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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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川の中で

 男は、こうなったらもう父親扱いでも良い、と開き直った。


「だが!素足を見せるのは駄目だ!それは譲れない!」


 男のその剣幕に、リルは眉を(ひそ)めて目を細め、少し首を傾げて体を引く。リルは肩の力を抜いて「分かったわ」と言うと、靴を履き直した。

 そしてリルは靴を履いたまま、川に向かう。それを男が止めた。


「いや、待ってくれ!見本は良い!靴のままやって欲しい訳ではないのだ」

「いきなりあなたに魔法を撃たせたら、どうなるか分からないからダメ」

「確かに危険はあるが、君が靴を濡らしてまでやらなくて良い」

「靴は濡らさないから」

「え?そうなのか?」

「まあ見てて」


 リルは川に歩いて行き、そのまま水の上に一歩を踏み出した。


「あ!」

「ね?」

「・・・え?」


 川の水はリルの脚を()けて流れている。


「水魔法で川の水を()けてるの」

「凄いな。その様な事も出来るのか」

「うん。ただ、川は水が流れてるから、制御がかなり面倒臭くて、裸足になった方が楽なのよ」

「それは、私の所為で申し訳ない」

「ううん」

「だが、ありがとう」

「うん。でも考えて見ると、見本を見せる為には腰の辺りまで水に入らなくちゃだから、素足は良くても絶対にあなたに止められてたかな」

「素足は良くても?」

「あなたの常識的には、ズボンも脱いだらダメでしょ?」

「・・・逆に訊くが、君の常識的には、野外でズボンを脱ぐ事は問題がないのか?」

「水の中に入れば見えないんじゃない?」

「そう言う問題ではない。私はそう言う事を言っているのではないのだ」

「分かってるから。冗談だから。私も緊急時でもないのに、あなたに下着を見せたりしないから、安心して」

「少しも安心出来ないが、そうだな。お陰で私のやるべき事が見えた」

「え?なんの話?」

「早急に魔法を覚えて攻撃力も防御力も上げて、君にも自分にも、緊急事態が起こらない様に私はするべきだ」

「そう?そうね。では納得して貰えた様なので、見本を始めて良い?」


 リルには本当に男としては見られていない事を改めて感じた男は、力ない声で「お願いする」と返した。


 リルはそのまま川の中に、足下(あしもと)を見ながら足を進める。リルの周りを円柱状に、川の水が避けて通る。リルの足下には、川底の石が見えた。


「これ、下が石だらけ」


 リルは顔を上げて男を振り向いた。


「あなたの言う通り、靴を履いたままにして良かったかも」


 そう言って笑うリルを男は心配そうに見ていた。


「それは良かったが、よそ見をしないでくれ。見ていて危なっかしい」

「確かに。石が結構滑るみたい」

「その辺り、流れが大分(だいぶ)速い様だが、大丈夫か?」

「うん。では撃ってみるね」


 リルは川底の石を取ろうとして、膝は大して曲げずに腰を曲げた。そうすると頭が円柱の外に出て、額が水に触れる。


「大丈夫か!」


 男が慌てて川に入ろうとする。立ち上がったリルがそれを止めた。


「大丈夫!大丈夫よ。ちょっとうっかりしただけ」

「いや、頼むから気を付けてくれ」

「うん。気を付ける」


 リルは両手を拳に握って胸の前に構え、男に力強く肯いて見せる。そのポーズが何故か、更に男の不安を煽った。


「いや、本当に、見本は()めて置かないか?」

「なに言ってんの?大丈夫だから。良いから見ててね?」


 リルはしゃがみ直して拾った石から雫型の礫を作り、川の上流を向くと、礫を持った手を川の水の中に突き入れる。そして力魔法を撃った。

 男には川の水面が僅かに盛り上がったかの様に見えた。リルはと言うと、首を傾げて思案をしている。

 リルは振り返って今度は川の下流を向いて、同じ様に礫を持った手を川の水の中に突き入れ、もう1度力魔法を撃った。

 しかし今度は水面の盛り上がりなど、男には感じられない。

 リルは1つ肯いてから、男に向かって歩いて、川を出て来た。


「川下に向けて魔法を使った方が、周りの被害が少なく出来そう」

「被害?私は被害を出す積もりはないのだが?」

「土ドームも壊す積もりなんてなかったでしょ?」

「それは、まあ、そうだが」

「取り敢えず、川下に向けて試してみましょう。ほら、来て」


 リルは男に手を差し出す。釣られて男が手を出すと、その手首を掴んでリルは川の中に入って行った。もちろん水魔法を使って、二人の周りでは円柱状に水が避けている。


「私が裸足で川に入ったら、あなたも素足を私に見せる事になってたのね?」

「それは今更だ。君は私の脚も既に見ているだろう?」

「そうだけど、私は責任取ったり出来ないって言うか、あなたを治すのが私の責任の取り方だから」

「分かっている。私の肌を見た事に付いては君の責任を一切問わないし、それに私を治す事に付いても君に責任はない」

「そう・・・なら良いけど」

「ああ。だがもちろん、治して貰った事に、私は感謝しているのだ」

「それは分かったから。言葉だけで良いからね?」

「ああ。分かっている」


 肯く男の手を上に持ち上げてその下を(くぐ)り、男に背中を向けてリルは川下を向いた。そして雫型にした礫を男の手に持たせる。


「被害を減らす様に礫は脆くしてるから、握り潰さないで」

「分かった。気を付けよう」


 頭上からの男の声に肯くと、リルは男と自分の手を水の中に差し入れた。


「じゃあまず、あなたの魔力を使って撃ってみるね」

「あ、待ってくれ。反対側で頼む」


 男は反対側の手でリルの手を掬う。


「前回、こちらで撃ったから、感覚を確かめる為にこちらで頼む」

「そうだった?うん、良いわよ」


 男が礫を持ち直すと、リルは男の手を持ち直して、もう1度川に差し入れた。


「じゃあ、撃つね?」

「ああ」


 リルが魔法を力魔法を撃つが、先程と同じ様に川面には変化がない。


「どう?分かった?」

「いや、それが、水を避けている魔法と混ざってしまって、良く分からなかった」

「そうなの?繊細なんだから。じゃあもう少し強く撃ってみるね」


 しかしもう1度やっても、男には良く掴めなかった。


「やはり、良く分からない」

「このやり方じゃダメか」

「思うのだが、私が水魔法覚えて私が水を避ければ、君の力魔法が分かるのではないだろうか?」

「そうね。それが早いかも。じゃあ一旦上がりましょうか」


 そう言うとリルは男の手を引いて川岸に向かう。

 男は滑りそうに進むリルを見て、抱き抱えて戻る事を一瞬考えた。しかしそれは自分の常識的にはしてはならない事だ。何よりリルが断らなそうな気がして、男は口には出さない事にした。

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