彼の方の行方【傍話】
「御用でしょうか?」
「ええ。内密にお願いがあるの」
「・・・彼の方に付いてと伺っておりますが、どの様な事なのでしょうか?」
「ええ。ハテラズの行方を確認して欲しいのよ」
「行方ですか?王宮にいらっしゃるのでは?」
「それが、少し、気になる事があって」
「気になる?それは一体?」
「私にはそれしか分からないの。それなのであなたに確認して欲しいのよ」
「確かに彼の方には追跡魔法を掛けておりますので、居場所を確認する事は出来ますが、王都より出ているのですと、大体の方角しか分かりません」
「それでも構わないわ。ハテラズがどこにいるのか分かれば良いの」
「・・・畏まりました」
そう答えて杖を構えて魔法の呪文を唱えるけれど、唱え終わると首を傾げた。
「どうしたの?」
「いえ、お待ち下さい」
そう答えてゴソゴソと準備をすると、今度は床に魔方陣を描き、杖を構えて先程より長い呪文を唱え始める。しかし呪文を唱え終わっても、魔方陣には何の変化もない。
「どうしたの?もしかして見付からないの?」
「いえ、そんなはずは」
「あら?見付かったの?」
「あ、いえ」
「見付からないのね?」
「ですが、彼の方の居場所が掴めないなんて」
「掴めないなんて?」
「そんな筈が」
「どう言う場合に掴めなくなるの?」
「・・・魔法が妨害されている場合ですとか」
「妨害されているの?」
「いいえ。その気配はありません」
「魔法が解除されたりは?」
「それは考えられません。彼の方の魂の波動を追いますので、解除と言う事があり得ません」
「そうすると、原因は分からないと言う事?」
「・・・いえ。原因としては、あと2つほど考えられますが」
「どんな原因なの?」
「1つは、その・・・」
「1つは?」
「彼の方が亡くなられている場合です」
「まあ!なんて、恐ろしい・・・もう一つは?」
「もう一つは、彼の方の魂が変質してしまっている場合です」
「その様な事があるの?」
「なくはないのですが、彼の方の場合には考えられないかと」
「考えられない?それはなぜ?」
「魂が変質すると言う事は、彼の方が魔人化した事を示します」
「ハテラズは魔人化する筈がないのね?」
「はい。彼の方は魔力をお持ちではいらっしゃいませんので、魔人化はあり得ないのです」
「そう・・・そうなのね」
「あの、あなた様が気になった事とは何なのか、教えて頂けませんか?」
「そうね。今の話も他言無用だし、これからの話も誰にも伝えてはならないわよ?」
「ですがしかし、万が一彼の方が亡くなられていたら」
「ええ。大事になるわ。だからこそ、はっきりした事が分かるまで、秘密にしなければならないでしょう?」
「ですがしかし」
「もしハテラズが生きて帰って来たら、彼が死んだと言っていたあなたの立場はどうなると思う?」
「それは・・・しかしあなた様も何らかの兆しを感じたからこそ、わたくしにお尋ねになったのではありませんか?」
「ええ。実は彼の、加護が消えた感じなの」
「加護が?」
「ええ。私が神様にお願いしてハテラズに与えて頂いていた加護が、消え去った感じなのよ」
「神様の加護が消える事なんて、あるのですか?」
「いいえ。生きている限りは普通ないわね」
「それでは」
「それだけど、本当かどうかは分からないでしょう?」
「ですがしかし」
「彼に同行している騎士もいるから、その者達が帰って来れば、本当の事が分かる筈よね?」
「それは、そうですが」
「だからそれまでは誰にも内緒よ?」
「・・・しかし」
「もしあなたが、彼が亡くなった事を前提に何かしたら、私はこの事を言い付けますからね?」
「え?いや、しかし」
「ハテラズが亡くなった事を最初に口にしたのは、あなただって」
そう言われてしまえば、何も言い返せない。
そうではなくても、逆らう事など出来ない相手ではあった。