聖女感
「話は済んだのか?」
「うん」
ハルとリルが微笑みを向け合う。
そこにオフリー領主の娘が疑問を投げ掛けた。
「あの・・・」
「なに?」
リルはハルに向けた笑顔のまま、オフリー領主の娘に振り向いた。
「リル様は、その・・・どうしてここまで、して下さるのですか?」
「どうしてって?」
「あの・・・リル様はわたくしが、ハテラズ殿下とリル様を殺そうとしたと疑っていらっしゃったではありませんか?」
「まあ、あの恨みは確かにあるけれど」
オフリー領主の娘は、リルの返しに首を竦めた。
「でも、あなた達が結婚して私達が結婚したら、あなた達は私の弟くんと妹ちゃんになるんだから」
「妹ちゃん?」
「・・・妹ちゃん」
「そう。だから私もあなた達のお姉ちゃんとして、少し応援するだけよ」
「お姉ちゃん?」
「・・・お姉ちゃん」
「その、感謝する、リル殿」
「ありがとうございます、リル様」
「どういたしまして。それに弟くんには王太子でいてもらって、聖女の妹ちゃんと結婚して貰わないと、私達が困るから。ね?ハル?」
「そうだな」
「だから、気にしなくて良いし、その為ならこれからも協力するから。ね?ハル?」
「ああ、リルの言う通りだ。必要があれば手を貸そう」
「あの、その事なのですけれど」
「え?どの事?」
「わたくしは、とても聖女とは言えません」
「え?だってあなたはもう、オフリーの聖女でしょ?神官に認められた」
「ですが、リル様の様な力、わたくしにはありません。たとえこの杖があっても、リル様の様な事はわたくしには出来ないのです。それなのに聖女を名乗るなんて、それこそ神罰が下ります」
「私と同じって言ったって、私もハルがいなければ出来る事少ないし、あっ!ハルを狙ってるの?!」
「違います違います!そうではなくて」
「そうではなくて?」
「・・・あの、リル様?」
「え?なに?」
「わたくしに力を貸して頂けるのですよね?」
「力?力って魔力?」
「いいえ。リル様」
「あ、はい」
「わたくしを弟子にして下さい」
「え?弟子に?」
「はい。わたくしの師匠となって、わたくしに聖女の修行を付けて下さい」
「いえ待って?私、聖女の修行なんて知らないんだけど?」
「ですがリル様はその若さで、ズーリナの聖女ララ様に一目で聖女と認められていたではありませんか?」
「違うって、ズーリナの聖女の修練とかも、私、全然知らないから。ホント、なんでララ様に聖女だって言われたのかも、全く分からないんだから。ほら?ララ様、ズーリナの聖女は聖女が分かるって言ってたでしょ?でも私、ララ様が聖女って分からないんだから。私がさっき聖女になるって言ったのは、あの場を収める為だから。あなたに聖女になって貰わないと困るのも、私が聖女じゃないからだから」
「ですが」
「そうだ!ララ様?」
「なんだい?」
「マーラさんを弟子にして上げて」
「ああ、構わないよ?」
「え?ホントに」
「ああ」
「あの、頼んどいてあれだけど、ホントに良いの?マーラさん、ズーリナの人じゃないよ?」
「それを言ったらハテラズ殿下の母君もこの国の人だったけれど、弟子にしたしね」
「あ、そうか」
「それにズーリナの修練って、やる事が決まっているから、師匠と言っても弟子に教えられる事はほとんどない」
「そうなの?」
「ああ。間違っていたら直すくらいで、後は弟子の愚痴を聞くくらいだから」
「え?愚痴?」
「ああ。こんなやり方で本当にあってるのかとか、こんなので聖女になれるのかとか、みんな騙されてるのではないのかとかね」
「え?なんで?なんでそんな愚痴になるの?」
「成果が実感できずに、来る日も来る日も同じ事の繰り返しだから、そりゃあ愚痴りたくもなるんだよ。私も師匠に愚痴を言ったし。弟子だと言っても師匠からは何も具体的には伝えられなくて、結局は自分で掴むしかないんだよ」
「掴む?何を?」
「聖女達に聖女だと認められる何かを」
「え?そんなにフワッとしてるの?」
「そうだよ。でもね、確かに分かるんだよ。リル?」
「はい?」
「本当に、私に何も感じないのかい?」
「何もって、聖女らしさとか?」
「こう、他の人には感じなくて、私にだけ感じる様なものを」
「・・・そう言えば、王妃様の杖。ララ様が母に作らせたのよね?」
「ああ」
「・・・私の母も聖女?」
「ああ、そうだよ」
「そう・・・そうなのね・・・母に感じたのと同じ様な感じなら、ララ様にもするけど、これ?」
「これがどれか分からないけど、多分それだよ。なんだ。やっぱり気付いていたのかい?」
「母もズーリナの出身者だったから、ズーリナの人はみんなこんな感じがするのかと思ったんだけど」
「それは聖女ではないズーリナ人で確かめられるね。ここには私以外のズーリナの人間も参加してるけど、同じ様に感じる私以外の人間がいるかい?」
「ううん。いない」
「じゃあそれだね。聖女は聖女が分かるのは、それを感じるからなのさ」
「そうか・・・お母さんも聖女だったのか」
リルは自分の手を見詰めた。




