捜索の命【傍話】
報告を受ける為に国王は謁見室に入ると、席に着く間も惜しんで質問を投げた。
「何か見付かったか?」
旅の汚れの付いたままの姿で片膝を付いていた騎士の1人が、頭を上げないまま「いえ」と応える。
「手掛かりも見付からないのか?」
「捜索の範囲を広げましたが、一向に」
「一体、どういう事なのだ?」
「今回は魔獣に詳しい者を同行させました」
片膝を突いている旅装のままの1人が、もう少し深く頭を下げた。
「この者によりますと、彼の方はやはり、強い魔獣に襲われたのではないかと」
「しかし、遺体は今回も見付からなかったのだな?」
「仰せの通りです」
「それならハテラズは生きている筈だな?」
「それは、彼の方のお怪我の程度が分かりませんので、何とも」
「しかし遺体が見付かっていない限り、生きているとしか考えられないではないか?」
「既に報告致しました通り、彼の方の馬はオフリーの街で見付かっております。目撃者の話では、馬が彼の方の元を離れたのは、彼の方の行方が分からなくなった当日と思われます。それからの日数で人の足で進める範囲に付いては、彼の方の手掛かりは何も見付かってはおりません。彼の方の護衛達が持ち帰りました品のみです」
「それがおかしいではないか?もし死んでいるのなら遺体が見付かる筈だし、着ていた衣服も見付かってないのだろう?」
「はい。彼の方の鞘もでございます」
「そうしたら誰かの助けを借りて、どこかに生き延びていると考えるのが妥当であるな?」
「それが、魔獣に詳しいこの者に拠りますと、衣服などを巣の材料とする魔獣もおるそうです」
「衣服をだと?」
「はい。高価な生地が好まれ易いとの事です。変装なさっていたとはいえ、彼の方のお召し物は、価値は高い物でした故、狙われたのかも知れません」
「そんな」
「彼の方の鞘に付きましても、好みそうな魔獣がおるそうでございます」
「巣材にか?」
「いえ、求愛道具に」
国王は目を瞑ると顔を少し上に向け、椅子にドサリと腰掛けた。
家宝でも国宝でもないが、自分が若い頃のお忍びの時に愛用していた剣。下げ渡したその剣の鞘が、魔獣の求愛に利用されている様子は、どうにも国王には想像出来なかった。
「それで、今後の方針は?」
国王に尋ねられた騎士は、直ぐには声が出なかった。
これ以上の捜索は無意味だと、捜索を担当した者達の意見は一致している。そして先ほどの説明で、国王が諦めると誰もが思っていた。
「追跡魔法でも、彼の方の居場所が特定できません。闇雲に探すのではなく、彼の方の情報に懸賞金を掛けてはいかがでしょう?」
「行方が分からぬ事を公表しろと言うのか?」
「あ、いえ。立場を越える発言でした。申し訳ございません。ご容赦下さい」
「いや、問うたのは余だ。構わぬ」
「ご容赦、ありがとうございます」
「しかし闇雲との言葉は見逃せん」
「・・・は?」
「そなた達は、闇雲に捜索をしておるのか?」
「いえ!滅相もございません!確りと計画を持って、漏れや取り零しのない様に、細心の注意を払って捜索を行っております」
「さすがにあの護衛共の様な事は、間違っても行わない様になっておろうな?」
「もちろんでございます」
「ならば良い。王妃が強く望んだのであやつらも1度は赦したが、まさか誰だか分からん遺体を持ち込んで、ハテラズだなどと言いおって。余はその様な欺瞞は2度と赦さぬ」
「それはもちろん、肝に銘じております」
「ああ。そなた達の事は信じておる。しかし真剣に捜索を行っておるそなた達なら、実際に捜索をしてみて、初めて気付く事もあるのではないか?その中で、見つけ出す為の新たなアイデアはないのか?」
「それは・・・」
「そなたでなくても良い。誰か、誰でも良い。どんな案でも良い。何か考えを持つ者はおらぬのか?」
国王の問いに、皆は更に頭を下げた。
「まあ、そうだな。皆は全力を尽くして捜索をしてくれた事と思う。それについては感謝しよう」
「もったいなき御言葉にございます」
「帰ったばかりで皆も疲れておろう。今日はゆっくりと休んでくれ」
「温かき御言葉、痛み入ります」
「良い。疲れていては、良い案も浮かばんだろう」
「・・・は?」
「疲れが取れたら、今後はどの様に捜索を進めるのか、案をまとめてから持って参れ」
「あの、新たな案でございますか?」
「新たなものでも以前の案でも構わぬ。何かしらを見つけ出せさえすれば、なんでも良いのだ。良いな?任せたぞ?」
国王にそう言われたら、首を左右に振れる者は、この場にはいなかった。




