マゴコロ商会への報告【傍話】
「スルリ君。報告書は読んだけれど、どう言う事なのだ?」
「どうとは?」
「君の担当している冒険者パーティーの事だよ。探索を休んでばかりではないか?」
「それは、体調不良や怪我の治療が重なった為の、不可抗力です」
「それがそもそもおかしくはないか?『輝きの光』は探索頻度がとても高く、休みは滅多に取らなかった筈だ。そうだろう?」
「ええ。そうでした」
「それがどうだ、スルリ君?我がマゴコロ商会が買収した途端に、探索頻度が落ちている」
「それは、たまたまです」
「たまたま?なるほど。一般的な冒険者パーティーがダンジョン探索をする頻度を下まわるほど、『輝きの光』が探索に出なくなったのが、単にたまたまだとスルリ君は言うのだね?」
「状況的に見て、そう言えます」
「状況的?結果的だろう?原因はなんなのだ?」
「原因は、ですから、体調不良や怪我の治療が重なった為です」
「だから、体調不良が長引く原因はなんだ?怪我が続くのは何故だ?」
「ですから、たまたまです」
「それらの原因について、調べていないのか?」
「パーティーメンバーから聴き取りをした結果は、報告書にも書いた通りです」
「いや、スルリ君。これが調査結果とは言わないだろうね?」
「調査結果ですね、それが」
「いいや、君。これは言い訳と言うのだよ」
「しかし本人達からはそうとしか言葉が出ないのですから、それ以上調べようはありません」
「寝付きが悪い、寝覚めが悪い、疲れが取れない、疲れが溜まる、直ぐ疲れる、荷物が重い、いつの間にか怪我をしている、怪我が気になって集中出来ない、魔石を取るのに時間が掛かる、魔石を取り切れなくて魔獣が生き返る、背後から魔獣が来る、魔獣が隠れていて不意討ちをして来る、魔獣が強くなった。なるほど」
「ええ」
「後から加入したヒーラーは、何も言っていないのかい?」
「ええ。彼は体調不良も怪我もありませんから、契約通りにいつでも探索出来る状態にありますので」
「それは何も言ってないのではなく、何も訊いていないのではないのか?」
「いいえ。何も言わないので、聞くも何もありません」
「そうか。しかし前からのメンバーも、もっと他に色々と言っているのではないか?」
「他に?いいえ」
「そうか?私の耳には、別の話も入っているのだがね?」
「そうですか。どんな話です?」
「スルリ君は彼等にポーションを使わせないそうではないか?」
「ふっ。そんな訳がある筈はないではないですか?怪我をしてもポーションを使わなければ、探索を中断せざるを得ない。利益を上げられる階層への往き来にはそれなりの時間が掛かるのに、ポーションで治る程度の怪我で戻って来させる筈がないでしょう?」
「まあ、常識的に考えれば、そうだな。しかし実際に『輝きの光』の消費するポーションが、帳簿上では減っている」
「それは探索頻度が減っているからです」
「その1回の探索で消費するポーション量も、減っているのではないのかね?」
「それはポーションで治らない程の怪我をして、探索を切り上げて帰って来るからです」
「なるほど」
「ええ」
「しかし私にはもっと、根本的な原因が在る様に思えるのだがね?」
「原因?なんですか?」
「これ、とは言えないが」
「まあ、そうですよね」
「しかし、『輝きの光』が悪いスパイラルに入っているのは確かだろう?」
「スパイラル?」
「そうだ。大怪我をするから探索出来ない。探索出来ないからノルマが熟せない。ノルマが熟せないから借金が増える。借金が増えるから焦って無理な探索を行う。無理な探索を行うから大怪我をする」
「それは、借金をチャラにしろと言っているんですか?」
「損切りをしろと言う意味では、近いな」
「良いんですか?」
「何がだね?」
「冒険者パーティーを買収すると言うのは、あなたのアイデアじゃないですか?」
「君が探索頻度が飛び抜けているパーティーがあるから、マゴコロ商会がスポンサーになって、もっと良い装備やフォロー体制を整えれば、いくらでも利益が出せると言ったのではないか?」
「いや、それだってあなたが、冒険者パーティーからもっと利益を受け取る為のアイデアを出せと言ったからだ」
「それは私の立場としては当然だろう?そして君の立場としてはアイデアを出すのも、それを実現させるのも当然だな?」
「しかし『輝きの光』の買収も、あなたの指示で!」
「いや。私は買い取りも視野に入れたパーティー運営を助言しただけだろう?」
「汚いぞ!」
「なんだね?それが肩書が上である私に対しての言葉かね?」
「私に全ての責任を押し付ける気か?」
「冒険者パーティーのスポンサー契約も、その後の買収も、現場責任者はスルリ君だろう?」
「あなただって関わっているじゃないか!」
「私が関わっているのはオフリーでの冒険者達への、探索向け商品の売買だな」
「それも私の担当だ」
「もちろん分かっているよ。私は君から届いた発注書に従って、商品の発送をするだけだ。君の功績や君の産んだ利益を横取りする気はない。そちらも現場責任者は君だからね?」
「そちらの利益で、『輝きの光』の損失はカバー出来る」
「ノルマ未達分の損失は、『輝きの光』のメンバーの借金になるのだから、帳簿上は今でも損失は出ていないだろう?」
「それはそうだが」
「損失が表面化するのは、損切りした時だ。その時に他の利益をどれ程損なうか、それが問題だよ」
「そんなのは分かっている」
分かっている事をわざわざ口にされて、スルリは吐き捨てる様に応えた。




