岐路【傍話】
「おい!待て!」
城門から出ようとする元『輝きの光』の3人に、大声で呼び掛けたのは『輝きの光』の元リーダーだった。
「やあ、久し振りだけど、キミ?痩せた?」
「そう?で?私達に何か用?」
「放っといて良いよ。行こう」
「いや!待てよ!」
「はあ?なに命令してんだよ?」
「そうよね?『待って下さい』じゃないの?」
「待たないけどな」
「いや、キミ達、仮にも僕達のリーダーだったんだし、もうこれで会う事もないんだから、少しは話を聞いてあげようよ?」
「じゃあ、アンタに任せた。お先に」
そう言うとアーチャーは門に向かって足を進める。
「おい!待てよ!」
その場に留まる斥候と魔法使いを追い越して、元リーダーはアーチャーの肩に手を掛けようとした。しかしアーチャーがその手を払い落とす。
「痛えな!何すんだ!」
「気易く触んじゃないよ!」
「気易いも何も、同じパーティーの仲間だろ!」
「はあ?」
「まあまあ。話なら僕が聞くから、2人は先に行って良いよ」
「良いも悪いもないだろ?アタシの勝手だ」
「分かった分かった、ごめんごめん。じゃあ、また、どこかで会えたらよろしく」
「ああ。アンタには感謝してるんだ。あの時、新入りに契約を持ち掛けてくれて、ありがとな」
「私も!私も感謝してる!こうやって落ちぶれた元リーダーを見たら、なおさらだよ!」
「はあ?俺は落ちぶれてなんかないだろ!」
「じゃあな」
「うん、バイバイ!私も行くね?」
「ああ、気を付けて」
「お前ら待て!」
元リーダーは回り込んで、アーチャーの前に立ち塞がる。斥候は頭を抱え、魔法使いは無意識にファイティングポーズを取る。アーチャーは元リーダーを睨んだ。
「お前!どこに行く気だ!」
「村に帰んだよ」
「負けて逃げ帰るのか?!」
「はあ?なんだって?」
「だってそうだろ!借金だらけで冒険者を挫折して!実家に逃げ帰るんだろうが!」
「生まれ育った村だけど、帰って結婚するんだ」
「・・・え?・・・結婚?」
「ああ。許嫁からは良い加減帰って来いって言われてたし、良い機会だからな」
「いいなずけ?ってなんだ?」
「なんだ?なんだって婚約者だろう?家同士で結婚の約束をしてる相手だよ」
「はあ?お前?婚約者がいたのか?」
「許嫁かどうかはともかく、婚約者くらいみんないるだろ?」
「私はいないけど?」
「僕もいないな」
「へえ?珍しい」
「いやいやいや、珍しいのはお前だろ!」
「まあ、どうでも良いよ。許嫁には帰る事を連絡しちゃったから、村に帰って結婚するんだ。許嫁との新居で暮らすから、実家に帰る訳じゃない」
「いや~、リーダーが言いたいのは、そこじゃないと思うよ?」
「お前達も結婚しに帰るのか?」
「私は孤児院の教師を院長先生に薦められたから」
「教師?」
「うん。魔法のね。才能がありそうな子もいるって言うから、楽しみなんだ」
「お前も冒険者を辞めるのか?」
「分かんない。教師をしながら続けるかも知れない。近所に魔獣が出るからね。私が倒せば町の為にもなるし、孤児院の収入にもなるから」
「結婚はしないんだな?」
「縁談はあるから、そのうちするかも?」
「え?結婚したら冒険者は続けられないだろ?」
「うん?でも本職は魔法の教師だから。冒険者はやれる時だけだから」
「お前は?」
「え?僕?僕は冒険者を続けるよ?」
「おお!そうだよな!男はそうでなくちゃ!」
「男はって、僕もキミも確かに男だけど」
「まあ良い。俺達2人でまた『輝きの光』を続けて行こうぜ!」
「え?あ、いや。僕はクランに誘われてて」
「クラン?いや、俺達はまだ、クランを作れる規模じゃ」
「違う違う。前から誘ってくれてたクランがあって、そこに合流するんだ」
「あ、なんだ。そう言う事か」
「うん、そんなんだよ」
「分かった。俺もそのクランに入ってやる」
「え?いやいや」
「アンタらの話は長引きそうだから、アタシはもう行くな」
「あ、いや」
「待って私も行く!じゃあ2人とも、サヨナラ!」
「僕も行くよ」
「いや!待てお前ら!あの新入りはどうしたんだ?俺に隠れてアイツとパーティー組むんじゃないだろな?!」
「ああ、彼ならどこかに行ったよ」
「とっくに別れたわよ?」
「だってお前ら!借金はどうしたんだ?!」
「それは彼が良い様に取り計らってくれたから、僕達の借金はもうないよ」
「私が孤児院にお金を持って帰れるのも、彼のお陰よね?」
「え?じゃあお前ら、ホントにこのオフリーを出て行くし、もう俺とパーティーを組まない積もりなのか?」
「なんでアタシらが、アンタとパーティーを組むって、今も思ってんだ?」
「そうよね?パーティーが分解したのも、全部あなたの所為でしょ?」
「え?俺の所為?」
「そうじゃない。あなたがリルをパーティーから追い出したからいけないんでしょ?」
「追い出したのはスルリだろ?!それにお前らだってリルを嫌ってたじゃないか!」
「嫌ってたからなんだって言うんだ?」
「そうよ。確かに好きじゃなかったけど、私達は追い出そうとなんてしてないじゃない」
「いや、だって、ポーションが不味いとか、料理が不味いとか、カネカネうるさいとか、さんざん言ってたろうが!」
「言ってたけど、だからなんだよ?」
「そんなの自分も言ってたでしょ?」
「いや、確かに俺も言ったけど、お前らだって言ってたろ?」
「だから、それがなんだよ?」
「そうよ。リルに振られたからって追い出す事なかったじゃない」
「は?な?あ?お?お前ら?なに言ってんの?」
「アンタがリルに振られてから、パーティーの雰囲気が悪くなったんだろ?」
「ああ。確かにそれはあったね」
「それはあったじゃないわよ。パーティーの雰囲気が悪くなったのなんて、それしかなかったじゃない」
「確かに、パーティー内の恋愛は良い事ないからね。リルはあの後も普通にしてたけど、リーダーは何かとリルに当たる様になってたもんね」
「お陰で私達にもとばっちりが来るしね」
「スルリがリルを辞めさせたんだって、その辺もあんじゃないか?」
「そうよね?」
「そうだろうね」
「なんだ?俺が悪いってのか?」
「別に」
「別に?う~ん、確かに今さら何を言っても遅いかもね?」
「いや、キミ達?今さらと言いながら、かなりリーダーを責めてない?」
「いや、もう会う事がないと思ったら、最後に言っとこうかって」
「そうね。お陰で少しはスッキリしたかも?」
「確かに、そうだな」
「いや、キミ達?リーダーだって傷付く時は傷付くんだよ?」
「え?俺が傷付く?何でだ?」
「・・・余計な心配だったみたいね?」
「そうだな」
「そうだね」
アーチャーは門に足を進め、片手を上げた。魔法使いはその後を追う様に歩き出して、一度振り返ると斥候に向けて手を振る。
斥候はそれに片手を上げて返して溜め息と共に、元リーダーを押し留める役を熟す決意をした。




