光魔法と黒球
「次は光魔法、やってみる?」
皿にしたりベンチに戻したり繰り返していた男は、リルを見上げると「是非、お願いする」と答えて、ベンチを修復した。
それに跨がりリルは、また男の両手の甲に手のひらを当てて、自分の前に寄せる。
「手首まで見えてる?」
「ああ、大丈夫だ」
「それでは、光魔法で灯りを作る、あ、その前に」
リルは壁の発光を止めた。
突然暗くなった事に警戒して、男の両手に力が入る。それを感じたリルは、暗闇の中で見えはしないけれど、男の顔を振り仰いだ。
「あ!ゴメン!驚かせて。こうしないと、魔力の流れが掴みにくいかと思って」
「いや、問題ない。大丈夫だ」
男は首を左右に振ると、両手の力を抜く。それも感じたリルは、見られはしない微笑みを浮かべながら、前を向いた。
「では、やるね」
そう言ってから一拍置いて、リルは男の両手の間に、淡く優しい光の球を作る。
「どう?」
「いや・・・どうだろう?」
「分からなかった?」
「魔力が流れたのは分かったが、僅か過ぎて、どの様な流れかは分からなかった」
「やっぱり」
「やはり?やはりとは?」
「あなたの魔力容量が多過ぎて、こんな少しの魔力では感じないかなって思って」
「それは詰まり、私は光魔法が使えないと言う事か?」
「ううん。あなたが光魔法を使ったら、明る過ぎて危ないかも知れないって事ね」
「明る過ぎる?」
「うん。太陽とか、直接見たらダメでしょ?」
「ああ、そうだと言うな」
「お皿を作るのに魔力が多くても結果はそんなに変わらないけど、光魔法だと失明するかも知れないから」
「私の魔法でか?」
「威力の調整が出来ないとね」
「それは詰まり、どうしたら良いのだ?」
「こうすれば大丈夫だと思うんだ」
そう言ってリルは、自分と男の両手を光球と共に黒い玉で包んだ。途端に辺りが暗闇に戻る。
「これは?」
「光魔法の一種。光を吸収する魔法ね。この中で灯りを点けましょう」
「光を吸収する魔法などと言うのもあるのか」
「うん。何に使うのか不思議だったけど」
「なるほど」
「じゃあ少しずつ、魔力を強めていくから」
「いや、それではいつまでも、私が魔力を感じられないかも知れない」
「え?でも仕方ないんじゃない?」
「逆に強い所から徐々に減らすのはどうだ?私が分かるギリギリまで下げていって、そこを基準に私が魔法を試して見るのはどうだろう?」
「なるほどね。わかったわ。やってみるね」
「ああ。よろしく頼む」
リルは黒球の中で光魔法で灯りを点けた。しかし辺りは暗闇のままだし、黒球の見た目も変わらない。
「どう?」
「いや、これは駄目だ。黒い玉を作る魔力も一緒に感じてしまっている」
「あ、それもそうか」
「これは、この光を吸収する魔法を先に覚えた方が良いのではないか?」
「うん、なるほど。確かにそうね」
そう言うとリルは壁に灯りを灯す。
「それじゃあ、黒い玉を作ってみるから」
「ああ、お願いする」
リルは自分と男の両手の間に、黒球を作った。
「どう?」
「ああ。今度は分かった」
「じゃあやってみて」
「こうか?」
男は両手に魔力を籠めるが、何も起こらない。
「いや、ダメだな」
「もう1度、やってみようか?」
「ああ、お願いする」
リルがもう1度黒球を作る。
「どう?」
「やってみる」
しかし男は黒球を作れなかった。
「あなたの魔力を絞り出して、作ってみるね」
「ああ、頼む」
しかしこれでも、男は上手く真似を出来ない。
「何故だ?」
「魔力は操作出来てるみたいだけど」
「もしかしたら、私には光魔法の才能がないと言う事か?」
「そんな事言ったらダメよ。普通は練習して練習して、やっと1つ魔法が使える様になるのだから」
「・・・そうか。そうだったな」
「そうそう。それに黒玉は苦手だったとしても、光魔法自体が苦手とは限らないし」
「そう言うものなのか?」
「うん。後は杖や呪文を使ったら、すんなり使えるかも知れないし」
「ああ、その可能性もあったな」
男が納得して肯くのを見て、リルもうんうんと肯き返した。そのリルの様子を見ながら、男は苦笑する。
魔法を使えると分かったら急に欲張りになった自分に対して、慌てずに慎重に進めよう、と男は心の中で唱えると、もう1度肯いた。




