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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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タヤのダンジョンでの治療

 リルはハルの胸から顔を離すと、ハルの胸を手で押して体を離した。


「良かったら、今晩もう一晩、一緒にいても良い?」

「ああ、もちろんだ」


 ハルは間髪入れずに肯いて、そう答える。


「私はリルと離れられる気がしないと言っただろう?」


 そう言うハルを見上げ、リルは困った様に笑った。そしてハルの体を更に押して、リルはハルの腕からも離れる。

 リルはそのまま何も言わずにハルの手を握り、その手を引いて、進んで来た森を戻ろうとした。

 ハルは手を繋いだまま追い越して、リルの前を歩いて進む。

 二人はそのまま無言で、森の奥の拠点を作れる場所まで戻った。



 これまでのいつもの様に、テーブルとベンチを土魔法で作って、リルとハルは向かい合って座った。


「それで、両親のケンカの事なんだけど」


 そう話し始めるリルに、ハルは「ああ」と肯く。


「タヤのダンジョンでは、スタンピードが起きる前から、魔物がだんだん強くなってたらしいの」

「そうなのか?」

「うん。それで、ケガをする人も少しずつ増えていって」


 リルは視線を下げた。


「・・・亡くなる人もね」

「そうだったのか」

「うん・・・」


 リルはしばらく息を止め、それから長く息を吐いて顔を上げた。


「それで両親とダンジョンの中で、治療を始めたの」

「え?ダンジョンの中でとは、危険ではないのか?」

「それは外よりは危険はあるけど、でもね?運び込まれて来た人が、僅かな時間の差で助けられない事が増えていったら、やっぱり少しでも早く治療をする為には、ダンジョン内で待つべきでしょう?」

「それは、そうなのだろうが、だが、御両親とと言ったか?」

「え?・・・うん」

「リルも怪我人を治療する為に、ダンジョン内に入ったのか?」

「うん。私も清浄魔法が使えたから。お母さんに習ったからね」

「いや、しかし、御両親は止めなかったのか?」

「ダンジョン内での治療を始める前から手伝ってたし、私が手伝わないと助けられなくなる命もあったから。お父さんは最初はちょっとイヤな顔をしてたけど、お母さんには私も手伝うものだと思われてたし」

「手伝うものだと言っても、リルだって危険だったのではないのか?」

「お父さんよりは危険じゃないから」

「父君より?」

「うん。私は清浄魔法が使えるけど、お父さんは使えなくて」

「清浄魔法がポイントなのか?」

「うん。タヤのダンジョンに出るのはアンデッド系だったから。お父さんも清水を持ってたけど、使い勝手は清浄魔法の方が良いから」

「デメース神国は多くの国民がゾンビとなってしまって滅んだと聞いたが、そもそもタヤのダンジョンがアンデッド系だったのか」


 リルは「うん」と返してまた視線を下げ、「それでね」と続けた。


「冒険者が魔物に敵わなくて敗走すると、逃げ切れなければ自分もアンデッドになってしまうの。そうするとアンデッド化した冒険者も一緒になって他の冒険者を襲って、アンデッドが鼠算式にどんどん増えて、被害に遭う冒険者もどんどん増えるの」

「なるほど」

「で、アンデッド化しても直ぐなら、清水や清浄魔法で人に戻せるんだけど、時間が経つと戻すのが難しいの」

「そうなのか。アンデッド化したらもう助からないと思っていたが、違うのだな」

「うん。ゾンビになる手前なら、時間さえ掛ければ助かる。でもね?何人も同時にアンデッド化した人が出ると、助けられる人と助けられない人が出て来るの」

「助けられない?それは、時間が足りなくて、ゾンビになってしまうと言う事か?」

「うん。ぎりぎり助かる人が二人いたら、どちらかは助けられるけど、もう一人は見捨てるしかないでしょ?」

「それは、誰を助けるのか、御両親やリルがその選択しなければならないのか?」

「もちろんそうだけど、その判断は両親が引き受けてくれてたから」

「それは・・・辛かったのだろうな」

「冒険者が探索するのは自己責任だけどね」

「いや、そうは言っても」

「うん。それなので、見捨てなければならない人が出た日には、二人きりの時に両親が抱き合ってたの」

「・・・そう言う事なのか」


 ハルはリルの両親が抱き合っていたと聞いた時に、艶めいた想像をしてしまっていた自分を恥じた。


「申し訳なかった」


 ハルのその言葉に顔を上げたリルは、ハルが頭を下げているので驚いた。


「え?何が?」

「いや、君の御両親が抱き合っていたと耳にした時、不覚にも私は邪なイメージを浮かべてしまっていた」

「そうなの?」


 ハルは「ああ」と言って、一旦顔を上げたが、また直ぐに頭を下げた。


「赦して欲しい。この通りだ」

「赦すけど、そもそも気にしてないから大丈夫だけど、邪ってどんな?」

「いや、それは、だな」

「ハレンチな事?」

「まあ、端的に言うと、そうなるが」

「でも、私の両親は夫婦なんだから、別に良いんじゃない?」

「いや、確かにそうだし、御両親には問題はないのだが、何と言うか、そうだとしても、申し訳なかった」

「そう?」


 リルはテーブルの上に手をハルに向けて伸ばした。リルの手が視界に入ったハルが顔を上げる。


「はい」


 そう言ってリルは指先を何度か折って、ハルの行動を促した。


「うん?はい?」

「うん。手を貸して」

「え?手を?」


 リルの求めるものが何なのか分からないハルは、両の手のひらを上に向けて眉根を寄せる。

 リルは小さく首を左右に振ると立ち上がり、ハルの手を取ると腕に(くる)まる様にして、隣に腰を下ろした。ハルはリルにされるままに任せ、リルが寄り掛かったら少しだけ腕に力を込めて、リルの体を僅かに抱き寄せた。


「さっき外でハルに抱き付いたでしょ?」

「あ、ああ」


 ハルはリルの言葉の続きを待ったが、リルは目を閉じてハルに更に寄り掛かり、そのまま何も言わなかった。

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