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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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素足と魅力

 魔力を漏らさない様に出来る様になった男は、久し振りに地上に出た。

 土ドームを壊した時に穴から空を見上げたけれど、男が外に出て空気を吸ったのは、ゴボウルフに襲われて気を失ったあの日以来だった。


 そして今日は、力魔法を外で試す。



 リルは男を川に案内した。川幅はそれ程ないが、水深はかなり深い。

 その川縁(かわべり)で裸足になろうとするリルを男が止めた。


「待て!君は何をしようとしているのだ?」

「え?まず、私が見本を見せるから」

「それは分かっているが、靴を脱ごうとしていないか?」

「うん?」


 リルは自分の足下を見てから、顔を上げて「うん」と返した。


「うん?」

「え?だって川に入るのに、裸足にならないと靴が濡れちゃうじゃない」

「やはりそうか!駄目だ!裸足なんて!」


 男はリルの手を押さえた。


「え?なんで!」

「女性が男に素足を見せるなんて!駄目に決まっているだろう!」

「・・・あなたの常識じゃハレンチって事?」

「破廉恥極まれりだ!」

「ええ~?じゃあ私、靴のまま水に入るの?」

「いや。見本は良い」

「そうはいかないわよ。私は今までさんざんハレンチだって言われたんだから、もう良いじゃない」

「そうはいかないは私のセリフだ!それに君ではない!君ではなく君の行為が破廉恥だと言っているのだ!」

「一緒じゃない」

「一緒ではない!女性が素足を見せるなど!寝室で夫に対してのみする事だ!」

「・・・本気で言ってるの?」

「もちろん、本気だとも」

「私達、毎晩、一緒に寝てるわよ?」

「え?あ?いや違う!あれはただ単に同じ場所で寝ているだけではないか!疚しい事など私達の間にはないだろう!」

「それはそうだけど、あの拠点は私達の寝室だし」

「その前に居間で食堂で訓練室で調合室だ。一部の使用方法だけ切り取って挙げないでくれ」

「え?あなた的にはそれでOKなの?」

「ああ。あそこは寝室ではない。拠点で寝るのは、居間やガゼボで昼寝をする事と同義だ」

「そうなの?そう言う位置付けなのね。でも、街に行った事はない?」

「うん?幾つかの街なら通った事はあるが?」

「それなら街で、脚を出してる女は見なかった?」

「彼女達は仕事でやっているのだ。君とは違うだろう?」

「私はダメだって事?」

「ああ」

「そう・・・まあ、ああ言うお姉さん達と違って、魅力ないもんね」

「何を言っているんだ。そんな訳はないだろう?」

「だってあなたには、私が子供に見えるんでしょ?」

「そんな事は絶対にない」

「それも男の子に」

「そんな訳がある筈ないではないか。良いか?子供や乳幼児が脚を出していても、私は何も感じないし何も言わない。女性でもそう言う職業なら言わないし、男性でもだ」

「言わないけど見るのね?」

「見た訳ではない。視界に入った事があるので、知っているだけだ」

「ふ~ん、そう。そう言う女性がケガをしてたら、下着を剥ぎ取るのね?」

「そんな事は言ってないだろう?もしそう言う場面に遭遇したら、助けを呼んで女性に対応して貰う」

「そんなの、間に合わなくなるかも知れないからダメよ」

「いいや。責任を持てない行動はすべきではない」

「そうなの?」

「ああ。もちろんだ」

「まあ、良いか。私は見捨てるのに、脚を出してる女性なら助けるとか言われるよりは、マシか」

「いや。君なら助ける」

「え?見捨てるって言ってたじゃない?」

「君を見捨てるなどとは言ってはないだろう?瀕死の女性の下着を剥ぎ取れるかと訊かれて、答えられなかっただけだ」

「それは見捨てるって事でしょう?」

「いいや、君なら助ける」

「どうやって?人を喚んで?」

「私が助けるに決まっているだろう?」

「だから、どうやってよ?」

「どうしても助ける。どうしてもだ」

「下着を剥ぎ取れるの?」

「必要があるなら、何をしてでも助ける」

「・・・それって私が恩人だから?」

「それもなくはないが、今は君の肌を見たとしても、その責任を取る覚悟がある」

「責任?」

「君が認めてくれるなら、結婚をする」

「え?」

「たとえその時に既に結婚していても離婚して、君と結婚をする」

「え?なんで?どう言う事?」

「私に取って、君の肌を見ると言うのはそう言う意味だ」

「え?それって、私が男の子みたいだから?」

「・・・なに?・・・それはどう言う意味だ?」

「あなたが今もまだ結婚しないでいるのは、同性を好むからとか?」

「君は女性だろう?自分でそう言っていたよな?」

「そうだけど、女でも良いの?」

「君ならだ」

「・・・そんな・・・だって、あなた、私の事、女として扱ってないじゃない」

「いや、確かに、今は、手を握られたり肌に触れられたりしても抵抗しなくなってしまったが、それは私がいつまでも意識していると、君が意識してしまうかも知れないと思ったからだ」

「え?・・・どう言う事?」

「なるべく君に私を男として意識されない様に考えて、行動をしていたのだ。まあ効果はこの通り、狙い通りにはなっていた様だが」


 男は片手で顔を押さえる。


「いや、待て?」


 男は顔から手を離し、リルに視線を向けた。


「もしかしてその所為で、君が無防備なのか?」

「え?なにが?」

「君が私を男として意識していないので、君は私の前で恥じらわないのだろうか?」

「え?なんで?」


 男はリルに近付いて、リルの頬に手を翳した。


「え?なに?」

「・・・やはり」

「え?なに?やはりってなにが?」

「私の手が頬に()れそうなのに、君は恥じらうどころか避けようともしない」

「え?なに言ってんの?」

「それは君が私を男だとは思っていないと言う事だろう?」

「なに言ってるの?男だって知ってるわよ?」

「え?あ、いや、その、体の特徴の話ではなくてだな?」

「そうね。こんなに髭を()やした女はいないもんね」

「あ、うん。まあ、そうだが」

「それに」


 リルは翳された男の手の甲に手のひらを当て、自分の頬に()れさせた。


「あなたに(さわ)られても、」

「破廉恥だ!」


 男はリルから飛び退いて、守る様に両腕で自分を抱いた。リルは男の動きの素早さに驚いて固まったまま、目を見開いていた。


「なんでその様な破廉恥な事をするのだ!」

「ええ~?」

「君は誰にでもそうなのか?!」

「そんな訳ないでしょ?」


 腰に両手を当てて、リルは胸を張る。男は小首を傾げてリルを見た。


「それは詰まり、男性では私だけと言う事なのだろうか?」

「今となってはそうね」

「それは詰まり、過去にはそう言う男性が、いたと言う事か?」

「あなたの他には父だけよ」

「・・・父君?」

「ええ」


 肯いて返すリルの答えに、男は両手をダラリと下げてガックリと肩を落とした。


「これは詰まり、父親ポジションと言う事か」


 俯いた男のその囁きは、リルの耳には入らなかった。

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