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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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オフリーの聖女と王太子

「そうか。もう会えるか分からないから、杖は戻しとこうか」

「え?」


 リルの言葉にオフリー領主の娘だけではなく、危険はないのか考えたハルも国王も戸惑う。


「杖に魔力を籠めてみて」

「あ?」

「攻撃しないでね」

「しません!」


 オフリー領主の娘が魔力を籠めると、杖が輝く。


「魔法を使わなくても、そうやって魔力を籠めるだけで、魔石が出来るかも知れないから、注意してね」

「なっ?!」


 オフリー領主の娘は目を大きく見開いて、慌てて魔力を止めて、リルを睨んだ。


「それとその杖、王妃様には絶対に渡さない様に」


 オフリー領主の娘ははっと表情を変えて、リルに「はい」と真剣な顔で肯いた。


「後はこれだけど、ハル?」

「うん?」


 リルが差し出した手をハルは無意識に握る。

 そのまま2人は見詰め合っていたが、意味が分からないハルは僅かに首を傾げた。


「はい、完了」

「え?何が?」

「王妃様の杖から魔力を抜いて、ハルに貯めたから」

「え?今ので?」

「うん。ハルとの魔力の出し入れに慣れたから、高速チャージ出来るし」


 ハルは一旦振り向いて、ズーリナの聖女とイザンの薬師の表情を確認すると、リルに視線を戻す。


「リル?それは普通の事ではなさそうだな?」

「うん。普通はハルほど魔力が貯まらないからね。今でもまだ、上限が分からないし」


 ハルは自分が非常識なのかリルが非常識なのか知る為に、もう一度ズーリナの聖女とイザンの薬師を見たけれど、呆れた様な2人の表情からはその判断が付かなかった。


「国王様」

「お父さん」

「お父さん。この杖はもう安全です。このまままた使えますけど、神聖魔法に使い易い魔力は抜きましたから」

「リルは先程、リルの杖からマーラの魔力を抜くのが難しいとは言っていなかったか?」

「私には扱い易い母の魔力をこの杖の中からハルに移して、怪しげな魔力もあったからそれは捨てましたけど、そうか。同じ事をすれば良かったのか。あの杖から私の魔力をハルに移して、オフリーの聖女の魔力を捨ててから、ハルから魔力を充填すれば」


 オフリー領主の娘を見ながらそう言うリルの言葉に、オフリー領主の娘はまた杖を強く抱き締めた。


「大丈夫よ?やらないから。杖を持ち歩く積もりないから、大丈夫だから」



「それでこの後はどうする?ハルは私と冒険者でも良い?」

「もちろんだ」


 肯くハルに肯き返して、リルは王太子に顔を向けた。


「王太子さんは王太子のままで良いわよね?」

「いや、しかし、私は父上の・・・国王陛下の血を引いてはいないのだろう?」

「良いんじゃない?」

「え?良いんじゃない?」

「国王様の血を引いてなくても」

「いや、そんな訳には」

「ハルも前は髪や目の色が違うから、お父さんの息子じゃないって言われてたんでしょ?」

「そうだな」


 リルの言葉に肯くハルから、リルはまた視線を王太子に戻す。


「それでもハルが跡継ぎになる可能性もあったんだから、一緒よ」

「いや、一緒にしては駄目だ。兄上は、ハテラズ殿下は国王陛下の息子だと、ズーリ聖国のララ様も認めたのだし」

「でもハルは死んだ事になってるし」

「私の葬儀が行われたしな」

「そうなの?お葬式まで?」

「ああ」

「それに戸籍上は王太子さんは国王様の息子だし」

「いや、だから」

「跡を嗣ぐの、嫌なの?」

「いや、嫌ではないが」

「このまま何もしなければ跡を嗣げるんだから、それで良いでしょう?」

「いや、そうではあっても」

「オフリーの聖女さんと結婚しなくて良いの?」


 言葉の詰まった王太子の代わりに、オフリー領主が口を挟む。


「マーラを宰相の息子と結婚させる訳にはいかん」


 その言葉にすかさずオフリー領主の娘が反論する。


「いいえ。わたくしは王太子様と、イラス様と結婚いたします」

「駄目だ!何を言っておるのだ!正統性がない事が証明された王子になど、誰が嫁がせるものか!」

「わたくしはイラス様が王太子ではなくても、王子ではなくても、わたくしはイラス様の元に嫁ぎます」

「何故だ?!その様な事が許される訳がないではないか!」

「いいえ!わたくしはイラス様と!」

「ちょっと待って下さい、2人とも」


 オフリー領主父娘の言い争いに、リルが割って入る。


「王太子さん。オフリーの聖女さんはこう言ってるけど、あなたの気持ちはどうなの?」

「私は・・・」

「私は?」

「しかし・・・」

「ほら、顔を下げないで。オフリーの聖女さんの顔を良く見て。彼女は王太子さんが王子ではなくても良いって言ってくれてるのよ?良いの?」

「いや・・・だが・・・」

「後はなんとでもするから、ちゃんと自分の気持ちを彼女に言いなさいよ。ほら」

「・・・私もマーラ殿と生きていく事を望む」

「なんだと!」

「・・・イラス様」

「マーラ殿」

「そんな事は許さんと言っているだろうが!マーラ!どれだけ苦労するか分からないのか!」

「いいえ、お父様!イラス様と一緒になれるのでしたら、苦労など厭いません!」

「オフリー殿。私が全力でマーラ殿を守る」

「その力がそなたにはもうないと言っているのだ!」

「ちょっと待って!ハル!オフリーの領主さんをこっちに連れて来て」

「え?」

「お願い」

「ああ、分かった。オフリー殿」

「いや、ハテラズ殿下!少しお待ち下さい!」

「ハル!力尽くでお願い」

「オフリー殿、失礼」

「いや、ハテラズ殿下!お待ちを!お待ち下さい!」


 人々から離れた所に移動したリルの元に、オフリー領主を羽交い締めにしてハルが届けた。


「オフリーの領主さん。これは他では言えない事なのですが」


 声を潜めて囁くリルの様子に、オフリー領主は一旦暴れる事を()める。


「娘さんと王太子さんは、抱き合っていたんです」

「・・・え?」

「こんなハレンチ、知れ渡ったら娘さんは結婚出来ないんじゃありませんか?」

「いや、そうだが・・・本当にマーラが?」

「ええ。ハルも見たよね?」


 リルの言葉にオフリー領主は視線を後ろに向けたがハルの顔は見えない。しかしその隙にリルが何度も小さく肯いて、ハルに肯定する事を促した。


「ああ」

「本当ですか?ハテラズ殿下?」

「ああ」

「そんな、まさか」

「その事があるからこそ娘さんは、王太子さんが王子ではなくても結婚するって言ってるんですから」


 リルの言葉にオフリー領主は項垂れる。


「いや、しかし」

「それにもう娘さん、マーラさんは聖女ですから、聖女なら力尽くでも思った相手と結婚できるんですよね?」


 そう言われて顔を上げて、オフリー領主はリルを見た。


「私達は2人が抱き合っていた事を秘密にしますし、聖女が力尽くで結婚したなんて聞こえが悪いですから、2人の結婚を認めて、祝福してあげませんか?」


 その言葉に肯いたオフリー領主は、もしかしたらまた、ただ項垂れただけだったのかも知れない。

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