コントロールの目標
リルの探知魔法でも、杖の在処は分からない。
光り輝いて消えた様に見える枝にリルはかなり燥いだのだけれど、男が全然付いて来ないので、リルもスッと熱を冷ました。
恥ずかしさを誤魔化す様に咳払いを1つして、リルは見本として魔法を使う事を再開する。
「じゃあ、やってみるね」
リルが男の魔力を使って水魔法を撃つと、男は首を捻った。
「今のが水魔法なのか?」
「え?そうよ?水の流れが変わったでしょ?」
「現象としてはそうだが・・・」
「・・・そうだが?」
「魔力の流れは土魔法と似ている」
「え?なんで?そんな事はないわよ」
「いや、何だろう?ベンチを皿にしたり石を礫にしたりするのとは違うが、先ほど土を盛り上げた魔法にとても似た感じだったのだが」
「そう?そうかな?」
「試しに力魔法の見本をもう一度、見せてくれないか?」
「え?力魔法?良いけど」
リルは小石を拾うと男に持たせ、男の魔力を使って小石を川に向けて打ち出した。
リルの頭上で男が肯く。
「やはり、同じ様に感じる」
「力魔法?」
「ああ。少し試してもらっても良いか?」
「良いけど、何を?」
「力魔法を使って、水を動かしてみてくれ」
「え?無理よ」
「そうなのか?」
「うん。だって水は形がないでしょ?」
「それはそうなのだが、効果が現れなくても良いから、試して貰えないだろうか?」
「う~ん、やってはみるけれど」
そう言うとリルは掴んだままの男の手を前に差し出し、魔法を撃った。
川面に水が一瞬だけ盛り上がる。
「ごめん!」
「うん?どうしたのだ?」
「なんか、水魔法になっちゃった。もう1回やらせて」
「ああ、お願いする」
リルがもう1度魔法を撃つと、先ほどと同じ様に一瞬だけ水面が盛り上がった。
「ごめん、また水魔法になっちゃった」
「そうなのか?私には力魔法と同じ様に感じたが?」
「そんな訳ないでしょ?」
「そうか?では今度は礫を水魔法で飛ばしてみせてくれ」
「え?礫を?どうやって?」
男は小石を拾って手に持った。その手の甲にリルの手を宛がう。
「普通に水を押し出す様に、礫を押してみて欲しい」
「え?え~?こうかな?こんな感じ?」
小石は男の手から僅かに飛ぶ。
「ダメ!力魔法になっちゃう」
「それはつまり、水を動かそうとする時の水魔法は、力魔法と同じなのではないか?」
「いや~、なんか、そう言われたら、私もそんな気がして来ちゃうけど、え~?ホント~?」
リルは男の手を離し、自分の魔力で魔法を撃った。
水が三角錐になって川面が盛り上がる。
「う~ん?ホントかも?」
リルは男を振り返った。
「今、土魔法で水を動かして見たんだけど、なんか土魔法なんだか水魔法なんだか、自分では分からなくなっちゃった」
「そうか。君は風魔法も使えたな?」
「うん。やってみる」
リルは川に向けて腕を伸ばして魔法を撃つ。すると先程と同じ様に、水面が三角錐に盛り上がった。
「え~?つまりそう言う事?」
何度か魔法を撃って水を色々と動かしてみてから、リルは男を振り向く。
「なんか、あなたの言う通りみたい」
少し困った表情で、リルは男を見た。
「やはりそうなのか」
「ええ」
肯くとリルは、今度は笑顔を男に見せる。
「だからあなたは、私が水魔法を使いながらだと、力魔法が分からないって言っていたのね?」
「うん?ああ、なるほど。そうかなのかも知れない」
「確かに、魔力の流れで考えるとどれも同じなら、区別が付かないかな?」
リルはまた川に体を向けて、川の水や川原の石や周囲の空気を動かしながら、何度も肯いた。
そのリルの背中に男が声を掛ける。
「君は以前、土魔法で作った杖は、土魔法以外は使い難くなると」
「言ったわ!」
男の言葉の途中でリルは振り向き、男の言葉を遮る様に返した。
「試しに」
「やってみる!」
リルは石を拾って手に取り、それを杖の形に変形させる。
そして川に向かって幾つかの魔法を撃った。
「やっぱり、土魔法以外は使い難いな」
「そうなのか?」
「うん。土魔法も石や土から礫を作ったりは出来るけど、あなたが力魔法と似ているって言った系統の魔法は使い難い」
「そうか」
「う~ん・・・杖を使うと微調整が出来ないから、礫の硬さはこの杖を使わないで調整すれば良いんじゃない?」
「だがそれは、私が求めるものとは違ってしまうな」
「そうかも知れないけど、じゃあもうこれで止めておく?」
「・・・そう言えば、そもそもどうなれば私は魔法を覚えた事になるのだ?」
「ゴボウルフが一人で倒せるくらいの攻撃力を持てたら、そうしたらこの森を出る事が出来るじゃない?」
「あれを一人で?」
「うん。言って置くけど、今のあなたでもゴボウルフには楽勝よ?」
「そうなのか?」
「うん。でも周囲に尋常ではない被害が出そうでしょ?」
「・・・出るだろうな」
「うん。だから傍にいる人にケガをさせないくらいにコントロール出来る様になるまでは、ここでの生活を続けた方が良いと考えていたんだけど、どう?」
「・・・そうだな」
「うん、そうよね?そうしましょ」
リルの笑顔が何故だか淋しく感じてしまい、そして何故だか男は胸に痛みを覚えた。




