難航
リルは拠点を土ドームから移動した。
ポーションの材料や食料の調達をするのに適した場所まで、土ドームからでは距離があった。それなので、拠点を離れている時間を短く出来る場所の地下に、新たな拠点を土魔法で作ったのだ。
男はまだ自力では移動できないので、リルは土ドームから新拠点までのトンネルを掘って、その中を通って男を運んだ。
男が魔力操作を覚えるのは、かなり難航していた。
リルに素手で手を握られる事は、男も諦めて受け入れたのだが、なかなか感覚を掴めないでいた。
「これでどう?」
リルが男の両手に魔力を流しながら尋ねる。
「・・・いや、駄目だ。やはり全く分からない」
「前よりはあなたの中で、魔力が波立ったんだけど」
「申し訳ない」
「ううん。魔力が溜まっていないから、小さな波しか立たないし、分からなくても仕方ないよ」
「しかし、魔力操作を覚えなければ、私は魔力を貯められないのだろう?」
「ええ。漏れてしまっているからね」
「その為にはまず、自分の中の魔力を感知出来なければならないし」
「そうね。感じられない物は、操作も出来ないからね」
「・・・打つ手は無しか」
リルは「いいえ」と言いながら、指を2本立てる。
「手は2つはある」
「そうなのか?それは、どの様な手段なのだ?」
「1つはもっと強力なポーションを飲む事。あなたの中にもっとたくさんの魔力を注ぎ込めば、大きな波を作れて、自分の魔力を感知できるかも知れないってわけ」
「そのポーションは、君が作れるのか?」
「ええ。でも、かなり不味い」
「なるほど」
「ねえ?本当にいま飲んでるポーション、不味くないの?」
「いや、もちろん不味い事は不味い。しかし臭いは苦手だが味はそれ程でもないのは確かだし、別に私が嘘を吐く必要はないだろう?」
「まあ、そうだけど。でも、イガグリズリー肉は美味しく感じるんだよね?」
「うん?ああ、その通りだ。美味しいし、焼いたら良い臭いだ。でも何故?君も美味しく思うのだろう?」
「もちろんだけど、私にはポーションが不味くしか感じないから」
「なるほど。繊細なのだな」
「・・・絶対に違う。ポーションが不味く感じるのは、絶対に私が繊細だからじゃないから」
「まあ、そう言う事にして置こう」
「・・・そうね。それでね?強力なポーションだけれど、私は一口も飲めないくらいに不味いの」
「そうか」
「あと、同じ様な物に中級ポーションって言うのがあって、こっちは味が悪くないらしいけど、私が作ると失敗するのよ」
「失敗?失敗の理由は?」
「分からない。何度やっても、燃えちゃうの」
「燃える?ポーションって液体じゃないのか?」
「液体よね?」
「ああ、なるほど。材料が燃えるのか」
「いいえ。出来上がり間近に液体が燃えて、なくなっちゃうの」
「・・・それは、杖を使っても?」
「杖があってもなくても、燃えちゃう」
「それはたとえ作るのに成功したとしても、飲んで大丈夫なのか?」
「材料には危険な物はないんだけどね」
「たとえそうだとしても、燃えてしまう時点で材料か作り方か、見直すべきなのではないか?」
「そうよね?」
小首を傾げるリルの様子に、男は息を小さく吐いた。
「もう1つの手段は何なのだ?」
「あ、うん。それはね、あなたの魔力生成能力をアップさせて、漏れるより多くの魔力を産み出す事」
「・・・出来るのか?」
「多分」
「私は魔法が使えなかったので、魔力とか魔法とか詳しくないのだが、魔力を増やすのは大変だと聞いた事はある」
「そうらしいよね」
「そうらしい?君は苦労しなかったのか?」
「魔力を増やせるって最近知ったから、まだ試した事はないの」
「魔力不足で困る事はないのか?」
「足りなくなったらポーションで回復してたから。あ?あなたの解毒ではギリギリで、ちょっと困ったかな?」
「なるほど。迷惑を掛けたし、今も掛け続けているのだな」
「あ!恩に着せようと思って言ったのではないからね?」
「分かっている。恩には着ているけれど」
リルは肩を落とした。
「ああ、失敗したわ」
「私が恩に感じているだけなら、別に構わないのだろう?」
「感謝の言葉だけで良いって言ってるじゃない」
「ああ、ありがとう。でも言葉だけではなくて、感謝の気持ちも育っているのだ。仕方ない」
「私あなたに、治療が済んだら忘れてって、言ったよね?」
「ああ、言われた事は覚えている。そして君に治して貰って、別れた後なら全て忘れるよ」
リルは目を細めて眉間を狭める。
「・・・本当ね?」
「命の恩人の頼みだ。約束する」
「・・・まあ良いわ」
「それでその2つ目の方法だが、どうすれば良いのだ?」
「どうすれば良いんだろうね?」
「うん?・・・知らないのか?」
「方法は幾つかある筈で、1つはイガグリズリー肉より魔力が作れる食材を探す事。あなたはこれまでそう言うお肉を食べて生きて来た筈だから、それさえ見付かれば確実よね?」
「そうだが、食材では、君には倒せない魔獣の可能性が高いのだろう?」
「そうだけどね」
「他には?」
「魔力を持たない食材からでも魔力って作れるから、あなたのその能力を鍛える」
「それはどうやって?」
「手探りで、かな?」
「まあ、そうだろうな。そうではないかとは思った。その方法が分かっているなら、君は既に私に試させているだろうからな」
「まあね」
「他には?」
「ほか?ほかかぁ・・・あれは違うし」
「どれだ?どの様なものでも良いから、聞かせて貰えないか?」
「魔力を作るんじゃなくて、魔法を使う時の効率を上げて、魔力消費を少なくする方法」
「なるほど。そんな手段もあるのか」
「まあ、方法と言っても手順ではなくて、私が知ってるのは、効率を上げる為の修行に付いてなんだけど」
「そうか」
「でも、私達の問題解決には繋がらない」
「そうだな」
男は小さく何度か肯いた。
「と言う事で、強力ポーションを作ってみましょうか?あなたが飲めるなら飲んで貰って、魔力を感知出来るか試しましょう」
「ああ、そうしよう。よろしく頼む」
「ええ、任せて」
そして強力ポーションが作られたのだが、その臭いで飲む事を男が躊躇って、リルと争う事になる。
もちろん体力の戻っていない男がリルに敵う筈もなく、男は強力ポーションを飲まされた。