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クビ

 リルがパーティーのホームに戻ると、マゴコロ商会から派遣されている社員のスルリが声を掛けて来た。


「アナタの処遇が決まりました」

「え?処遇?」

「ええ。アナタには今日をもって、『輝きの光』を辞めて頂きます」

「え?辞める?」

「ええ」

「辞めるってどう言う事ですか?今日?今日って、なんで?どう言う事ですか?」

「マゴコロ商会が『輝きの光』を買収した時点で、アナタを解雇する方針は決まっていました」

「解雇?え?買収?マゴコロ商会は私達のパーティーのスポンサーになっただけですよね?買収って何ですか?」

「『輝きの光』をマゴコロ商会が買ったのですよ。『輝きの光』はマゴコロ商会の物です」

「え?そんな話、聞いてません!」

「ええ。アナタには辞めて貰う積もりでしたので、伝えていませんから」

「そんな!私がいなくなったら、パーティーメンバーの回復はどうするんですか?」

「新たな回復担当を手配しました」

「新たな?え?なぜ私を辞めさせて、わざわざ別の人を連れて来るんですか?」

「『輝きの光』の探索速度が上がらない理由を分析しましたが、(ひとえ)にアナタの移動速度が遅いからですよね?」

「え?でも、それは」

「言い訳は結構です。新しい回復担当は元僧兵ですから、体力もありますし、攻撃にも参加出来ます。ダンジョンで連携を試しましたけれど、メンバー達の働きが上手く噛み合って、皆が探索速度を上げる手応えを感じたとの事です」

「え?試したっていつ?」

「今日もメンバー達はダンジョンに潜って、連携を確認しています」

「今日も?でも、そんなに直ぐに連携が取れたりする筈は」

「取れますよ。皆、プロなのですから」

「・・・そんな」

「素人を入れておくと足を引っ張るだけなので、アナタにはパーティーを辞めて貰うのです」

「それは、でも、リーダーもみんなも、私が辞める事に納得してるんですか?」

「納得も何も、マゴコロ商会が『輝きの光』を買収する時の条件に、メンバーの見直しが含まれていましたから」

「え?契約書にはそんな事は書かれてませんでしたけど?」

「アナタの知っているスポンサー契約には、書かれてはいません。しかし買収の契約書には、ちゃんと書かれていますよ」

「・・・そんな」

「ですので、荷物を纏めて直ぐにこのホームから退去して下さい」

「待って下さい!ポーションはどうするんですか?借金を返すには、ポーションも売らないとダメな筈です」

「借金も含めて『輝きの光』の資産はマゴコロ商会の物です。借金の心配を部外者のアナタがする必要はありません」

「でも今、このオフリーで下級ポーションを作ってるのは私だけです」

「低級ポーションと呼ばれている、あの濁ったポーションですよね?マゴコロ商会はちゃんとした、澄んだ下級ポーションを納品しますから、ご心配なく」

「・・・そんな」

「と言う事で早速退去を。荷造りをしないと言うなら、手ぶらで出て行って貰います」

「・・・そんな」

「ああ、そうだ。面倒なので予め伝えて置きますけれど、アナタが使っていた杖は売りましたので」

「え?私の杖を?性能を確認してたんじゃないんですか?!勝手に売ったんですか?!」

「帳簿上あの杖は『輝きの光』の資産です。つまり『輝きの光』を買収したマゴコロ商会の物なのですから、売ろうと捨てようと『輝きの光』を解雇されたアナタには関係ありません」

「そんな!あれは私が育てたんです!あれは私が時間を掛けて、私があそこまで育てたんです!」

「しかし帳簿上はパーティーの共有資産になっていた事は、これまで帳簿を付けていたアナタ自身も知っていた筈です」

「それは、パーティーで借金をした時に、資産が全然ないと利息が高くなるからで」

「経緯には興味ありませんし、意味もありません。事実は『輝きの光』の資産であった杖は、マゴコロ商会に所有権が移っており、既にマゴコロ商会が売却したと言う事です」

「誰に?!誰に売ったのですか?!」

「売買には守秘義務がありますし、無関係なアナタに教える訳はありません」

「そんな」

「それに、どうせアナタには買い戻せないでしょう」

「でも!あの杖がないとポーションを作るのにも時間が掛かっちゃうんです!」

「関係ないではありませんか。杖なんてなくても作れるでしょう?そもそも低級ポーションを作る必要は、なくなったのですし」

「そんな」

「さあ。アナタへの説明に、大分(だいぶ)時間を取られてしまいました。荷造りの必要がないなら、このまま出て行って下さい」


 ドアを指差してスルリにそう言われ、リルは慌てて自分が使っていた部屋に向かう。

 とは言っても、リルはほとんど私物を持たないので、荷造りは直ぐに終わった。


 部屋から出ると、リルが何かを盗んだりしないかと監視していたスルリがいた。

 リルはスルリに手を差し出す。


「なんです?別れの握手ですか?」

「違います!私がパーティーに預けてあるお金を返して下さい」

「何を言っているのです。そんなものはありませんよ」

「はあ?そっちこそ何言ってんの?!ちゃんと帳簿に載ってるでしょ!」

「載ってた、が正しいですね」

「載ってた?」

「パーティーの借金をメンバーで頭割りして、相殺しましたから、もうありませんよ」

「あれは私のお金よ!何でそんな事するの!」

「何でって、新しくパーティーメンバーを迎えるなら、借金は一旦清算しておかなければならないじゃないですか?」

「あれは私がパーティーに預けてあったのよ?!パーティーに取っては私からの借金じゃない!」

「アナタはヨソ者だから分からないんでしょうけれど、この国ではこれが法に則った正しい対処なのです」

「え?・・・ウソ?」

「本当ですよ。私はこの国を代表するマゴコロ商会の社員ですよ?アナタの預け入れ金の様な端金(はしたがね)で、ウソを吐く筈はありません。侮辱しないで下さい」

「そんな・・・」

「さあ、早く出て行って下さい。あ、ホームの鍵は出して」


 スルトが出した手に、リルは鍵を出して載せた。


「みんなの食事はどうするんです?」

「料理人も手配しました。アナタのあのマズい料理を食べなくて済むのも、皆が喜んでますよ」


 リルの作る料理は体力や魔力の回復を優先していたので、パーティーメンバーには味を否定され続けて来た。それでも最初の頃よりは味が向上して、比べ物にならないくらいマシにはなっている。


 パーティーに入ったばかりの頃の、マズいと言いながらも回復の為に我慢して食べていたメンバー達の顔を懐かしく思い出しながら、リルはホームを後にした。

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