どうする?
係員に押されて買い取りカウンターから離れると、他の冒険者がリルと男に声を掛けて来た。
「あんたら、ケンカか?」
「良くあるんだよね。お金で揉める事って」
「1度揉めると、次から次へと不満が出て来るからな」
「そうそう。ねえ?そんなお金に汚いやつ放って置いて、僕達と組まないか?」
「俺達はクリーンだぜ?」
「誰が仕留めても割り勘だから、揉めた事なんてないよ?」
「そんなひょろいあんちゃんと組むの止めて、俺達と組もうぜ?」
「え?私に言ってたの?」
リルは驚いて冒険者達に思わず確認した。男は溜め息を吐く。
「どう聞いても君への勧誘だろう?」
「この見た目なら、あなたの方が強そうに見える筈じゃない」
「それで言えば、君の見た目に惹き付けられたのかも知れないではないか?」
「華奢なのに?」
「もしかして、私が君の事を華奢と表現した事に付いて、腹を立てていたのか?」
「そうじゃないけどだってお金に汚いって言うから、あなたの事の筈はないし」
そこに別の冒険者達が話に入る。
「なになに~?もめごと~?」
「さっき2人、お金で揉めてたよね?」
「そーなの?お金はキッチリしなきゃだめだよ~?」
「2人は2人で組んでるの?」
「そうだが」
冒険者の質問に男が答えたので、リルは驚いて思わず一歩下がって男を見た。
「特に2人は男と女なんだから、お金の事も恋愛も、キッチリ線を引かなくちゃ」
「恋愛?」
「男女でパーティーを組んだら、パーティー内は恋愛禁止が普通でしょう?」
「そうなのか?」
「そーそーそ~だよ?じょーしきじゃない?」
「2人もそんな関係じゃないんでしょ?」
「それは、まあ、そうだが」
男から少し離れたリルは、先程の冒険者達に話し掛けられる。
「君、ここらの人じゃないんだろ?」
「見ない顔だもんな」
「良かったら僕らが案内するよ?」
「俺ら、ここらじゃ有名なんだぜ?」
「そうそう、それに凄い人がバックに付いてるし」
「いや~、それは言ったらヤバいって」
「良いじゃんかよ?」
「そうだよ。良かったら君も紹介して上げるよ?」
リルは囲まれた冒険者達に攻め寄られている様に、どんどん男の視界から外れて行く。
「あの女の子も剣士よね?」
「それであなたも剣士でしょ~?」
「まあ」
「剣、結構凄いんじゃない?私、そう言うの分かるから」
「でも~、2人とも剣士ってバランス悪くない~?」
「いや」
「何言ってんの?剣士同士、分かる所があるのよね?」
「そーなの?」
「それは、まあ」
「剣はあなたがあの子に教えたの?」
「そうではないが」
「私、いま弓だけど、剣も習いたいのよね」
「あたしも、まほーだけだとね~」
男の方もリルが視界に入らない位置に、追われて行った。
「あんたなら気に入られるかもな」
「いや、ヤバいって」
「なんでだい?」
「こんな弱そうなの連れてったら、俺らが怒られるぞ?」
「そんな事ねえよ。体、軽そうじゃねえか?」
「まあ、君が望めばだから。紹介はいつでも出来るしね?」
「なあ、あんた?結構動けんだろ?」
「だから、止めとけって、こんな女」
「まあまあ、少しで良いから、僕達に付き合ってよ?」
「剣の腕、見せてみろよ」
「マジで連れてくのかよ?」
「そうだね。腕を見せて貰ってからの方が、お互いに理解し易いかな?」
「そうだぜ。ほら、行こうぜ」
冒険者の一人がリルの手首を掴もうと伸ばした手首を男が掴んだ。
「彼女には触れるな」
リルは突然現れた男に驚いて、また一歩男から下がった。
「なんだお前?」
「大丈夫か?」
男は冒険者の言葉を無視して、リルを見る。
「あなた、今まであっちにいたでしょ?それとも、私の勘違い?」
「おい」
「いや、まあ、危ないかと思って、急いで来たのだが」
「おい!」
「別に、危なくはないわよ」
「今は僕達が彼女と話してるんだよ」
「だが、徐々に連れて行かれていたじゃないか?」
「君は関係ないのだから」
「あなたの様子を探知するのに、この人達が邪魔だから避けていたのよ」
「お前ら!話を聞け!」
「うるさい!」
リルが怒鳴り返すと、男は掴んでいた冒険者の腕を押して放した。
「私が腕を掴んでいたから、彼達はこの場に留まるしかなかったのだ。怒らないでやってくれ」
「そうじゃないけど、それなら」
男は冒険者の手首を掴んでいた手をリルに差し出した。リルがその手を無意識に握ろうとすると、男は手を引き戻す。
「お兄さん?急にいなくなったから、驚いたわ」
「え?なんで?」
「ほんと、すばやかったよね~?ごくい?なんかのごくいだった~?」
「まず、清浄魔法を掛けて貰えないか?」
「なんだお前ら?」
「清浄魔法?どこに」
「君達?今は僕達が彼女と話しているのだから、君達との話は後にして貰える?」
男はもう1度、手をリルに差し出す。
「私の手に」
「もしかして、筋力強化?」
「なんで?」
「おい?ヤバいんじゃないか?」
「いや、他の男を掴んだ手で、君に触れたくない」
「え?ホント?」
「え?どうして?」
「お前ら!邪魔すんなよ!」
「どうしても何もないのだが、頼めないだろうか?」
「だって、あのスピードだよ?」
「まあ、良いけど」
リルは男の手に清浄魔法を掛けた。
「え?今のはなんだい?」
「ありがとう」
「なにいまの~?」
「うん」
肯くリルの手を男は握った。
「ほら?ヤバかったじゃん?」
「え?どうするの?」
「なんかの魔法でしょ?」
「まだ、彼等と話すのか?」
「なんだよ?今の?」
「別に話してなんかないけど?」
「神殿のまほ~?」
「いや、彼等からパーティーに誘われていたではないか?」
「君?剣だけじゃなくて、魔法も使えるの?」
「そうなの?」
「神殿のって、聖女の?」
「そうなのって、そうだったろう?」
「あんた?剣士じゃないのか?」
「あなたの方に注意を向けてたから、良く分からないけど?」
「そーそー。で?そーだった?」
「注意って、私に?どうして?」
「僕も魔法は得意なんだ」
「だって、この人達に付いて行きそうだったでしょ?」
「私には分からないけど、そうなの?」
「その様な事は一切ない」
「あんたのその腰の剣、飾りじゃないなら腕を見せてみろよ?」
「あるわよ。色々と情報を渡していたでしょ?」
「そうなんじゃない?」
「いいや、私は君が大丈夫なのか、ずっと注意を向けていただけだ」
「良ければ僕が手解きをするよ?」
「じゃあ、もしかして私と一緒?」
「でもあれって秘術じゃなかったの?」
「ああ。そうだったみたいだな」
「ほら、やっぱし、止めといた方が良かったんじゃないか?」
「それならあなたも、もう話さなくても良いの?」
「秘術の筈だけどね~?」
「ああ、私はそれで良い」
「どうするんだよ?」
「それってどうするの?」
「どうするのさ?」
「どうするのかな~?」
「どうする?」
「じゃあ行きましょうか?」
「ああ、そうしよう」
男はエスコートする様に、リルの手を導いた。




