魔法陣と魔力波
「どう言う事だ?」
リルの持つ手鏡からも男の声が出る。
「これ、手鏡を持つ相手と、離れた所にいても会話が出来る魔導具なんだ」
そのリルの声も男の持つ手鏡からも出ていた。
「そっちには私の顔が映ってるでしょ?」
「ああ」
「こっちにはあなたが映ってるわよ?」
リルは手鏡の鏡面を男に見せた。そこには男の驚いている顔が映っている。
「こんな凄い魔導具を作れるなんて凄いじゃないか!」
「そんなに凄くもないんだけど」
「これはどれくらい離れて使う事が出来るんだ?」
「使う人の魔力次第」
「そうなのか?」
「うん。あなたなら、かなり遠くで使えるんじゃない?」
「これは・・・これが世の中に広まれば、とんでもない事になる」
男が呟く様に言った言葉に、リルは「どうだろ?」と首を傾げた。
「いや、だが、遠くの人間と話せるのだろう?」
「でも、相手の魔力波が分かってないとだし」
そう言うとリルは男に向けて手を出して、「貸して」と言って手鏡を受け取る。そして自分の持っていた手鏡と一緒にテーブルの上に並べて置くと、一旦しまって置いた最初の手鏡もその隣に並べた。
「魔法陣の中のここが3枚とも違うでしょ?」
「ああ、確かに」
「これが、相手の魔力波を表してるの」
「魔力波?これが?」
「うん。こっちはあなたの魔力波で、こっちは私の」
「この、君が髪を切った時に使っていた物は、波形が2つあるな」
「うん。こっちは3人で使う為の物だから。それであなたが持ってたのには私の波形、私が持ってたのにはあなたの波形が描かれてて、この2つは私達専用って事なのよ」
「会話をする相手の波形が書かれている鏡を使うのか」
「うん」
「他の相手と会話したい時は、この波形を書き換えるのだな?」
「うん。その別の相手の人も、あなたの波形が書かれた手鏡を持ってる必要があるけどね」
「なるほど」
「それに書き換え前に会話してた人が、もう一度あなたと会話しようとしても、あなたが他の人の波形に変えてたら繋がらないわ」
「そうか。そう言う事なのか」
「うん」
「これは、もっと汎用的に、誰とでも会話出来る様には出来ないのだろうか?」
「こっちのみたいに、相手2人分の波形を3つの手鏡それぞれに書けば、3人で使える様になるけど、色々な人と話したいなら、それだけ波形を書かなくちゃだし、それにどれだけ書いても一度には1人としか話せないから」
「一度に1人でも良いが、波形をたくさん書くのは難しいな」
「波形が2つでも、どっちの波形に魔力を流すかはコツがいるから、私なら5人位がコントロールの限界かな?」
「そうなのか。折角凄い魔導具なのに、勿体ないな」
「凄いって言っても、迷子のお守りとして作られた物だから」
「迷子?」
「うん。私が迷子になった時、両親が探し易い様にって、作ってくれたの」
「そうなのか。それならこの2つの波形は」
「うん。両親の魔力波ね」
「なるほど。御両親が心配して、君に持たせたのか」
「そうだけど、そんなに迷子になったりしてなかったからね?」
「そうだとしても、万が一を考えて、御両親は用意したのだろうな」
「・・・ええ、多分」
「だが、魔力波とか波形とか、一体何なのだ?」
「何なのだって、魔力って波打ってるでしょ?」
「そうなのか?いや、私は、魔法関係の知識は全然持ち合わせていないのだ」
「そうだった。うん、そうなのよ。それでね?魔力の波って、一人一人違うの」
「そうなのか」
「うん。双子って分かる?」
「ああ、双生児の事だな?」
「うん。そっくりな双子だと魔力波もそっくりで区別付かないんだけど、普通は両親から半分ずつ波形を受け継いで、その人の固有の波が決まるの」
「半分ずつ?」
「うん。この私の両親の波形って、分解するとそれぞれこんな風に表せるの」
「分解?」
「うん。波って、単純な形の波が合わさって、複雑な波が出来るから、元の波に分解して表す事も出来るのよ」
「なるほどな」
「それでね?父のこの部分と母のこの部分を合わせると、私のこの部分になるの」
「なるほど、そう見るのか」
「うん」
「御両親の残りの部分はどうするのだ?」
「どうするって、私に兄弟がいれば、私に来なかった部分の波形を受け継いでるかも知れないけど、私は一人っ子だったから、受け継がれなくて終わりね?」
「そう言うものなのか」
「うん」
リルが一人っ子だと聞いて、男は立ち入り過ぎかも知れないと警戒した。男は話を変えようとする。
「私の魔力波はどうやって調べたのだ?」
「どうって、治療する時に調べたけど」
「探知魔法か?」
「うん。でも今なら見れば分かるかな?」
「見ればとは?」
「魔力を漏らしているのを感じられる人が相手なら、その漏れてる魔力から分かるから」
「凄いな」
「あなたとの練習で、私だって魔力操作が上手くなってるからね」
「それは、追い付くのが大変だ」
「追い付かせないし」
顎を少し上げてそう言うリルの態度に、男は微笑んだ。
「それでこそ、追い掛け甲斐がある」
「諦めないの?」
「君が逃げるのを諦めるまでは」
「じゃあ、一生逃げ切って見せるから」
そう言ってリルも笑った。
「もう一度、試して良いだろうか?」
「うん。気に入った?」
「ああ。素晴らしい魔導具だし、凄い技術だと思う」
「街に持って行ってみる?逸れた時の為に」
「そうだな。これを持ち歩けば、連絡が取りたい時には便利だな」
「うん」
「だが、手鏡と言うのは女性の物ではないのか?」
「そう?」
「私の常識ではそうなのだが、これは私でも作れるのだろうか?」
「やってみる?私の波形が描かれてるの、作ってみてよ」
「ああ」
男は土魔法で、リルが作った物とそっくりな手鏡を作った。
「凄い。そっくりじゃない?」
「だが、鏡にはなっていない」
「鏡にするのは光魔法だからね」
「そうか。そうだったな」
「でも、魔法陣には相手の姿を映す光魔法も組み込まれてるから、ちゃんと出来てればさっきみたいに使える筈」
「そうなのか?」
「うん。ねえ?魔力を流してみて?」
「ああ」
男が作った手鏡に魔力を籠めると、男の魔力の波形が描かれた手鏡が、テーブルの上で振動した。
「凄い」
そう言ってリルは振動している手鏡を手にして、それに魔力を籠める。すると男の持つ手鏡に、リルの顔が映った。
「凄いわ!一発で完璧に作れるなんて!ホント凄い!」
リルはそう言って手鏡を持ったまま両手で、手鏡を持ったままの男の両手を握った。
リルの余りの喜びように男は、破廉恥だから手を放すようにとは言い出せなかった。




