モテる要素
川岸に上がって、リルは基本の水魔法を男に教える。
いつもの様に男の前に立って男の両手を持って、男に見える様に男の両手の間に魔法で水を出して見せた。
「どう?」
「出来そうだ」
「じゃあやってみて」
「ああ」
そのままの体勢でやり掛けて、男は体を横にずらしてリルの脇に立った。
「どうしたの?」
「今の体勢だと、何かあったら君が危ない」
リルはその言葉に、不服そうな表情をして男を見上げる。
「自分の身は守れるわよ?」
「それは、土ドームが壊れる程の威力からでも?」
「それは無理だけど」
「では駄目だ」
「でも、いざと言う時にあなたの魔法を止めるには、今の体勢が良いんだけど?」
男は両腕を組んで少しだけ首を傾げた。
「もしかしたら、杖があれば良いのではないか?」
「うん。杖があれば、きっとあなたも制御は楽ね」
「そうしたら、杖を先に用意しないか?」
「・・・それまであなたに付き合えって事?」
リルは視線を下げて、声も少し下げて言う。男は眉根を寄せた。
「え?それはどう言う意味だ?」
「だから、あなたに合った杖が出来るまで、一緒にいるって事でしょう?」
「前に君は素材を集めて、私の杖を作ってくれると言っていなかっただろうか?」
「確かにあの時はそう言ったけれど、あなたの魔法の威力だと、きっと素人が作った杖じゃ保たないから、ちゃんとした職人に作って貰って」
「言われてみればその通りなのだろうが、それは君も一緒に杖を作るのだろう?」
「分からない」
「え?分からない?」
「私が使ってた杖は自分で作った物なの。それにここのところ杖なしで魔法を使ってたでしょ?だからなんか慣れちゃって、杖を作るのが面倒かなって」
「慣れるものなのか?」
「私は最初が杖なしで魔法を覚えたから」
「それでも制御が難しいと言っていなかったか?」
「難しいって言うか、気を使うって感じ?あなたも剣を使う時、いつも同じ力じゃないでしょう?」
「それはまあ、そうだが」
「その辺が、杖や魔方陣を使うと、調整できないの」
「え?調整できない?逆ではないのか?」
「杖や魔方陣を使うと、同じ魔法なら効果がいつも一定になるから、細かい調整は出来ないのよ。調整が必要なら呪文を唱える事もあるけど、戦闘中には向かないし。でも調整出来ないからこそ、気を使わなくて良いの。杖がないとちょっとした事で威力が変わるけど、調整はし放題ね」
「そう言う事か。それなら私とは、ここで別れても良いと言う事だな?」
「確かに魔力を漏らさなくなったから、もう魔獣も寄って来ないとは思うけど」
「え?魔力が漏れていると、魔獣が寄って来るのか?」
「来るわよ?美味しそうに見えるんじゃない?人も寄って来るでしょ?」
「そうなのか?」
「魔力容量が多い人ほど、漏れる魔力が多い傾向にあるからね。だからあなたも街で魔力を漏らせば、女の人にモテる筈」
「そう言うものなのか?」
男がイヤそうな表情を浮かべるのを見て、リルは苦笑する。
「うん。街に行ったら少しずつ漏らしていってみたら?あなたが髭だらけでも、直ぐに効果が現れる筈だから」
「髭だらけ?髭だらけだと効果が出にくいのか?」
「髭を嫌う女性もいるからね」
「そうなのか?君は?」
「え?どっちでも?」
男はリルの父親がどうだったのか、訊きたい気がしたがそれは我慢した。
「魔力は?君も魔力容量が多い方が、魅力的に感じるのか?」
「どうだろう?」
リルは首を左右に交互にゆっくりと傾げながら考えた。
「漏らしてもったいないな、と思うとは思う」
「確かに、魔力制御が甘いと言う事だものな」
「うん。それよりは全然漏らさない人が、実は魔力容量が多かったって言う方が、ギャップを感じて惹かれるかも?」
「そうなのか?」
「多分?」
「私はどうだ?」
「凄く良いと思うよ?」
「本当か?」
「うん。今は全然漏らしてないし、その状態で出会ってから実は魔力容量が多いって知ったら、私みたいな好みを持つ人は、きっとあなたに好意を抱くかな?」
「この状態から出会う?」
「うん。知らないからこそ、ギャップで惹かれるんだから。多いって知る前に既に好意を持ってたら、もう恋しちゃうかも?」
「・・・そうか。魔力容量を知らないで出会わなければいけないのだな」
「うん。ちゃんと隠しておいて、目的の人があなたに好意を持ってからなら、絶対に良い関係になれるんじゃないかな?」
「・・・既に知っていたら駄目なのだな?」
「それはそうよ。それを見せびらかす様だと、もし私みたいなタイプの人間だったら逆効果だから、気を付けてね?」
「・・・分かった。参考にさせて貰おう」
「・・・うん」
とっておきの情報を伝えた積もりだったのだけれど、それほど男が喜ばなかったので、話がスベったのかとリルは心配になった。




