被害状況
「あ!逆逆!背中見せて!俯せになって!」
そう言うリルに体を横に転がされ、男は俯せになる。
「ケガ、してない?」
「私か?凄い風だったが、それだけだろう?大丈夫だ」
男の言葉にリルは低い声で「何言ってんの?」と返した。
「これ。これ見えない?壁の破片が飛んで来てるんだよ?」
「なに?」
男が顔を持ち上げて周囲を確認すると、周囲に転がっている破片は確かに見覚えがあった。
「あそこからここまで飛んで来たのか?」
「そうよ」
「君は大丈夫か?」
男が首を巡らせてリルに尋ねると、リルは男の肩を後ろから押さえて再び俯せにさせながら「ええ」と答える。
「あなたが守ってくれたから、私には1つも当たってないわ」
「そうか。飛んで来たのかと思ったが、転がって来たのだな」
「破片?破片は飛んで来たから」
「そうなのか?それなら運良く当たらなかったと言う事か」
「何言ってんの?」
そう言うとリルは男のズボンを捲る。
「待て!君は何をしている!」
「背中や頭には当たらなかったかも知れないけど、お尻には当たったでしょ?」
「待て!尻にも当たってなどいない!」
「ズボンがボロボロなのに?」
「え?」
男が上半身を起こして背後を振り向くと、リルの手には確かにボロ切れの様な物が握られているが、それよりは自分の臀部がむき出しなのに男は驚いた。
「は?!君は何をしてるんだ!」
「あなたのケガを確認してるのよ」
「私は尻に怪我などしていない!」
「その様ね」
リルは破片の下から自分のバッグを掘り出すと、中からブランケットを取り出して男の下半身に掛けた。
「取り敢えずそれを巻いて」
「あ、ああ」
「足も大丈夫なのね?前も後ろも?」
「ああ、大丈夫だ」
「そう」
リルは立ち上がり、周囲の破片を土魔法で床に溶かし込む。そして通路の先を見た。
「向こう見てくる」
通路の先に視線を送ったまま歩き出すリルに向かって、男が腕を伸ばす。
「待て。私も行く」
男は立ち上がりながらブランケットを腰に巻こうとするが、上手く巻き付けられない。それを見たリルは、戻って男を手伝った。
「ふらつかない?」
「私か?いや、大丈夫だ」
「頭とかを打ってたら、後から具合が悪くなる事もあるから、少しでもおかしかったら隠さず言って。良い?」
「いや、大丈夫だ」
「大丈夫じゃない事があるから言ってんの!そんな事を言うなら、無理矢理寝かせるから!」
「いや、分かった。少しでもおかしかったら必ず言う。だからもし君も不調を感じたら、私に教えてくれ」
「・・・でも、あなたは治療とか出来ないでしょ?」
「だが、君の言う通りに手当てする事なら出来る。だから少しでもおかしかったら、私に指示が出来なくなる前に言ってくれ」
「・・・そうね。分かった」
「よろしく頼む。私は君の事を頼りにしているのだから」
「分かったから。さあ、どう?これで歩ける?」
「ああ、ありがとう。これなら歩いても落ちないな」
「そう。良かった。では向こうを見に行きましょう」
「ああ」
通路のあちらこちらで、表面が削れたり亀裂が入ったりしている。更に通路の3分の1から先は、壁の光魔法が消えていた。3分の2から先は壁が抉り取られ、通路が上下左右に広くなっている。
そして土ドームは通路の反対側がなくなって、外が見えていた。
「盾として作った壁は、跡形もないわね」
「ああ。床も天上も抉れてしまっているな」
「あなた、どれだけ魔力を籠めたの?」
「いや、君と同じくらいの積もりだったのだが」
リルは男を振り向いて、はあと溜め息を吐いた。
「まあ、もちろん、そうだったんでしょうけど」
「申し訳ない」
「ううん。中でやろうってしたのは私だし」
「いや、だが、反省している」
「反省は良いけど、練習は必要よね」
男は顔を上げて、外を見上げた。
「そうだが、練習するのも危険そうだ」
「それは一緒に考えましょう」
「ああ。知恵を貸してくれ」
「ええ。アイデアを出し合って、安全そうな方法から試しましょう」
「ああ」
2人で肯き合うと、リルは外を指差した。
「取り敢えず、魔獣が入って来ちゃうから、この穴を塞がないと」
「そうだな。だが、通路も直すのか?」
男は振り返り、通路を指差した。
「確かに。じゃあ全部埋めちゃう?」
「埋める?」
「このままだと、魔獣の巣に使われるかも知れないし」
「なるほど」
そう言ってリルは土ドーム跡を埋め始め、それを見て男もやり方を覚えると、2人で通路を埋めていく。
埋めた後は、魔獣に簡単に掘り返されない様に、硬化が施された。
それからは2人で練習方法を相談したが、良い案は見付からなかった。
結局、魔力操作の練習をする事で男が魔力を制御出来る様になる筈だ、との仮説を元に、先ずは魔力壁で魔力を漏らさない様にする事になった。
男は魔力操作と、筋肉トレーニングと、筋肉強化と、剣の稽古を行い続けた。
その間のリルは、食料や薬の材料の調達と、周囲の探索、それと男の服の修理を行った。
そしてボロボロになっていた男の服は、天然素材で補強されていく事になる。




