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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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威力と加減と効果

 男が光魔法を覚えるのも、外に出られる様になってからと言う事で、保留になった。


「この場で私が習えるのは土魔法だけか」


 少し残念そうな男の言葉に、リルは小首を傾げる。


「そうかな?でも土魔法はもう出来てるし」

「え?土魔法とはこれだけなのか?」

「基本はそれだけ。硬さの調整はあるけど、お皿からベンチに戻せてるから、それも出来てるし」

「硬さの調整?硬ければ硬いほど良い様に思うが、そうか。魔力の消費が違うのだな?」

「それもあるけど、まあ、そうね」

「そうね?他に何があるのだ?」

「何がって、でも、あなた、自分で狩りをしたりする可能性はあるの?」

「何故?ゴボウルフと戦ったではないか?」

「あれは戦わなくても良かった訳でしょ?あなたが生きていくのには、あなたが狩りをする必要はないんじゃない?って言うか、もしかしたら普段は、狩りをさせて貰えない様な立場なんじゃない?」

「それは、まあ、そうだが、そうだとしたらどうだと言うのだ?」

「そうだとしたら・・・なんでもない」

「うん?どうした?」

「なんか説明が面倒臭くなった」

「・・・それは申し訳ない」

「いえ、違うのよ」


 俯いて首を小さく左右に振ると、リルは顔を上げて男を見る。


「私は狩りの時、土魔法で土や石から礫を作って、魔獣に打ち込むの」

「ああ。君の獲って来る肉は、そうして魔獣を狩っているのだろう?」

「うん。その時に礫が硬いと貫通し易いから、砕け易い様に少し脆くするの」

「砕け易く?それは何故?」

「貫通するより、怪我が酷くなるから」

「詰まり、倒し易くなると言う事か」

「うん」

「それは詰まり、君の危険が減ると言う事だな?」

「え?まあ、そうね」

「そうか。それで?君がその説明を言い淀んだのは何故だ?」

「・・・なんでもない」

「そんな訳はないだろう?私の立場が関係するのだろう?」

「そう言う訳じゃないわ・・・あなたの立場なんて知らないし」

「まあ、そうだな。それで?」

「・・・しつこい」

「私は気になる事があると、究明したくなる(たち)なのだ」

「知らないわよ。好きにしたら?私には関係ないし」

「いや、君の考えが知りたいのではないか?」

「ただ説明が面倒臭くなっただけよ」

「ならそうだな・・・その硬さの調整はデリケートなのではないか?」

「なにそれ」

「硬いと貫通すると言ったが、貫通すると抑止力は落ちると言う事だな?そして理想より少しでも脆いと、今度は極端に攻撃力が落ちる。違うだろうか?」

「まあ、そうだけど」

「それなので私が調整をする事を覚えて、しかしいざという時に計り損ねて、失敗する事を想像したのではないか?」

「でもあなたは狩りをしないのでしょう?それなら使う機会はないわ」

「魔獣相手には、確かにないだろう」


 その応えにリルは男を見詰め、やがて俯いた。そのリルの様子に男は苦笑を浮かべる。


「人間相手の場合には、防具の強さを考慮しなければならないが、最適なダメージを与えるのはかなり難しいのだろうな」

「魔獣でもそうよ。同じ種類でも個体差はあるし、ダンジョンと外とでは違うし」

「そうか」

「それよりは、手数を掛けて倒しきった方が良い。あなたは魔力容量が多いのだし」

「私の安全だけを考えるならそうかも知れない」

「あなたの安全より大切なものなんて、あなたや周りの人にはないんじゃない?」

「周りの人間には、他にたくさんあるだろうな」

「え?そうなの?」

「それに私にも、私の安全より守りたいものだってある」

「・・・結婚してないんじゃなかったの?」

「え?ああ。妻も子もまだいない」

「そうか。でも、その内結婚するんだもんね」

「まあ、する筈だ」

「だけど、あなたの奥さんや子供が危険になった時に、あなた以外にも守ってくれる人は周りにいるんでしょ?」

「まあいるだろうが、妻子の事を考えていた訳ではないぞ?」

「そうなの?」

「いや、君に言われてからは考えたが、襲って来た相手を殺しては不味い事はあるのだ。その時に、相手の攻撃力を削ぎながら、生かして置く事が出来るなら、私はその方法を1つでも身に付けたい」

「・・・それ、周りの人がやれば、あなたがやらなくても良いんじゃない?」

「もちろんそうだが、現に今、私は周りの者と逸れて1人だ。そして君がいてくれなければ、死んでいたろう?」


 男にそう言われると、リルは言葉を返せなかった。


「私には加減が難しいだろうか?」

「魔力が強そうだから、細かい調整はどうだろう?普通は難しいと思う」

「あ、しかし、杖があれば良いのでは?」

「そうかな?」

「杖があれば、調整はし易いのではないのか?」

「一定にするのは簡単だけど、状況に合わせて調整するのはどうだろう?」

「え?そうなのか?」

「私が知ってる杖の使い方ではそう。魔力が多過ぎる時は吸収してくれるし、少ない時は補ってくれる」

「吸収した分を使うのか?」

「うん。杖に魔力を蓄えて置いて。そしてそれでも魔力が足りない時は、引き摺り出して補うし」

「引き摺り出すとは、君からか?」

「うん。あなたの魔力を絞り出して魔法を使ってみせたでしょう?あんな感じで」

「それは君にとって危険ではないのか?」

「でも、目の前で死にそうな人がいたら、助けなきゃだし」

「いや、だからと言って、自分の命を危険に曝してまで」

「違う違う。そんなんじゃないわよ?魔力が枯渇する事はあるけど、体力は残すし。そんな状況になったら、私は自分の命を優先するから」

「そうなのか?是非そうして欲しいが、でも魔力が枯渇してから自分に危険が迫ったら」

「そうなったらさすがに体力から魔力を作ったりするけど、でもそんな状況に出遭った事ないから、大丈夫」

「そうなのか?」

「うん。だから心配しなくて良いから」

「心配するのは仕方がないだろう?だが、君が大丈夫と言うのなら、分かった。信じよう」

「うん、大丈夫」


 そう言うとリルが笑顔を向けるので、男も微笑みを作って返した。それから男は真面目な表情に戻る。


「しかし、杖を使うと威力が一定になるのは問題だな」

「呪文を使うなら調整出来るし、私が知らないだけで、杖だけでもちゃんと微調整出来るのかも知れない。私は自己流だから」

「そうだとしても、相手の防御力を杖が計って、自動で威力調整をしてくれる訳ではないのではないか?」

「分かんないわ。でもその魔法、面白そうね?」

「そうか?その様な事が出来るのか?」

「探知魔法で相手の防御力を計って、その結果と攻撃魔法を組み合わせるとか、更に相手が苦手な魔法を自動で選ぶとか」

「私は魔法に詳しくないが、その様な事が可能なのだな」

「多分」

「だが、もし君が作るなら、ちゃんと制限は付けて置いてくれよ?」

「制限?」

「自動で攻撃して、魔力が引き摺り出されて尽きたりしたら、大変じゃないか?」

「あ!そうね。良く気付いたわね?」

「いや、普通は気付くだろう?」

「そう?私だったら、やってから気付いたかも?」


 男の眉根が寄る。

 心配しなくて大丈夫とのリルの言葉が、途端に男は心配になった。

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