リルの拒否
「ちょっと待てよ!」
冒険者が後ろからリルの肩を掴もうとするが、男がリルをリードしてそれを躱させる。
「あなた達、王都に行くのでしょ?」
冒険者のその言葉に、リルは男を見上げて睨んだ。
「私達も同行させて貰えない?」
「おーとに行くならいっしょにいこ~」
「ケンカしながら一緒に旅をするのは危険だよ?」
「腕次第じゃ、あんたは俺達と一緒の方が良いぜ?」
「止めとけってば」
しかし男は、何故睨まれるのか分からず、困惑を顔に浮かべる。
「どうしたのだ?」
「別に」
「いや、君、怒っているだろう?私の事か?」
「別に、あなたの事なんて怒ってません」
リルは男から顔を逸らして前を向くと、男の腕を引っ張って歩き出した。
「2人きりだと、雰囲気悪くなった時に辛いでしょう?」
「あたしたちがいれば、そんな事ないよ~?」
「それより僕達と行かないか?」
「あんたが王都に行くなら、格安で護衛してやっても良いぜ?」
「護衛なんて、ダメだって」
男はリルの足に合わせて、隣に並ぶ。
「私はなにか君の機嫌を損ねる様な事をしたのだろうか?」
「あなたの所為じゃないって言ってるでしょ?」
男がリルの顔を覗き込むけれど、リルは男から顔を逸らす。
「2人は出会って間もないの?」
「きみとかあなたとか、たにんぎょーぎだよね~?」
「そうだね。名前を教えてよ?」
「会ったばかりなら、王都に行くのは俺達とだって良いだろう?」
「王都に行くなんて、勝手に決めたらダメだって」
リルと男は冒険者協会の建物から出ると、その後を冒険者達が付いて来ているのに、リルが扉を閉めようとした。付いて来た冒険者が開けようとするのをリルが抑えたので、男も扉を閉める様にリルに協力する。
「抑えてて」
リルの言葉に男は「ああ」と応えたが、そのままリルが冒険者協会の建物から離れて行くので驚いた。
「いや、待ってくれ!」
「ちょっと待ってて!」
リルは顔だけ男を振り向いてそう言うと、近くの木から枝を折り取る。それを手に持って男の下に戻った。
そして扉に向けて枝を構える。リルが魔法を使うと扉は氷漬けになった。
「良いのか?」
「何が?」
リルは男の腕を取り、街の城門へと足を向ける。
「あれでは建物への出入りが、出来ないのではないか?」
「直ぐに融けるし、裏口もあるわ」
「それでも、他の人に迷惑になるのではないか?」
「他の人って、私達とあの冒険者達の遣り取りを面白そうに見ていた連中の事?」
「そうなのか?」
「協会の職員も見ているだけじゃなくて、笑ったりしてたのよ?」
「え?そうだったのか?」
「うん。杖を使って加減した氷だから、溶かそうと思えば直ぐに溶かせるけど、火魔法を使ったら建物が焦げるかもね」
「え?それは不味いのではないか?」
「熱魔法で溶かせば良いのよ」
「いや、しかし、君以外に熱魔法が使える冒険者がいるのか?」
「さあ?」
「さあって・・・」
その時、冒険者協会の建物で、大きな音が響いた。
男は振り返って足を止めそうになったが、リルはその腕を引っ張って進む。そして足を止めずに振り向いたリルは、口角を上げた。
「弱い火魔法で溶かせなくて、爆発系の魔法を使ったみたいね?」
「そんな、大丈夫なのか?」
「ヤケドしてる人はいるけど、あの程度なら直ぐに治るわ。ポーションを使えば一瞬だし」
「それなら良かったが」
「でも冒険者協会の建物内であんな魔法を使ったら、しばらくは取り調べを受けて自由に出歩けないから」
「それって、君もではないのか?」
「私は建物の外で使ったから、セーフ」
そう言ってリルは意地悪そうな微笑みを男に向ける。
男は息を大きく吐いて、腕の力を抜いた。
リルは口角を上げたまま、眉尻を下げる。
「私の事、呆れた?」
「いいや」
男は即答した。
「不思議な事に私は、君に害が及ばないのなら、他はどうでも良いと思ってしまった」
そう言ってイタズラっぽく笑った顔を向ける男に、リルは笑顔を返した。




