うん」

「・・・それで?」

「え?それで?それで、詰まり、お母さんはいわゆる感覚派だけど、私はもう少し説明して貰わないと分からなかったし」


 ハルにはまた話がズレた様に思えた。どこに向かうのかは分からないが、取り敢えずハルはリルに付いて行く事にする。


「そう言えばリルは、魔法は母君に教わったと言っていたな」

「うん」

「なるほど、感覚派か。そうすると、薬師だった父君は理論派とかだろうか?」

「え?お父さんは、閃き派かな?」

「閃き?それは、感覚派とはまた別なのか?」

「うん。なんだろう?お父さんの中には色々な知識があって、それが勝手に繋がって答えが出る感じ、だったかな?お母さんは知識も経験もない事でも答えを見付ける、みたいな?」

「詰まり父君は秀才型で、母君は天才型と言う事か?」

「え?なんで?全然違うと思うけど?二人ともそんなに頭は良くなかったと思うし」

「はあ?いや、稀にリルの口から零れる御両親の話からは、お二人とも頭が切れる様な印象だが?」

「う~ん?悪くもないとは思うけど、お父さんはヒゲを剃り残す様な抜けてる人よ?お母さんはしょっちゅう忘れ物や失くし物をするおっちょこちょいだし」

「いや、そう、まあ、そうだったのか。だが、髭は私も剃り残したが」

「ヒゲ剃りに慣れなかった内じゃない」

「いや、まあ、そうだが」

「それに私はお母さんじゃないから、お父さんには男性としての魅力を感じた事はなかったし、お父さんに似たタイプは敬遠するかも?」

「そう、か。そう言うものか」

「まあ、今まで異性としての魅力を感じる男性には、出会った事がなかったから」

「・・・そうなのか?」


 ハルは自分もリルにとってはそうなのかと悲しいようでいて、他にもいないのかと少し嬉しい。


「うん。だからこれまではずっと、私には恋愛感情なんてないし、理解できないのかも知れないと思ってたの」


 リルのその言葉にハルは、「そうなのか」と呟いた。


「でもね?ハルがちょくちょく、私と一緒にいたいとか、言ってくれるでしょ?」

「ああ」

「そうするとね?ハルとの暮らしとか、考えたりしちゃうのよ」

「そうなのか?」


 ハルの声が弾む。


「でも、一緒に暮らせる訳、ないでしょ?」

「・・・それは何故だ?」


 ハルの声は沈んだ。


「え?だって、お互いの事、何も知らないのよ?」

「いや、だが、今だって一緒にいるではないか」

「これは治療の一環と言うか、治療後の経過観察や、社会復帰の為の訓練みたいなもんじゃない」

「そうだが、しかし、私はリルに好意を持っている」

「それは聞いたけど」

「それは、異性に向けた好意だ」

「でもね?もし、万が一、ハルと結ばれたとしても、私になれるのは愛人とかでしょ?」

「あ、いや」

「戻ったら、いずれ結婚するって言ってたよね?」

「・・・ああ」

「そのお相手はしかるべき家の、由緒正しき血筋のご令嬢なんじゃないの?」

「・・・私の結婚相手として、用意される女性がいるなら、そうなると思う」

「その時、私はどうしたら良いの?」

「いや・・・」

「その人とハルの結婚を見るのもイヤだし、そんな話を聞くのもイヤ。でもね?ハルが私にかまけて、その相手の人を軽んじたりするのもイヤなの」

「・・・それは、だが・・・」

「ハルの環境だと、女の人の立場は弱くて、意見なんか通らないんでしょ?男が浮気したら、奥さんと離婚して浮気相手と結婚するけど、奥さんが浮気したら、ハルが口に出来ない様な状況に置かれるんだよね?」

「確かにそう言ったが、私がリルと正式に結婚する方法もある」

「それはハルが責任を全て投げ出して、貴族を()めるって事でしょ?」

「いや、だが、それも一つの手だ」

「そんな事、私が望める訳、ないじゃない」

「だが、以前に伝えた通り、私の弟が跡を嗣ぐ事を多くの人間が望んでいるのだ」

「でも、ハルを待っててくれてる人もいるんでしょ?」

「いや、多分、私は死んだと思っている筈だ」

「多分でしょ?ハルが貴族を()めて行方をくらませても、もしその人が何年も何年も結婚しないで、ハルの帰りを待ってたらどうするの?」

「結婚?いや、待て。私には婚約者はいないと伝えなかったか?」

「婚約してなくても、ハルをずっと思って待ってるかも知れないじゃない」

「いや、私を待っているかも知れないのは、私の父だ」

「・・・お父さん?」

「ああ」

「ハルの?」

「ああ、そうだ」

「・・・そうか。ごめん」

「あ、いや」

「一人って言ったから、女性が待ってるんだと、勝手に思ってた」

「そうだったのか」

「あれ?お父さん一人?お母さんは?」

「母は亡くなっている」

「あ・・・そうだったの」

「ああ」

「知らずに、ごめんなさい」

「いや、私も何も言ってなかったし、私もリルの御両親が亡くなっている事を知らなかったではないか。お互い様だ」

「うん。赦してくれて、そう言ってくれて、ありがとう」

「いいや」


 そう言うとハルはリルの肩を抱いた。


「ついでに少し、私の話をしても良いか?」

「あの、身元がバレない様な話なら」

「ああ、それは気を付けよう。だか、私の気持ちを知る上でも、リルには少し私の事を知って欲しい」


 そう言ってハルはリルの肩を引き、リルの顔を自分の胸から離させると、リルの頬に手を当てて顔を上げさせ、リルの視線を自分に向けさせた。かなり破廉恥だ。

 リルは顔を動かさずに視線だけ一旦下げたが、一呼吸置いてからハルの目を見ると、囁く様な声で「うん」と僅かに肯いた。

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