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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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街に入る

「魔石、1つ出して置いて」


 街に入る直前にリルにそう言われ、男は「魔石を?」と聞き返した。


「袋に入ってるゴボウルフの魔石、1個取り出して手に持ってて」

「それはなぜ?」

「街に入る時に使うから」

「そうなのか?分かった」


 男が以前に街に入った時には、従者が全ての手配を済ませていた。それなので街への入場手続きが分からない男は、魔石が必要だと言うリルの言葉に肯いて従った。


 街の城門には門兵が2人付いている。


「止まれ」


 門兵2人の内、年配の方がリルと男に声を掛けた。

 リルは自分の冒険者証を見せながら、男に近付く。


「こちらの人が荷物をなくして、身分証を作りに来ました」


 リルはもう1人の門番の視線を塞ぐ位置に立ち、手振りで男に促す。男はそれを察して、年配門兵に魔石を手渡した。

 年配門兵は手の中の魔石をチラリと見て肯いた。


「それは大変だったな。良し、通れ」

「ありがとうございます。さあ行こう」


 リルが男の服の肘を掴んで先に立ち、2人はそのまま門を(くぐ)る。

 すれ違い様に男が若い方の門兵を見ると、その若年門兵は渋い顔をして年配門兵を見ていた。


 門から離れて、男はリルに囁く。


「今の魔石は賄賂と言う事だな?」

「そうね。ちゃんと手続きしても良いけど、あなたは身分を明かさないんじゃないの?」

「確かにそうだが」

「面倒臭い書類なんて、私達も書きたくはないけど、あの人達も書かせたくないのよ。お互い様ね」

「しかしこんなにも緩い警備で、街は大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。あの人達も、本当に危なそうな人は止めるでしょうから」

「そうなのか?」

「私は冒険者証で身元を明かしたし、あなたはヒゲも髪も切って爽やかな優男だし」

「優男?私が?」

「え~?鏡見て、自分でも思わなかった?」

「・・・正直、弱そうには見えた」

「弱そうじゃなくて、上品で優しそうよ?」

「そうか」

「うん」

「君がそう言ってくれるのなら、折角だから優しいと自分でも思う事にする」

「な~に?気に入らないの?弱そうよりは良いでしょ?」

「ああ。そう思うよ」


 苦笑いをする男を見て、リルは肩を竦めた。



「どうする?ホントに身分証を作る?」

「街を出る時にも必要になるのだろう?」

「ううん。出て行く人のチェックはしないわよ?」

「そうなのか?」

「ええ。でも次の街に入る時には、やっぱり身分証の提示を求められるけどね」

「それならば作ろう」

「うん。冒険者登録なら簡単だけど、それで良い?他にも商人とかも、売る物があれば簡単らしいけど」

「いや。冒険者でお願いする」


 男は表情を引き締めたけれど、その顔が少し嬉しそうにリルには見えた。


「じゃあ冒険者協会に行きましょう」


 リルは男の服の肘を掴んだまま、男を促して歩き始めた。



「先に少し換金するね?」


 冒険者協会の建物に入ると、リルは男の服から手を離して、買い取りカウンターに向かう。男はその後ろを付いて行く。


「買い取りをお願いします」

「ああ」


 リルがカウンター上のトレーに魔石を置くと、係員はそれを手に持って良く確認しながら、チェック表の上に駒を置いて行く。


「イガグリズリーだろ?」

「ええ」

「魔石だけかい?皮や肉は?」

「魔石だけで」

「そうか。こんなもんだね」


 係員はチェック結果をリルに見せ、値段を提示する。


「それで結構です」

「はいよ」


 係員は魔石をカウンターの下に下げ、代わりにトレーに金を置いた。


「皮や肉も買い取ってるから、よろしく」

「ええ」


 リルは金を取って袋に入れると、カウンターを離れた。


「ずいぶんとあっさりとした取引だな?」

「魔石には相場があるから、だいたい予想通りの値段だったからね」

「予想と違う事もあるのか?」

「うん。魔獣が大量発生したりすると、魔石も肉や皮も買い取り価格は下がるから」

「なるほど。需要と供給で売買価格は決まるのだな」

「なんでもそうでしょ?素材も薬も食べ物も」

「まあ、そうなのだろう」


 リルが立ち止ると男も足を止めた。リルは男の顔を見上げ、手を翳して耳打ちをする。


「もしかして、買い物とかした事がないの?」


 耳に掛かるリルの息を擽ったく感じて男は頭を逸らした状態で、リルに向かってほんの少しだけ肯いてみせた。


「そう。分かったわ。今日の売り買いの遣り取りは、先ずは取り敢えず私がするからね?」


 肯き返してそう言うリルに、男は「お願いする」と言ってまた肯いた。

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