マゴコロ商会の利益【傍話】
「スルリ君が分かっているのなら話は早い。確かに下級ポーションを売る様になって、一時的に利益が押し上げられたけれど、販売数は落ちて来ているな?」
「まだ計画よりは売れている」
「確かにそうだが、計画よりは急な角度で落ちている」
「それは、しかし、競合他社も下級ポーションを売り始めたからで」
「それは計画に入っていたのではないのか?」
「・・・入ってはいるが」
「そうだな?それを見込んだ販売計画だったな?」
「・・・ああ」
「しかしその計画以上の減少具合。理由は何なのだ?」
「・・・それは・・・」
「その原因も確認していないのか?」
「それは、幾つかのパーティーがオフリーを離れたからで」
「そうだな。その原因は?」
「その原因?」
「パーティーがオフリーから出て行った事にも、原因はある筈だ」
「それは、調べてはいないが」
「なんで調べないのだ?」
「でも私は!『輝きの光』の管理と販売店への営業と納品管理と!他にも色々とやることがあるんだ!そんな!何かある毎に細かい原因なんて!いちいち調べられるか!」
「なんだそれは?敗北宣言か?」
「敗北だと!」
「パーティーがオフリーを離れた理由の1つは、『輝きの光』をクビになったヒーラーを追い駆けたからだな」
「え?リルを?」
「ああ」
「そんなバカな」
「確かにバカな話だ。どこにいるのか分からないのに、勘や噂に頼って街を移動するなど」
「分からない?」
「ああ。消息不明だそうだ。オフリー近郊で、魔獣との大規模な戦闘跡が見付かったのは、知っているか?」
「あ、いや」
「それに巻き込まれてヒーラーは死んだ、と言うのが今は1番有力な説だな」
「それなのに、リルを探しにオフリーを離れたのか?」
「さあ?その噂を知らないのか、知っていても信じないのか、どちらにしろ状況は一緒だ。しかしヒーラーを捜す為にオフリーを離れるパーティーは、もういないだろう」
「そうなのか」
「ただしそれ以外の理由でオフリーを離れるパーティーは、今後も増えると私は考えている」
「え?」
「詰まりオフリーでの売上は、更に急速に減少すると私は予想するのだが、スルリ君?君はどう思う?」
「どうして?」
「パーティーがオフリーを離れる別の理由なら、オフリーでの低級ポーションの販売がなくなったからの様だ」
「え?低級ポーションって、あの濁った下級ポーションの事か?」
「濁っていたらしいな」
「あんな不純物の多いポーションが、なぜオフリーを離れる理由に?」
「低級ポーションは作り方は下級ポーションと同じだが、効果は全く違うとの話がある」
「効果?」
「ああ、そうだ。下級ポーションと違って不味くて飲めないらしいが、怪我に少しずつ掛けて使えるそうだ」
「少しずつも何も、蓋を開けたらポーションは劣化するじゃないか?」
「普通はそうらしいな。低級ポーションは、蓋を開けたままずっと放置して置くとやがて透き通って来て、そうなったなら普通の下級ポーションと同じ様に、直ぐに消費しなくてはならないらしい」
「らしいって、確かめてないのか?」
「現物が手に入らないからな。持っている冒険者はいるのだろうが、隠しているのだろう。金に飽かしても、一本も手に入っていない」
「そんなバカな」
「冒険者に取っては、命を守れるかどうかだから、蓋をして置けば劣化しないらしいから、保険として手放さないだろうな」
「劣化しないなんて、あり得るのか?」
「まあ、噂だ。しかしその噂を信じているパーティーは多いし、低級ポーションが手に入らないならオフリーのダンジョンは魅力がないと、オフリーを離れるパーティーもいる」
「そんな事でオフリーを?」
「下級ポーションより安かったのだそうだな?冒険者がオフリーを選ぶ理由にはなっていただろうし、それならオフリーを離れる理由にもなる」
「たとえそうだとしても、拠点を移すのは費用が掛かるしリスクもある」
「冒険者だ。リスクは当然考慮するだろう」
「ああ、だったら」
「だから、オフリーに留まる方がリスクが高いと、判断したのだろうな」
「リスクが?」
「冒険者が減れば浅層にも強い魔獣が出て来るらしい。今浅層にいる弱い魔獣は駆逐されるそうだ。そうすると、レベルの高い冒険者しかダンジョンに入れなくなる。入っても死ぬ事が分かっていれば、低レベル冒険者は入らん決断をするだろう」
「それなら、高レベルの魔獣が浅層で狩れるなら、高レベル冒険者には理想的なのでは?」
「確かに近くて楽だろうが、冒険者達はダンジョン探索をしなくて済むならしないのではないか?」
「どう言う事だ?」
「高レベル冒険者はクランを作って、所属するレベルの低い冒険者を育てる事で利益を得る事が出来る」
「それは知っている」
「なるほど。知ってはいても分かってはないな?オフリーで低レベル冒険者が活躍出来ないなら、高レベル冒険者はクランごと移動するだろうと言う事だ」
「・・・え?」
「つまりオフリーは、いずれ冒険者の入れないダンジョンになる可能性が高い」
「そんな・・・バカな」
「まったく。なぜ低級ポーションを作らせ続けなかったのだ?スルリ君?」
「はあ?!マゴコロ商会の下級ポーションを売れって!アンタだって言っただろう!」
「『輝きの光』はマゴコロ商会のものなのだ。そこで作られたポーションはマゴコロ商会のポーションだろう?違うか?」
「いや!だが!アンタもあの濁ったポーションに!そんな効果があるとは知らなかった筈だ!」
「ああ。私は単なる商品発送担当だからな。扱ったことのない物は分からんし、現場の事には責任は取れんよ」
体から力が抜けたスルリは、その場にへたり込む。
「まあ時間はあるかも知れないから、次善策を考えるのだな」
ドアが閉まり、部屋にはスルリ1人になった。




