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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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やっぱりダメ

 2人は手を繋いだまま向き合う。リルも男も、なんとなく手を離し(がた)く感じていた。


「あなたはオフリーに行くのよね?」

「いや。王都に帰ろうかと思う」

「え?でも、あなたの乗っていた馬はオフリーの方に向かったわよ?」


 リルは街道の一方を指差した。


「馬を捜さなくて良いの?」

「馬を誰かが捕まえているのなら、私の同行者が既に回収しているだろう」

「そうか。あなたの事を探しているでしょうしね」

「・・・そうだな」


 男は視線を落としてから「うん?」と首を傾げ、顔を上げた。


「リル殿はオフリーから来たのか?」

「うん、そうよ」

「そうなると、私も王都に向かうのだから、まだしばらくはリル殿と同行出来ると言う事だな?」


 大袈裟な別れの儀式をした後なので、男の心には少し羞恥が浮かんだけれど、リルとまだしばらくは一緒にいられる事が喜ばしくもあった。

 しかしリルの反応は芳しくない。それを見て男はまた少し首を傾げる。


「そう言えばリル殿の旅には、目的地があるのか?」

「うん。故郷に帰ろうと思って」

「そうだったのか。リル殿の故郷はどこなのだ?」


 男のその質問にリルは緊張をみせる。


「あ、いや、リル殿の故郷まで、追っていったりはしない。忘れると言ったら忘れるから、安心して欲しい」

「忘れるなら訊かなくても良いでしょ?」


 リルの声の調子が硬いので、男は「その通りだな」と引き下がった。

 リルは一旦視線を落とし、顔を上げて口を開く。


「イザンに行こうと思っているの」

「イザン?リル殿はイザン工国の生まれだったのか?」

「ううん。生まれは別だけど」

「ああ、イザン工国で育ったのか?」

「ううん。イザンで育った訳でもないけど、父の故郷だから」

「そうなのか。しかし、ここからイザン工国に向かうのなら、王都を通る事になるだろう?」

「え?そうなの?」

「知らずに向かっているのか?」

「方角だけは分かるから」

「なるほど。しかしそれなら、王都までリル殿に同行させて貰っても良いだろうか?」


 リルは顔を伏せて首を左右に振った。そして先程出て来た森を指差す。


「私、森の中を抜けて行こうと思ってるの」

「え?それは何故?」

「杖なしの魔法をもう少し練習したくて」

「それなら私も一緒に行かせて貰えないだろうか?」

「ダメよ!」


 リルの強い口調に男は息を呑んだ。リルとはそれなりに良い関係を築けたと思っていた男は、その様に強く否定されるとは思っていなかった。

 しかし顔を上げて男を見たリルの表情は、男への拒絶を表してはいなかった。


「リル殿?何故駄目なのだろうか?」

「・・・だって」

「私が足手纏いになるからだろうか?」

「ううん」

「そうだな。もう私は一人でも森を向けられるだろうと、リル殿は言ってくれた。そうだとすると単に、私がいると迷惑だと言う事だろうか?」

「違うわ。迷惑だなんて、今は思ってない」


 リルの「今は」の言葉に、男の顔に苦笑いが浮かぶ。


「それなら一刻も早く私を忘れて、私にもリル殿を忘れさせる為だろうか?」

「そんなんじゃないけど、でも、いつまでも一緒にいるのはダメでしょ?」

「王都まででも駄目だろうか?」

「ダメよ。だって、あなたの事を探している人達に私といる所を見られたら、なんて言い訳するの?」

「森の中で、そうそう出会うとも思えないが?」

「王都まで森が続いている訳ではないんでしょ?途中で街に寄ったりもするだろうし」


 リルと一緒にいれば、街に寄らなくても生きて行くのには困らない気がしたけれど、リルには街に寄る必要があるのかも知れないと思い直して、男は「なるほど」と肯いた。


「それにあなたは連絡をしなくてはならない人達がいるんじゃないの?その為にはこのまま街道を行って、街に出るべきよ」

「それはそうなのだが」

「でしょ?」

「いや、それはそうなのだが、少し考えさせて欲しい」

「え?何を?」

「連絡をするべきかどうかに付いてだな」

「え?だってあなたを心配して、探している人がいるのでしょ?」

「探されてはいたと思うけれど、少し考えさせてくれ」

「考えて、どうするの?」

「そうだな・・・街の様子を探ったりしてみるか?」


 男は独り言の様に呟く。それをリルは少し困った様な顔で見ていた。見られている事に気付いて、男がリルに顔を向ける。


「リル殿?私が同行するのは迷惑だろうか?」

「迷惑ではないけれど」

「それなら同行させて欲しい」

「連絡はどうするの?」

「それなのだけれど、連絡をしない方が良い場合もあるので、様子を探りながら決めたいと思う」

「そう、なの?」

「ああ。その為には街道を行かない方が良いだろう」

「そう?」

「ああ。リル殿が街に入っても、私は入らない方が良いかも知れない」

「あなたには、そんな事もあるのね?」

「ああ、そうなのだ」

「それなら街に入る時には、私が情報を集めて来ようか?」

「それはありがたいけれど、それはつまりリル殿には、私が誰なのかを知って貰えると言う事か?」

「あ、やっぱりダメ」


 手を左右に振るリルに、男は「やはり駄目か」と苦笑した。

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