陰口を聞いて【傍話】
「いたか?!」
「いねえ!」
「どこにもいないぞ!」
「どこ行ったんだ!俺のリルちゃん!」
「お前んじゃないけど、ホント、どこだ?」
「もしかしてまだ、『輝きの光』のホームにいるんじゃねえか?」
「私達が何かしら?」
リルを探す冒険者達の後ろから、『輝きの光』の魔法使いが声を掛けた。
「何でもねえ!」
「オマエらにはカンケーねえ!」
「ふ~ん」
口角を上げてバカにした様な表情の魔法使いの横で、『輝きの光』のアーチャーが眉間に皺を寄せて口を開く。
「良く言うよ。アンタら、リルを探してたんだろ?」
「なぜそれを?」
「あんなにデカい声してたら、ダンジョンの中からだって聞こえるさ」
アーチャーはフンと顔を逸らした。
「オマエら!リルちゃんを辞めさせたって本当か?」
「さあ?だったらどうなの?」
「アンタらに関係ないだろ?」
「あるに決まってんだろう!」
「リルに何の用事があるのよ?」
「俺達のパーティーに入って貰うんだよ!」
「あきれた」
「バカじゃないの?」
「何だと!」
「あんな役に立たない女、仲間にしようなんてどうかしてる」
「まあ、探索の役には立たないけど、他の使い途があるんじゃないの?」
「他のって、あんな貧相な体で?」
「え?リルちゃんってどんな体してんだ?」
「おい!」
「俺のリルちゃんに何言ってんだ!」
「お前んじゃないって言ってんだろ!」
「そうだ!俺の聖女様だ!」
「バカみたい」
「ホント、バカみたいよね」
「何だと!」
「あんな色気もない、役にも立たない、モタモタオドオドしてるグズ女を取り合って、ホント、バカみたいって言ったのよ」
「オマエ!いい加減にしろ!」
「なによ?」
「リルちゃんを悪く言うのは止めろ!」
「なんで?」
「ホントの事じゃないの」
「違う!」
「リルちゃんは優しいだけだ!」
「回りに気を使ってるんだ!」
「あの服の下は、色気だって凄いんだ!」
「だからオマエ!そう言うのは止めろ!」
「そうだ!」
「そうだ!」
「アンタら、リルの事、悪く言うなって?」
「そうだ!」
「俺の聖女様を悪く言うなんて許さん!」
「許すも何も」
「あなた達だって、リルの悪口を言ってたじゃないの」
「そうだよ」
「え?」
「悪口?」
「誰だ?!」
「オマエか?!」
「俺の訳ないだろ!」
「オマエら!好い加減な事言うな!」
「そうだ!」
「俺達がリルちゃんの悪口を言う訳ないだろ?」
「言ってたよ」
「はあ?」
「ウチの男達の前で」
「そうよね。さんざんリルの悪口言ってたの、知ってるんだから」
「ウチのって、『輝きの光』の男共か?」
「ええ」
「あいつら、告げ口したのか?」
「いや、あれは違うんだ」
「何が違うのよ?」
「リルちゃんの悪口じゃないんだ」
「そう、そうなんだ」
「俺達は悪口の積もりで言ったんじゃないんだ」
「じゃあ何の積もりなの?」
「いや、こう、まあ、とにかく違うんだ」
「オマエらアイツらから、話を大袈裟に聞いたんだ」
「そう、そうなんだ」
「俺達がこう、リルちゃんの事で少しアドバイスしたのをアイツら、大袈裟にオマエらに言ったんだよ」
「そう、そうなんだ」
「へえ?」
「そうなの?」
「ああ、もちろん」
「アタシらも後ろで聞いてたんだよ」
「え?」
「私達が傍にいるのさえ気付かないくらいのレベルだから、未だにあんまりダンジョン探索が出来てないんじゃないの?」
「何だと?」
「リルの悪口言ってたの、1回2回じゃないわよね?」
「いや」
「それは」
「10回は聞いた」
「そうよね?リルと一緒に」
「いや、10回も言ってねえ!」
「え?待て?今なんてった?」
「さあ?なんて言ったかしら?」
「リルちゃんと一緒にって言ったか?」
「聞こえてんじゃないか」
「ちょっと待て!」
「リルちゃんも聞いてたのか?!」
「そうね」
「10回は聞いてるよ」
「そんな」
「10回も」
「リルがそれ以上聞いていたかは、知らないけどね?」
「え?」
「まさか」
「でも、回数じゃないかな?」
「アタシなら1回でも許さないけどな」
「ええ。あんな非道い事言われたら、私なら一生許さないわ」
「いや、待て!」
「待ってくれ!」
「あれは本心じゃないんだ!」
「そう!そうなんだ!」
「ふ~ん」
「ただアイツらを唆そうとしただけなんだ!」
「リルちゃんからアイツらを引き離そうとしただけなんだ!」
「なら良かったじゃないか」
「そうよね。あなた達の思惑通り、リルはパーティーをクビになったんだもの」
「いや!『輝きの光』を辞めるのは良いけど、いなくなられたら困るんだ!」
「そう!そうなんだ!」
「リルちゃんがどこに行ったか知らないか?!」
「そうだ!まだオマエらのホームにまだいるのか?!」
「いるわけないじゃん」
「じゃあどこへ行ったんだ?!」
「どこ探してもいないんだぞ!」
「知らないよ」
「あそこじゃないの?」
「あそこ?!」
「あそこってどこだ?!」
「どこだと思う?」
「どこだと?」
「良いから教えろ!」
「もったいぶんな!」
「ふふ、色気だって凄いんでしょ?」
「え?」
「あ!」
「え?何だ?!どうしたんだ?!」
「おい!どこ行くんだ?!」
「リルちゃんの居場所分かったのか?!」
「おい!待ってくれ!」
「どこに行くんだ?!」
リルを探して男達が駆け出すのを見て、魔法使いは意地が悪そうに笑い、アーチャーはまた眉間に皺を寄せる。
「あんだけ悪口言ってたら、アイツらの相手なんかしないだろうに」
「ふふ、リル、ホント嫌がってたもんね」
「アンタが無理矢理聞かせたからだろう?」
「親切心でよ。あの人達の魂胆は分かってたし。でもリルがあの人達の相手をする顔も見てやりたいな」
「どうやって相手させんのよ?」
「お金さえ出せば誰の相手でもするでしょう?」
「まあ、リルはガメツイからな」
「いつもお金お金言ってる守銭奴だもんね」
「アタシなら金を積まれても、アイツらの相手なんかゴメンだ」
「私もよ。だからこそ、リルがあの人達の相手をするところを見たいんじゃない」
「アンタらしいよ」
「自分だって」
そう言って二人は含み笑いを向け合った。