王妃と聖女の立場【傍話】
国王の執務室に、約束も先触れもなく王妃が訪ねて来た。
「国王、いつになったらハテラズの事を」
「待つのだ!」
国王は執務席から立ち上がると王妃の元に向かいながら、室内にいた人々に退室を命じた。
自らドアを閉め、国王は王妃を振り返り厳しい目を向ける。しかし王妃は国王の表情に動じる様子はない。
「あれだけ騒ぎになったのだから、もう皆に知られているわよ」
「だからと言って、余が人前で話す訳にはいかないだろう」
「公開すれば話せるんだから、早く公開すれば良いのよ」
「まだ死んだと決まった訳ではない」
「そう?護衛達が持って帰った遺体が、本当はやっぱりハテラズだったのではないの?」
「そんな筈がないだろう」
「あなたを騙そうとしたからって、護衛達を処刑してしまったりしたのは失敗だったんじゃない?」
「処刑は王妃が進めたのではないか」
「宰相でしょう?あの時の国王の剣幕をみたら、止められる人なんてこの国にはいないわよ。でも処刑してしまって後戻りできなくて、やっぱりハテラズだったと口にする事が出来ないだけなんじゃないの?」
「そんな訳がないだろう」
「どうかしら?だいたいハテラズは何しにオフリーになんて行ったのよ?」
「いや、それは・・・」
「それは?それは次の聖女を探しに?」
「いや、そうではないが・・・」
「私の調子がちょっと悪かったからって、神殿の言う事を真に受けて、いもしない次の聖女を探したりするから、ハテラズには神様の罰が当たったのよ」
「・・・なに?」
「なによ?そうでしょう?聖女である私を蔑ろにしようとすれば、神罰が当たって当然じゃない」
「・・・そなたを蔑ろにした事などないし、ハテラズだって死んだと決まった訳ではない」
「私がなかなか男の子を産まなかったからって、妾を作ったのは蔑ろにした事にはならないの?」
「側妃だ。妾ではない」
「正妻の私がいるのだから、どっちでも同じでしょう?それにハテラズを魔法で追跡するのも出来ず、私が掛けた加護もなくなったのは、死んでいるからとしか思えないじゃないの。そうでしょう?」
「どちらも死んだと言う証拠にはならない」
「どちらも生きている証拠がないって事じゃない。このまま葬儀も上げずに放置すれば、大変な事になるわよ?」
「まだ死んだと決まった訳ではないのに、葬儀など」
「聖女として警告するわ。早く弔ってあげないと、ハテラズの魂はこの世を彷徨って、それ程待たずに悪鬼になるわ」
「そんな、そんな事はない」
「そして王妃として言わせて貰うなら、国の安定の為には、今直ぐにイラスを王太子にする必要があるわ」
「しかしイラスは」
「イラスはなに?あなたの息子はもうイラスだけなのよ?」
「それは、そうだが、しかしイラスは」
「もしかしてまた、新しい妾を置く気じゃないでしょうね?」
「馬鹿を言うな!」
「その慌てよう、図星でしょう?」
「その様な事はない!」
「あの女ね?最近、あなた付きになった侍女ね?」
「そんな訳はないだろう!彼女は関係ない!」
「そう?まあ良いわ。あなたがやらないなら私が進めるわ。イラスの立太子と、序でに婚約発表もね」
「あの娘とは婚約させないと言っているだろう!」
「結婚させるって言ってるでしょう?イラスも気に入っているのだし、あの二人は神に祝福されて夫婦になる運命なんだから、たとえ国王でも邪魔はさせないわ」
そう言うと王妃は言葉の出ない国王に背を向けて、執務室から出て行った。




