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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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強力

 強力なポーションの効果は現れた。


「・・・ホントに感じてるの?」


 横になっている男の頭側に座って両手を握り合いながら、リルは疑わしそうな顔をする。その表情が視界に入っていない男はそれに気付かずに、嬉しそうに肯いた。


「本当だとも。私が嘘を()く必要はないだろう?」

「強力ポーションをもう飲みたくないから、とか?」

「う・・・それを言われると、自分でも否定は出来ないが」

「否定できないんだ」

「しかし、もう飲まなくても良い訳ではないだろう?」

「そうね。魔力操作が出来るまでは、飲み続ける必要があるし。でも漏れてしまう魔力を補充するだけなら、前のポーションでも良いんじゃないかと思ったけど、ちょっと待って」

「確かにと思ったが、どうしたのだ?」


 リルは男の横に移動して、男の額と胸に手を当てる。男ももうリルに()れられる事に、いちいち抵抗をしなくなった。


「やっぱり。魔力が増えたら、漏れる量も増えてる」

「漏れる量が?そんな事があるのか?」

「魔力を漏れない様にするのって、魔力が貯まるほど力を使うのよ。力って言うか集中力って言うか。最初はね?慣れれば無意識に出来るけど」

「なるほど。魔力が増えると漏れようとする圧力が高まるのか」

「そんな感じ。今も自分の魔力を感じる?」

「少し待ってくれ」


 男は目を閉じて、呼吸を止めた。

 小さく肯いてから息をする。


「ああ、大丈夫だ。しかしやはり、魔力を波立てて貰った方が分かり易いな」

「それはね。この漏れ具合だと、強いポーション1本で、弱いポーション3本分の時間くらいしか持たないかな?」

「そうか・・・作るのはどちらが大変なんだ?」

「弱いポーションを3本の方が大変。少しね?」

「それなら強力ポーションで良い」

「そう言ってくれるかとは思ったけど・・・」

「・・・どうした?心配してくれるのか?」

「心配と言うか、もっと強力なポーションも作れるけど、どうかなって」

「もっと?それは(にお)いは?」

「私には耐えられるけど、あなたには(つら)いかも」

「そうだろうな。味はどうなんだ?」

「一口舐めたら、2日は何食べても不味かった」

「それほどにか。君の見立てだと、そのもっと強力なポーションなら、どれくらい持ちそうなんだ?」

「弱いポーション10本分くらい?」

「そうか。そして弱いポーションを10本作るよりは、もっと強力なポーションを1本作る方が、君には簡単なのだな?」

「うん、そんな感じね」

「・・・それ以上に強力なポーションもあるのか?」

「レシピは知ってるけど作った事はないし、今は材料もないけど。さすがに飲めないんじゃない?」

「いや。強力なポーションであの(くさ)さだ。もっと強力な物で臭さの限界に達しそうだし、そうなればそれ以上のポーションでも臭さは同じにしか感じられないかも知れない」

「その前に、もっと強力なポーションが飲めないかも知れないけどね」

「そうだな」

「あ、あと、あなたの魔力容量がまだ分からないから、もっと強力なヤツだと魔力が多過ぎるかも?」

「なるほど。多過ぎる魔力を摂取した場合はどうなるのだ?」

「漏れると思う」

「それは、それだけなのか?」

「体が破裂したりはしないから、それは大丈夫」

「怖い事を言う」

「だから大丈夫だって」

「これは思い付きなのだが、それを漏らさない事は出来るのだろうか?いま私が漏らしている魔力は、魔力操作が出来れば留められるのだろう?」

「それがまさに、魔力容量を増やす方法ね」

「そうなのか」

「でも注意しないと、体の中の魔力の圧力が高くなり過ぎて」

「まさか破裂か?」

「違う違う。魔力が結晶化してしまうの」

「それは、つまり、魔石?」

「ええ。魔石症って病気ね」

「魔石症?病気?体内に魔石を持つのは、魔人ではないか」

「魔人と呼ぶ地方もあるけど」

「地方?ローカルな話ではなく、一般的な話ではないのか?」

「どうかな?あまり見掛けないでしょう?」

「いや、確かに実際に見た事はないが、魔人が暴れる様な話は各地に残っているだろう?」

「でも、お伽話でしょう?」

「いいや。実際の被害の様子が、国の資料に残っている」

「そうなの?確かに魔石が体内に出来ると、性格が変わったりする事もあるらしいけど、本人も周りも気付かない事もあるし」

「そうなのか?」

「うん。出来た魔石に属性が付いて、その属性以外の魔法が使い(にく)くなって、気付く人はそれで気付くらしいわ。属性が付かないと逆に、全ての魔法が使い易くなるらしいけど、滅多にないって言うし、ホントかどうかは分からないかな」

