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マゴコロ商会との契約【傍話】

 マゴコロ商会のスルリは、ホームにいる『輝きの光』のメンバー達に詰め寄った。


「なぜ今日も探索に出掛けないのですか?」

「うるせえな。俺達の勝手だろう?」

「いいえ。昨日も一昨日も休みで、今日は行くと昨日は言っていたではないですか?」

「明日行くって」

「いいえ、今日は行って貰います」

「スルリ、アンタ、探索の事に口出すんじゃないよ」

「そうよね。ダンジョンの事、知らないんだから、私達に任せて置きなさいよ」

「知っていますよ。知っているから言っているのです。『輝きの光』はこれまで、2日続けてダンジョンに入らなかった事なんて、なかったではありませんか?」

「え?そうだった?」

「そんな事ないだろ?」

「いいえ。基本、毎日ダンジョン探索に行っていましたよね?」

「でもそれは、リルがアタシ達の荷物持ちしてたから出来た事だろう?」

「そうよね。新入りの誰かさんは自分の荷物しか持たないし」

「新入りの誰かさんと言うのが私の事を言っているのなら、私は前衛だから人の荷物など運べないが?」

「分かってるよ」

「その話はもう良いのよ」

「そもそも私の常識では、休暇も挟まずに毎日続けてダンジョン探索を行うパーティーなど、あり得ない」

「良い事言うじゃない」

「そうね、そうよね。もっと言ってやって」

「確かに契約では、ダンジョン探索の頻度には言及しておらず、そこはパーティーの意向に合わせる事になっている。そしてそのパーティーには当然私もメンバーとして入っているが、マゴコロ商会は含まれない」

