表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

185/189

祖父母と両親

 離宮の応接室の1つに5人が入る。

 テーブルを前に、上座に国王が座り、その左右の片側にズーリナの聖女とイザンの薬師が、もう一方にリルとハルが腰を下ろした。ハルに(いざな)われただけのリルは気付かなかったが、リルが座ったのは国王の席の次に偉い人の席だ。


「さて、ララ殿、バジ殿。リルはズーリナ聖国とイザン工国が捜索依頼を出していた、あのリルと言う事で間違いないのだな?」


 年齢が合わないと言われた事を思い出して、リルの眉根が僅かに寄った。それが視界の端に映った国王の眉根も寄って、浅く皺が出来る。


「はい」

「その通りです」

「リルはルルの娘で間違いございません」

「ガリの娘でございます」

「うむ」


 国王は「少女」などと言わない様に、改めて気を引き締めた。


「ズーリナ聖国からもイザン工国からも、発見次第引き渡して欲しいとの要望が来ていた。しかしリルは1人であるし、見て貰った通りハテラズの大切な女性でもあるし、余の命の恩人でもある」


 国王は少し「女性」の単語を強調して発音した。


「はい。ですがリルには何としても1度、ズーリナ聖国を訪ねて来て貰わねばなりません」

「イザン工国も訪ねて貰う必要があります」

「うむ。と言う事なのだが、リル?」

「私は構いませんけれど、ね?ハル?」

「ああ。私も一緒でよろしければ、私も構いません」

「ハテラズ殿下ももちろん歓迎致します」

「イザンもです。ただし急ぎイザンを訪ねて下さった方が、リルに取っては良いかと」

「それはズーリナの方こそです。リル?先にズーリナに来た方が良いよ?」

「リルを帰さない積もりか?」

「そうじゃないよ。こっちには都合があるんだよ」

「それはイザンもだ。陛下、国家の機密に絡む話がリルにありますので、2人だけで話しても良いでしょうか?」

「なんですって?」

「ああ、構わん」

「ありがとうございます。リル、こちらへ」

「ちょっと!バジ!」

「陛下もお許しになったのだ。悪く思うな。さあ、リル」


 イザンの薬師に促されて、リルは部屋の隅でイザンの薬師と言葉を交わす。その2人の様子をズーリナの聖女は体を捻って凝視し、ハルと国王も2人に顔を向けた。テーブルに残った3人は耳を澄ます。


「ホント?!」


 リルの声が喜びに弾んでいるのが、ハルにも国王にもズーリナの聖女にも感じられた。

 そして席に戻って来るリルの表情がとても明るい。


「ハル!王都の片付けが終わったら、イザンに行ってもいい?」

「ああ、もちろんだとも」

「リル?バジに何を言われたんだい?」

「それはララには教えられんな」

「バジには訊いてないよ」

「ごめんね、ララ様。秘密なの」


 ズーリナの聖女は顔を蹙めた。


「う~ん、リル?」

「はい?」

「私があなたの祖母だって、気付いてはいるだろう?」

「・・・え?」

「それを言ったら私だって、リルの祖父だ」

「ええ?」

「なんだい?気付いていなかったのかい?」

「バジと言う名で気付いたかと思ったが」

「私もだよ。まあ、ララって名前はありふれてるけれどね」

「え?私にも、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんがいたって事?」

「そりゃあいるだろう?ルルは私が産んだんだよ」

「そして私がガリの父、バジだ」

「お祖母ちゃんと、お祖父ちゃん?」

「ああ」

「そうだ」

「つまり、2人は夫婦だったの?」

「そんな訳ないだろう?」

「そうしたらガリとルルが兄妹になってしまうではないか」

「私には歴とした夫が、リルのもう1人のお祖父ちゃんがズーリナにいるんだよ」

「リルのもう1人の祖母、私の最愛の妻もイザンでリルを待っている」

「そう、なのね」

「名前で分からなくても、魔力の波動とか言うやつで、血の繋がりは分かっていたと思っていたのだけれどね?」

「あの、ズーリナの人もイザンの人も両親以外で初めて会ったから、国民的特徴かと思って」

「まあ、そうかい。それは良いけど、だからズーリナに来ないかい?」

「それはイザンも同じだ。イザンもリルの所縁の地と言える」

「ズーリナにはルルを知っている人間も大勢いるよ?」

「イザンにもガリを知る人間は多い」

「ルルの聖女仲間も沢山いるし」

「薬師も同じだ。ガリの同期も多数いる」


 ことごとくイザンの薬師に被せられ、ズーリナの聖女は目を閉じて苦しそうな顔をする。それをリルは心配した。


「あの、ララ様?」

「お祖母ちゃんだよ」

「え?お祖母ちゃん?」

「そう。お祖母ちゃんと呼びな」


 目を閉じたまま表情も変えずに、ズーリナの聖女はリルにそう言う。


「あの、お祖母ちゃん?」

「なんだい?」


 ズーリナの聖女が目を眇めてリルを見た。


「イザンの次には、ズーリナにも行くから。ね?ハル?良いよね?」

「ああ、もちろんだとも」

「いや・・・それじゃあ遅いんだよ」


 ズーリナの聖女は目を瞑り、小さく首を左右に振りながら深く息を吐いて、大きく息を吸ってから、両肩を落として「仕方ない」と呟く。


「仕方ないね。私が責任取れば良いんだろう?」

「責任?」

「ああ。リル?」


 ズーリナの聖女は両目を開けてリルを正面から見た。


「あ、はい?」

「ズーリナにはリルのお父さん、ガリがいるんだ」

「え?」

「なんと?」


 リルもイザンの薬師もハルも国王も、驚きの表情でズーリナの聖女を見た。


「お父さん、生きてるの?」

「ガリが?」

「ガリ殿は亡くなったのではなかったのか?」

「身柄は私の家で預かっています。リル?ガリは生きてるよ」

「お父さんも・・・お父さんも生きてるのね?」

「ああ。え?も?」 


 ズーリナの聖女は戸惑う。

 リルはそれには気付かずに、ハルの両手を握って胸元に付けて、ハルを見上げて目を潤ませた。


「ハル!お父さんにもお母さんにも会いに行こう!」

「あ、ああ。え?お母さんにも?」

「あっ!」


 リルはハルの手を離して自分の口を隠し、イザンの薬師を振り向く。

 イザンの薬師はズーリナの聖女と、お互いに驚いた表情で見詰め合っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