「なんと言うか、私が知っている魔人のイメージとは、大きく違うな」

「そう?もしかして違う話なのかな?治療方法は?」

「治療?魔人の?」

「ええ。魔石症なら魔力を消費して体内の魔力濃度を下げ続ければ、そのうち魔石が溶けて消えるし」

「治るのか?」

「うん。そのやり方だと時間は掛かるけどね」

「どのくらいで治るのだ?」

「魔石の大きさによると思うわよ?その人の魔力容量や魔力生成能力も影響するかな?」

「確かに、そうだろうな」

「急ぐなら魔石を摘出すれば良いし」

「摘出?殺すのか?」

「なんでよ?治療って言ってるでしょ?」

「死なないのか?」

「死なせないから治療って言えるんでしょ?」

「いや、しかし、魔獣は魔石を取ると死ぬのでは?」

「魔石を取っただけでは死なないわよ。魔獣を狩っても、魔石を取らないと生き返る事があるから、魔石を取るの」

「そうなのか?」

「多分。元気な魔獣から魔石を取るなんて出来ないから、私は試した事はないけどね。でも人間と同じなら魔獣も、弱らせただけのところで魔石を抜いて、治療すれば生き続けるかもね」

「なるほど」


 男が納得した様子に、リルは満足して小さく肯いた。


「それで?」

「それで?」

「もっと強力なポーションを飲んでみる?」

「・・・私が魔人化したらどうするのだ?」

「そんなに直ぐには魔石は出来ないから。それにもし出来ても、私が治してあげるし」

「魔石を摘出して?」

「ええ。そして直ぐに傷口を塞いで、回復魔法も掛けるから」

「私が凶暴化したらどうする?」

「だって魔法が使えないんでしょう?」

「う・・・そうだな」

「それなら問題ないわ。あ!もしかしたら!魔石を体内に作れば、あなたも簡単に魔法が使える様になるかもよ?」


 男はリルの、その呑気に思える提案に、乗る気にはなれなかった。


「もしかして君?私で試してみたいなんて考えていないだろうな?」

「え?あ・・・ごめんなさい」

「いいや。命の恩人の願いなら叶えたいが」

「違うの!チャンスと思っちゃっただけで。凄い魔力容量なのに魔法が使えない人なんて、初めてだから」

「それなら試してみずとも良いのか?二度とこんな機会はないかも知れないぞ?」

「イジワル言わないでよ、謝るから。私の好奇心より、あなたを治す事の方が大切なのは、私だって分かってるから」

「いや、意地悪ではなく、恩を返す機会かと思ったのだ」

「だから恩は言葉だけで良いんだってば」

「礼はそうだが、しかし、私が魔人になっても君が治してくれるなら」

「だからそう言う事は言わないで!」


 睨むリルの目が潤むのを見て、男は「申し訳ない」と謝った。


「調子に乗ってしまった様だ。どうか赦して欲しい」

「ううん。元はと言えば、私が言い出したんだし、私がごめんなさい」

「いや」

「ねえ?」


 男が言葉を続けそうなので、謝罪が続くなら打ち切ろうと、リルは明るい声を上げた。


「もっと強力なポーションはどうする?作ってみようか?」

「ああ。飲むから作ってくれ」

「飲むから?飲めなかったら良いよ?」

「もっと強力なポーションは、作っても君は使えないのだろう?」

「まあ、自分では飲む気にはなれないけど」

「作って貰って無駄にする事は出来ない」

「それ、(にお)いを確かめてから言った方が良いんじゃない?」

「いいや、飲む。治療を早く終わらせる為にも、私は飲む」

「・・・そう」


 男の言葉にリルは微笑みを作って返したけれど、そこには旅を早く再開出来る事に対しての喜びは含まれていなかった。

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