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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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反省会

「反省会をしましょう」


 テーブルを挟んでそう宣言をするリルに、向かいに座らされた男は首を少し傾げた。


「反省会とは、冒険者協会を氷漬けにした事に付いてだろうか?」

「ちがうから。それに氷漬けは扉だけでしょ?建物全体を凍らせたみたいに言わないで」

「それは失礼をした。申し訳ない」


 男がそう言って軽く頭を下げるとリルは「どういたしまして」と返した。そして男は顔を上げながら「しかし」と続ける。


「そうだとしたら、何についての反省なのだろうか?」

「先ずは、冒険者となったあなたに、冒険者としての常識を私が教え切れてない事ね」


 リルはそう言いながら、小さく肯いた。男も小さく何度か肯き返す。


「確かに冒険者の常識との名目で何かを教えて貰った事はないが、今言い出したと言う事は、今日のあの冒険者達との出来事に関連するのだな?」

「その通り」

「どの様な事に付いてなのだろうか?」

「まず、知らない相手に自分の事を喋らない事!」


 人差し指を立てて、と言うよりは人差し指で男の鼻先を指差す様にして、リルはそう強い口調で言った。


「自分の事?言ってはいない筈だが?」

「自分達の事もね。今日なら私達の事」

「いや、私の事も君の事も、特には話してはいない」

「私達が2人か訊かれて、そうだと答えたでしょ?」

「いや、そうだったか?」

「そうだったから」

「いや、そうだったとしても、どう見ても我々は2人な訳ではあるし、見れば分かる事ではないか?」

「2人でいるけれど、他にも仲間がいるかも知れないでしょ?」

「だが、実際には2人ではないか?」

「だから、それを断定させたのがいけないのよ」

「それは、何故?何故、いけないのだ?」

「襲われるかも知れないでしょ?」

「襲われる?あの者達にか?」

「あの人達に限らず、あなたの返事を聞いてたか、その話を又聞きしたかした人にね?」

「そんな事があるのか?」

「滅多にないけど、たまにそれらしい話は耳にするから」

「そうか。そうなのだな」

「特にあなたも私も情報に報酬が掛けられてたし、あなたは命が狙われるかも知れないんでしょ?用心した方が良いに決まってるから」

「分かった。気を付けよう」

「うん。それで?私達が王都に行くのも話したの?」

「いや、私は言ってはない筈だが」

「だとしたら、私達がどっちから来たのか、見てたのかもね?」

「どちらからとは、街に入る時にか?」

「うん」

「・・・声を掛けて来たのは、偶然ではないかも知れないと言う事か?」

「うん。獲物を待ち構えてたのかもね?」

「それは、我々に何をしようとしてなのだ?」

「分からないわ。荷物を奪おうとしたのか、命を奪おうとしたのか、奴隷として売ろうとしたのか」

「奴隷?人身売買は法で禁止されているが」

「それでも他国に売られるみたいな話は耳にした事があるわよ?」

「いや、確かに犯罪としてはあるが」

「あるんだ」

「だが、こんな日中に街中で、攫おうとするだろうか?」

「後を付けて、人気のないとこでなら、あり得るわ」

「・・・仲間を喚んでか?」

「そうでしょうね」


 男は口を曲げて険しい表情を作ると、その表情のまま視線を下げる。


「まあ、あなたが狙いだったんだとは思うけど」


 リルの言葉が軽い口調なので男はふっと顔を上げ、肩を竦めているリルを見た。


「追っ手だったと言う事か?」

「違うわよ。あなたが良い男だったから、一緒に旅に付いて来て、モノにしちゃおうって事よ」

「モノに?」

「モノに」

「それは、もしかしたら、男女の仲的な事か?」

「うん」

「いや、しかし、彼女達は、冒険者同士の恋愛は禁じられているとか何とか、言っていなかったか?」

「うん。男女でパーティーを組んだら、パーティー内は恋愛禁止が普通だって言ってたし、普通はそうするけど、他のパーティーの人との恋愛までダメな訳じゃないから」

「いや、しかし、私は今日も魔力は漏らしてはいなかった筈だが?」

「え?その通りだけど、何の事?」

「それならモノにしようなどとは狙われないのではないか?」

「あなたの見た目が彼女達を惹き付けたろうし、物腰で育ちが良いのもバレてるわよ」

「見た目?」

「顔が整っていて優しそうで、背もスラリと高いしそこそこ筋肉も付いてるでしょ?」

「顔は、髭を剃ったら確かに父に似てはいるが」

「それって、お父さんはモテたって事?その顔に似てるなら、モテたろうけど」

「そうらしいが、そうではなく、そんな事で付いて行こうとするものなのか?」

「分かんないけど、彼女達がああ見えて実はもの凄い実力を持ってて、あなたの強さを感じ取ってた可能性もあるかな?」

「いや、私の魔力は漏れてはいなかったのだろう?」

「私はそう感じたけれど、私よりレベルがずっと上なら分かるかも知れないでしょ?」

「そうなのか?」

「そう考えると、初心者っぽいのも演技だったのかも知れないしね?」

「それは・・・そう言う事を考え始めると、恐ろしいな」

「だから自分や自分達の情報は漏らしてはダメなのよ」

「なるほど」

「まあ、私もあなたを責められないけどね」

「ああ。君も男達に囲まれていたものな」

「そうではなくて、ミディアの件よ」

「うん?あれがどうしたのだ?」

「外でミディアを見たのが初めてだったから、あの大きさでまさか有名なボスだとは思わなくて、角を見せびらかしてたでしょ?」

「運ぶのに仕方なかっただけで、見せびらかした訳ではないだろう?」

「でも結果としては、あなたが目立たない様にする為には、角は捨てるべきだったから」

「私達は知らなかったのだから、仕方ないではないか?」

「冒険者は、仕方なかったから仕方ないでは済まないの。命に関わるし」

「それは、君の言う通りなのかも知れないが、しかし不可抗力と言う事もあるではないか?」

「でもあれで目を付けられて、お金を持ってると思われて襲われたら、それはやっぱり私の所為なの」

「いやそれは、襲う人間の所為だろう?」

「ううん。襲う人間を引き寄せた私が悪いのよ」

「いや、どう考えたって、襲う人間の方が悪いではないか?」

「悪い人間はどうしたっているんだから、それに備えられないのは悪い事なの。これは冒険者の常識」


 リルにそう言い切られると、男は言葉を返せなかった。

 そして悪い人間がいるのは冒険者に限らない事を男は思っていた。

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