手段の違い
朝早くに拠点から外に出ると、リルと男は拠点を土魔法で埋め固めた。そして2人は街道を目指して出発する。
途中で、土ドームがあった場所を通る。
「ここから先は見覚えがある筈よ?」
「いや、ここも既に分からない」
「そう?え~と、ダメだ。あなたの足跡がもう残ってないな」
「これは違うのか?」
「違うでしょ?古いけど、私達が森に入った大分後の跡よ。あなたの護衛の足跡みたいなのがあったって言ったでしょ?」
「ああ、あれか」
「あれももう消えてて、違う人達みたいね」
「違う?足跡で違う人間かどうか分かるのか?」
「分かるわよ。それが分からないと魔獣の追跡も出来ないし、魔獣の大きさが分からないと危険だしね?同じ種類なら重い方が体が大きくて強いから」
「なるほど。足跡から体格が分かると言う事か。凄いな」
「普通よ、普通」
「そうか。冒険者と言うのは凄いものだ」
「あなただって剣を持たせたら凄いんでしょ?他にも私が知らない凄い事があなたにもあるんでしょ?それと一緒」
男は鞘から、土魔法で作っておいた剣を抜いた。
「だが、剣士としての私は、全然未熟だ」
「それを言ったら、攻撃魔法が使えない私も、冒険者を名乗らせて貰えない時があるから」
「え?それは何故?」
「私は火魔法が使えないでしょ?」
「ああ。そう言っていたな」
「水魔法も風魔法も土魔法も、攻撃力は大してないし」
「いや、でも、礫で魔獣を倒せるではないか?」
「あれは違うのよ」
「違う?何故だ?何が違うのだ?」
「他の冒険者は使わないから、強さが比べられないでしょ?」
「強さを比べる?」
「うん。どれだけ威力を出せる火魔法が使えるか、とかで冒険者の格が決まるから」
「君の土魔法とかではダメなのか?」
「私は土魔法も攻撃魔法が使えない。ほら?私の土魔法って実は力魔法と同じ様なものだったでしょ?他の人の使う、攻撃手段としての土魔法とは違うのよ」
「そう言う事なのか」
リルは男を振り向くと、「うん」と笑顔で応えた。
「他の人は同系統ならいろいろな魔法が使えるのに、なんで私には使えるのと使えないのがあるのか、ずっと不思議だったんだけど、あなたのお陰で理由が分かったわ」
「理由?」
「ええ。私の使う魔法は、系統そのものがみんなと違うのよ。だからみんなが使える魔法が使えないし、みんなが使えない魔法が使える」
「系統が違うって、魔法にはそんな事があるのか?」
「ね?でも剣と弓では使い方は違うでしょ?」
「・・・なるほど。目的が同じでも、手段が異なると言う事か」
「そうそう。同じ魔力を使って、同じ様に魔法と呼ばれていても、違う技術なのかなって、あなたのお陰で思える様になったわ」
「私のお陰と言う事はないだろうけれど、君の理解の手助けが出来たと言うのなら、とても光栄な事だ」
「ええ。ありがとう」
「え?いや、感謝される様な事ではないと思うが?」
リルは顔を俯かせて「ううん」と首を左右に振る。
「私はちゃんとした教育を受けられずに、見よう見まねで魔法を覚えてたから、バカにされる事があったの」
リルは顔を上げて男を見る。
「私の魔法がバカにされると、私に魔法を教えてくれた親の事もバカにされてる様で凄く悔しかった。でも、いくらやっても使えない魔法があるし。だけど」
リルは男の両手を取る。
「あなたのお陰で納得が出来る理由が見付かったわ」
リルは心からの笑顔を男に向けた。
「ありがとう。あなたのお陰で私は、自分の魔法に自信を持てる様になったし、あなたのお陰で親から教わった事にもしっかりと向き合っていけるわ」
男の両手を掴んだまま両手を胸に当て、少し視線を下げて微笑みを浮かべ、もう一度「ありがとう」とリルは男に伝えた。
男は何故か泣きそうになり、リルに何も言葉を返せない。
男は自分の感情の揺れになんとか理由を付けたくて、娘を嫁に出すと言うのはこんな気持ちなのかも知れない、などと父親思考に心を傾けた。




