表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/189

各々の理由

 夕食として焼いたイガグリズリーの肉を食べながら、男はふと思い出した事をリルに尋ねた。


「そう言えば、素材不足で品物が高いと言っていたが」

「あの武具屋の人ね?うん。そうね」

「君は魔石が相場通りの様な事を言っていたのではなかったか?」

「うん。私が売った時よね?」

「ああ」

「大体、相場通りだったけど?」

「魔石は相場通りで、他の素材は値段が高騰しているのか?」

「ああ、その事」

「もしかしたら魔石は充分に供給があるのか?君も私も売ったのは魔石だけだったが、冒険者はそうする事が多いのか?」

「魔石は持ち帰り易いから、その傾向はあるけど」

「あるけれど?」

「武器や防具の素材って、ダンジョン産がメインなの。私やあなたが売ったのは、外の魔石でしょ?」

「外?」

「そう。ダンジョンの外のね」

「ああ、なるほど。こういう普通の場所は、ダンジョンの外と考えるのか」

「うん。ダンジョン内の魔獣の方が強くて、その素材も高性能なのよ。冒険者の道具はダンジョン産でないと、ダンジョン内の魔獣を倒せなかったりするから」

「そうなのか」

「うん。日用品とかには外産のが使われるけど、外産は別に品不足ではないんでしょうね」

「だから相場通りの値段だったのか」

「うん。そう思うわ」

「なるほど」


 納得して肯いていた男は、別件を思い出した。


「そうだ」

「なに?」

「もう一つ教えて欲しい」

「うん。なに?」

「私は背が伸びたのか?」

「うん。手脚、長くなってるでしょ?自分では分かんないのかな?」

「いや、分からないが、何故なのだ?」

「え?知らないけど?ズボンとか服を作り直した時に、長くなってたけど?」

「それは魔力や魔法の影響などではないのだな?」

「う~ん?聞いた事ないけどね?分かんないけど」

「そうか・・・」

「体調が良くなったのとか、関係あるのかな?」

「そうなのだろうか?」

「どうだろう?あ!あなた、しばらく寝っ放しだったじゃない?」

「ああ」

「寝る子は育つって言うじゃない?」

「・・・育ったと言うのか?」

「うん」

「私の身長の伸びは、既に止まっていた筈なのだが?」

「そう?ヒゲ剃って若返った、は、背が伸びた後か」

「そうだな。中身が若返った訳ではないが」

「もしかして、肉食が続いたから?」

「なるほど。魔獣の肉か」

「うん」

「しかしそれなら、君のポーションの方が、私の体を作り替えそうだ」

「ああ、そうね。確かに」


 リルは納得して「確かにそうね」と笑顔を男に向けた。男はポーションの臭さを思い浮かべていたので、リルの笑顔に苦笑する。


「ああ、そう言えばもう一つ」

「なに?」

「冒険者登録の時に、君は離れて見ていたな?」

「え?うん」

「何かあったのか?」

「え?何かって?」

「離れて見ていた事に、何か理由があったのだろうか?」

「だって、傍にいたら、あなたの名前が見えちゃうから」

「名前?」

「うん。名前、知ったらマズいでしょ?」

「ああ、なるほど。それでか」

「なんで?そうでしょ?」

「いや、仲間と思われたくないのだろうかとか、思われたら不具合があるのだろうかとか、考えてしまっていた」

「そんな訳ないでしょ?その後も一緒に換金したり、防具選んだりしたじゃない?」

「それはそうなのだが、ちなみに私が冒険者登録で使ったのは本名ではないぞ?」

「え?そうなの?」

「本名を使っている冒険者はいないのではないか?」

「え?そうなの?」

「君は・・・そうか」

「確かに変な名前の人多いけど、ベアとかウルフとかドラゴンとか」

「そうらしいな。自称で登録するから、役所が本人確認をする時は大変なので、本名登録を義務付けたが、形骸化しているらしいからな」

「あなたもウルフとかにしたの?」

「いや」

「なんて名前?」


 男はリルから視線を外した。


「え?なんて名前?本名じゃないなら、教えてよ?」

「・・・ハルだ」


 男は顔を少しだけ背けたまま、小さめな声で答えた。


「え?ハル?可愛いけど、あれ?ちょっと?なんで恥ずかしそうなの?」

「何でもない。いや、違う。恥ずかしがってなどいない」

「少し女性っぽいけど、もしかして恋人の名前?」

「違う、恋人などいない」

「婚約者も奥さんもいなかったよね?」

「ああ、いた事はない」

「じゃあ憧れの人?初恋の相手?」

「そうではない。そんな事はない」

「もしかして?娘が生まれたら付けようと思ってる名前とか?」


 男はリルを見た。目は細めて、眉根も寄せている。


「・・・なんだそれは?」


 男は心底不思議そうな顔と声で、リルに返した。


 リルの口にした喩えは、男の常識にはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