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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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役を請け負う

「ところでだが、私より君の方が、追われる可能性があるのではないか?」


 男の質問にリルは首を傾げる。


「なんで?私よりあの彼女達の方が、女性らしいでしょ?」

「何故?私の質問への君からの回答に、あの女性達に付いて言及されている事が何故なのか、私には疑問なのだが?」

「だって私に声を掛ける男は、考えが透けて見えるじゃない?」

「君に相手の意図が読めると言うなら良かったが、待ってくれ。何の話だ?」

「二手に分かれた時に追い掛けられるとしたら、女性らしい魅力がある彼女達でしょ?」

「いや、私には冒険者の常識的な女性らしさは少しも分からないから、同意を求めないでくれ」

「え?どう言う事?じゃあなんで?」

「なんでと言うのが追われる可能性に付いてならば、私はもう死んでいる事になっているが、君は見付かっていない扱いだろう?」

「あ、そっち?」

「私はその話をしていた積もりだ」

「そっちならそうだけど、私の情報提供依頼は取り下げられてるし」

「それは私も同じだ。その上で私は死んでいるとされていたので、もうこれ以上捜される事はない。しかし君は情報提供依頼が取り下げられただけで、依頼した人間は引き続き君を捜している可能性があるのではないのか?」

「それは、確かにないとは言えないけど」

「それなら私達は、それに付いての対策を講じるべきなのではないか?」

「そうね・・・あなたに迷惑掛かるもんね」

「君は・・・本気でそう思っているのであろう事が、困る」

「え?なにが?」

「いや、良い。取り敢えず、対策を考えよう」

「うん」

「ちなみに、私への迷惑は考えなくて良い」

「え?でも」

「でもではない。こういう時はなるべく条件を付けないで、自由にアイデアを出した方が良い案が浮かぶものなのだ」

「そうなの?」

「ああ。だから、前提条件は置かずにやろう」

「分かったわ」


 リルは肯いて、しかし首を傾げた。


「でも、どこから考えれば良いんだろう?」

「そうだな・・・そう言えば、我々は夫婦には見えないのだな?」

「うん。見えないんじゃない?」

「冒険者のパーティーには見えるのか?」

「そうだとしたら、組んだばかりに見えるでしょうね」

「それは何故?」

「よそよそしいから?」

「そうなのだろうか?」

「あなたは家を飛び出して来たばかりの貴族の子弟に見えるだろうし、そうなると私は、良くてあなたが心配で付いて来てしまった、かなり身分の低い使用人ってところかしら?」

「うん?何故そうなるのだ?」

「私とあなたとの距離感だと、そんな感じだと思うわよ?」

「そう言えば、私達のお互いの呼び方に付いても、指摘があったな」

「そうね。君、あなたでも、おかしくはないけど、確かに少しよそよそしいかも」

「普通はどうするのだ?パーティーメンバー同士の呼び方は?」

「名前呼びかな?戦闘中とかに短く呼べる様に、敬称も付けないし、なんなら渾名で呼ぶし。誰だかハッキリ分かる様にね?」

「そうなのか?これまで余り、呼び方を意識した事はなかったが」

「私達は呼ばないからね。狩りも基本的に一人ずつ交代でしか(おこな)ってないし、呼び掛けもそっちとかこっちとかで間に合うし」

「そうか」

「だからよそよそしいって言われるのかもね」

「それならば、これからは名前で呼ぶのはどうだろうか?」

「え?良いけど、私はリルで良いけど、あなたは?ハル?」


 ハルと口にして、リルはニヤッとしてしまう。


「ハルで登録したから、そうだな。そうなるな」


 男は一瞬気不味そうな顔をしたが、真面目な顔を作ってそうリルに返した。


「関係はどうする?」

「関係?私と君の関係か?」

「そう。私とハルの関係」


 リルは「ハル」を少し強く発音した。


「2人だけのパーティーで、2人とも同じ剣士と言うのも、考えてみたらおかしいかも」


 リルは身元の擬装用に、カバーで装飾を隠した男の鞘に土魔法で作った剣を収め、腰に下げている。リルも以前から剣を使えたが、男から手解(てほど)きも受けていた。


「だから、師匠と弟子にする?」

「なるほど。だが、私が師匠か?」

「それはそうでしょ?どう?師匠?」

「君に色々と助けられていたのに、師匠と呼ばれるのは落ち着かないが」

「そう?あ、分かった」


 リルがまたニヤッとする。


「うん?どうしたのだ?」

「師匠って呼ばれるより、ハルって呼ばれたいんでしょ?」

「そうではない」


 男はすかさずそう答えたけれど、そう言われるとそんな気もして来てしまう。


「じゃあ師匠と弟子ではなくて、夫婦って事にする?」

「なに?」


 男がとても驚いた表情をするので、リルは慌てた。


「あ!ごめんごめん。調子に乗っちゃった」

「いや」

「ごめんね?忘れて」

「いや、私は構わないが、君は嫌ではないのか?」

「え?なんで?構うでしょ?私の夫役なんて」

「いや、何故だ?私は一切構わないが、結婚しているなどと思われたら、君は困るだろう?」

「なんで?別に困らないわよ?」

「いや、だが、知っている人に会ったら、要らぬ誤解をされるぞ?」

「構わないってば。だって、その・・・私はこの国を出る積もりだし」

「・・・そうか」

「うん」

「私の妻役は、君は嫌ではないのだな?」

「それは、うん」

「・・・そうか」

「ただし、条件があるわ」

「何だろう?なんでも構わないから、言ってくれ」

「私をリルって呼ぶ事。(きみ)でもリル殿でもなく、リルって」

「それは、もちろん、構わないが、呼び捨てで良いのだろうか?」

「え?あなたの常識は知らないけど、私の常識だと夫婦は呼び捨てよ?」

「そうか」

「私もあなたをハルって呼ぶし」

「そうか」

「どう?」


 男は「分かった」と肯くと立ち上がり、リルの傍に片膝を突いて片手を胸に当て、もう一方の手でリルの片手の指を掬った。


「君の夫役を任されるなど、とても光栄だ、リル」


 リルは男の所作に一瞬驚いたが、男が片膝を突くのがこれで3度目なので、直ぐに笑顔を返す。そして真面目な表情を浮かべるとリルは、男の手を握って立ち上がり、男を真似て片膝を突いて空いている手を胸に当てた。


「あなたに夫役を引き受けて頂けるなんて、とても光栄よ、ハル」


 男ハルはそのリルの行動に驚いたが、リルが小首を傾げて笑ったので、その笑顔に釣られてハルも笑った。

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