「いいぞ!」

「良く言ったわ!」

「何を言っているんですか。マゴコロ商会が『輝きの光』を買収したのは、休まずにダンジョン探索を行う、その探索頻度を高く買ったからです」

「だから?」

「あれは守銭奴リルがいたからよね?」

「そうだ。リルが無理矢理アタシ達に探索をさせたんだ」

「ですから私が代わりに、アナタ達に探索に出る様に言っているのです」

「それなら疲れを取ってくれ」

「そうよね。こんなに疲れが溜まってたら、私は明日も探索には行けないわ」

「私はもう疲れは取れているが」

「何よ新入り?裏切るの?」

「アンタ、どっちの味方なんだ?」

「私は探索と休暇は一日置きで良い。多くのパーティーもそうだろう?実際に、こんなに休むと勘が鈍りそうだ」

「それならあなた一人で、ダンジョンに行って来れば良いじゃない」

「その通りで、昨日は一人で探索して来た」

「え?あなた一人で?」

「危なくないのか?」

「浅層なら大丈夫だ。まあ浅層なので、それ程の稼ぎにも鍛錬にもならないが」

「え?その稼ぎってどうしたの?」

「どうも何も、個人で稼いだ分は個人の物だろう?」

「え?でも、リルはそれ、パーティーに入れてたわよ?」

「一人で探索していたのか?後衛職だったのだろう?」

「だってポーションの素材集めとか、やらなければならないじゃない」

「あの失われたポーションのか」

「素材集めのついでに狩った魔獣の換金部位とか、持って帰って来てたもの。そこそこのお金になってたんじゃない?」

「しかし先程、『輝きの光』は毎日探索していたと言っていなかったか?」

「ええ。マゴコロ商会にはそう報告されています」

「それなら1人での探索は無理ではないのか?」

「終わってからとか行ってたわよ」

「え?探索から帰ってから1人でか?」

「そうよ」

「時間的に無理じゃないのか?」

「だって私達はそんなに長い時間、ダンジョンの中にいなかったし」

「そうだよな。そうでなければ毎日探索なんて出来ないだろ?」

「疲れちゃうものね?」

「しかし前任者は貴女達以上の時間、毎日探索していた事になる」

「素材集めは毎日じゃない」

「そうよ。それじゃあポーションを作る時間がないじゃない。素材が切れた時だけよ」

「それでも、その素材集めもポーション作りも、貴方達は手伝わなかったのか?」

「ポーション作りやらされてたのはリルだし」

「しかし同じパーティーのメンバーだろう?」

「アタシ達もパーティーでの探索は一緒にしていた」

「そうよ。あの店主にポーションを作るって約束したのはリルだもの。リル個人で何とかするのが、当たり前でしょう?」

「それでなぜ、その換金部位やポーションの売り上げは、パーティーのものになるのだ?」

「知らないわよ」

「リルが勝手にやってたんだ」

「それならなおの事、『輝きの光』は、今日はダンジョンを探索して下さい」

「スルリには関係ないじゃない」

「ダンジョン探索で利益が出なければ、アナタ達の借金が増えるだけですよ?」

「え?借金?」

「パーティーの借金はマゴコロ商会が肩代わりしたんだろう?」

「マゴコロ商会は『輝きの光』を借金ごと買い取って、借金の内容を精査し、個々人への債権に分けました。パーティー買収の契約書に書いてあったでしょう?」

「え?」

「どう言う事?」

「スルリ?どう言う事なの?」

「パーティーとして必要な経費、例えばこのホームの家賃ですとか、各メンバーの装備の購入費ですとか、修理費ですとか、それはパーティーのお金から支払うべきです」

「当たり前だろ?」

「なによ。そう言う事を言っていたのね」

「一方で装飾品とか、酒代とか、娼館代とか、そう言ったお金は個人で支払うべきです」

「え?娼館代って、女を買ったお金って事?」

「そうですね」

「その金をパーティー資金から支払っていたのか?」

「ええ、そうですね」

「あなた達、私達のお金をそんな事に遣っちゃったの?!」

「いや、キミ達のお金じゃなくて、パーティーのお金だから」

「お前らだって、アクセサリーとか買ってたじゃないか?」

「そうだよ。ドレスとかキミら、着もしないのに」

「自分へのご褒美なんだから、良いでしょう!」

「俺達だって、自分へのご褒美だ!」

「なに言ってんのよ!」

「でも、男なんだからしょうがないだろう?」

「それともお前らに手を出しても良かったのかよ!」

「そう言う問題じゃない!」

「そうよ!私達のお金で娼館に通ってたなんて、信じられない!」

「アンタもか?」

「私か?」

「新入り?あなたもなの?」

「パーティー内の恋愛は禁止した方が良い」

「え?うん」

「それは、知ってる」

「ええ。そう言うわよね」

「その為には、女性メンバーがいるパーティーの男性メンバーは、娼館に通う頻度が高くなる傾向にある」

「そうなの?」

「だから?」

「私もこのパーティーに入ってからは、回数が増えたな」

「アンタもか!」

「私達のお金で通っているの?!」

「私は自腹だ」

「そ、そうだとしても、なんか、納得出来ない」

「魅力的な貴女達と一緒に行動するのだ。煩悩が刺激されるのは仕方ないし、それで揉め事を起こさない為には、それを解消しなければならないだけだ」

「そうだ!その通りだ!」

「そうなんだよ。キミらが可愛過ぎるから、ヨソで発散させる必要があるんだよ」

「その通り!だからパーティーを健全に保つ為には、必要な出費なんだ!」

「駄目です。認められません」

「ああ、ダメだ」

「これはスルリの言う通りね」

「取り敢えず、その様な訳で、探索をして稼がないと、アナタ達4人は借金が増えます」

「え?なんで?」

「減らない事はあっても、増える事はないでしょう?」

「契約書通りです。毎日のノルマ金額をクリア出来なければ、それはアナタ達の借金になります」

「え?なんで?」

「なんでそんな契約してるのよ!」

「知らねえよ!誰だそんな契約したの!」

「アンタだろ!リーダーなんだから!」

「一人一人借金額が違いますので、各人別の契約書にサインしていますよ?」

「あれ?あの時のあれ?」

「サインすれば良いって言ったじゃない!だからサインしたのに!」

「サインしなければ、パーティーはクビでしたからね」

「詐欺じゃない!」

「契約書が読めなければ替わりに読み上げると言いました。誰も読めないとは言いませんでしたので、読んだ上でサインしたと判断しましたよ」

「新入り?アンタもか?」

「新入りも借金があるの?」

「私はない。それに私は一年間の期間で契約しているし、ダンジョン探索をしてもしなくても報酬は変わらない。契約書も貴女達とは別なのだろうな」

「そんな」

「アタシ達の期間は?」

「アナタ達は期間ではなく、借金を返し終えたら契約内容の変更を話し合う事になっていますよ」

「そもそもなぜ貴女達は、契約書を読まずにサインをしたのだ?」

「それは、だって」

「いつもはリルが、そう言う面倒な事をやってたから」

「そうだよな。いつもはリルが勝手にやってたんだ」

「リルがいなくなったら、こんな事はリーダーがちゃんとすべきじゃないの?!」

「そうだ!」

「そうだな!」

「な!オマエら!ズルいぞ!」

「まあ、誰がズルくても構いません。状況を理解して貰えたら、ダンジョン探索に出発して下さい」



 4人に疲労が残ったままの上に、新たに不和が発生した状態でダンジョン探索に出た『輝きの光』は、4人とも大怪我をして、アーチャーと魔法使いは自分で動ける様に元僧兵が何とか治療をしたが、リーダーと斥候は意識不明の状態でダンジョンから運び出された。

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