両親の状況
「お母さんも?」
ズーリナの薬師はリルに肯く。
「ああ。ガリも早い内から薬師としても技術者としても認められていたが、その為にやっかみを受けたり妨害されたり、権威者と衝突したりしていた」
「バジ様は」
「リル。私の事は、お祖父様と呼びなさい」
「あ、はい。お祖父様はお父さんの事を助けなかったの?」
「私も若い頃は同じ様な目に遭ったし、優秀な人間は誰でも同じ様な経験をするのだ。それなのでガリにはそう言うものだと言って、我慢するように言っていた。しかしガリは私などより余程優秀だったから、嫌がらせ等も私よりかなり酷いものを受けていたらしい。その事はガリがいなくなってから知ったのだが」
「気付くのが遅かったのね」
「その通りだ。そしてガリがこの国で女性と一緒だと言う情報が届いて、嫌がらせや妨害でガリを追い出したとされて責められていた連中が、ガリがその女性、ルルに誑かされたとしてルルを指名手配させたのだ。ガリは国家機密の一部を知る事が出来る立場だったから、その知識やあるいは技術を盗んだとして」
「ズーリナと同じ様な感じなのね」
「ああ。それでガリとルルを捕らえる為にこの国に人を送ったのだが、2人は見付けられなかった。まさかデメース神国に渡っているとは思ってもみなかったからな」
「そうなの?なんで?」
「デメース神国は神殿の力が強く、薬も魔導具も自由に作れないし売れない。ガリが何かをしようとしても、イザン以上に妨害される筈だ。その様な国でガリが暮らすなどとは、誰も思ってはいなかったのだ」
「ルルもそうだよ。神官達をあれだけ嫌っていたのに、神官が国を牛耳っているデメース神国に行っているなんて誰も思わなかった。だからデメース神国で捜したりはしなかったので、ずっとルルを見付けられなかったんだ」
「そうだな。しかしガリがデメース神国を出てこの国に入ると、途端にイザンに情報が届いた」
「それはズーリナでも一緒だったよ。それなので神官達がルルを迎えに人を送ったんだ」
「なんで?お母さんがズーリナを出たのって私が生まれる前でしょ?まだずっと捜してたの?」
「ルルがいなくなってから、聖女達も大聖女も、神官達に大反発したからね。みんなが持ってた不満が爆発して、今も表立って対立しているし、次の大聖女候補を立てるにしても、聖女達も神官達もルルの二の舞にはしたくないから。それよりはルルが生きているのなら、ルルを呼び戻そうとしたんだよ」
「それはイザンも同様だな。ガリを妨害していた者達は、ガリがいなくなってから成果をなかなか上げられていない。もう何年もだ。それなのでやはり、ガリがこの国へと現れた情報が入ると即座に人を送った。しかしガリを見付ける前に、デメース神国のダンジョンでスタンピードが起きたのだ」
「あれのお陰でズーリナはルルを見失ったんだ」
「イザンもだ。そしてアンデッド達がデメース神国から溢れ出すなか、魔力切れで瀕死のルルを見付けてイザンに連れ帰り、秘密裏にルルを閉じ込めていた」
「なんで?お母さんはお父さんの仕事の情報なんて知らないし、お父さん程には薬も魔導具も作れないわよ?」
「そうだろうな。捕まえたは良いがどう扱えば良いのか分からずに、ただ閉じ込めていたらしい。ガリがもし生きていたら、ルルをガリを呼び戻す為の人質にする積もりだったのかも知れんが」
「そんな」
「ああ、その考えもあるね。ズーリナもスタンピードで瀕死になっていたガリを見付けて連れて来たのだけれど、ルルを見付けていたら連れ戻す時に、ガリを人質にしたかもね」
「どっちも、酷いよ」
「そうだな」
「ごめんよ、リル」
「でも、お祖母ちゃんもお祖父様も、お父さんとお母さんが自分の国に連れて来られてる事を知らなかったのよね?」
「ああ、そうだ」
「知ってから直ぐに、ガリを保護したよ」
「ルルもだ」
「そう。2人とも無事なのね?」
「無事、と言えるかどうか」
「ルルもリルも行方が掴めなかったから、ガリはとても参っているんだよ」
「ルルもだ。病気も怪我もしてはいないが、とても健康とは言えない」
「あの手鏡。あれでリルが生きていた事は分かっていたそうだよ。でもガリは魔力切れで返信出来なかったって」
「ルルもだ。そしてイザンに連れて来られてからは、魔力が回復しても魔法が使えない様にされていたので、リルと連絡が取れなかったそうだ」
「ガリもだね。我が家に引き取れてから何度もリルと通信をしようとしていたよ」
「だが距離があったから繋がらなかった様だな。それでルルは、リルの身をとても案じていた」
「ガリも同じさ。裁判だけじゃなくてそれもあって、リルにはズーリナに来て欲しかったんだ」
「私も同じだ。だがこうしてリルに会えた上に、ガリが生きている事も分かった」
「そうだね。その事を伝えればガリも元気になるだろうし、ルルを証人に呼ぶ事にすれば、裁判も先送り出来る」
「そうだな」
「その為には余からも両国に遣いを出そう」
「ありがとうございます、陛下」
「感謝致します、陛下」
「いいや。余の命の恩人であり、ハテラズの大切な女性の両親の為だ。リルは余の娘にもなるのだし、親としては当然だ」
「ありがとう、お父さん」
「うむ」
目を潤ませるリルに、国王は優しく微笑んだ。
それを見てズーリナの聖女もイザンの薬師も肩の力を抜く。
そしてハルは真剣な表情で、喜ぶリルを見ていた。
 




