杖の入手経路
リルは王妃が使っていた杖を手に取り、確認する。その姿にズーリナの聖女が声を掛けた。
「どうしたんだい?」
「王妃様もこの杖があったから、神聖魔法を使えたって事なのね?」
「そう言う事になるね」
「リル?使える様にするのか?」
イザンの薬師に訊かれて、リルは首を傾げる。
「でも、何に使われるか分からないし」
「それ、ルルの杖だろう?」
「うん。多分。ララ様、知ってるの?」
「ああ。この国に入って直ぐに盗まれたって」
「なに?」
ズーリナの聖女の言葉に国王が反応する。宰相は首を左右に振った。
「国王陛下。王妃様が盗んだ訳ではありません。盗まれた事を知らずに買い取って、王妃様が使い始めたのです」
「元が盗まれたものだとは聞いていないぞ。そうなのか?リル」
「はい。この杖は母の杖だった様ですけれど、母がこの国に来た時に何人もの怪我人を治療していたら、いつの間にか杖を盗られていたそうで」
「いや、しかし、怪我人を治すなら、杖を持ったまま魔法を使うのではないか?」
「それが擦り傷とか切り傷とか、そんなのまで治してくれって来たので、普通に薬を付けて包帯を巻いたりして治療したそうです。その間に盗まれて」
「そうなのか」
「はい。それで杖を見付けたんですけど、この国の法律では、盗品と知らないで買ったらもう買った人のものだって言われて、返して貰えなかったそうです」
「いや、それは違うぞ?」
「そうなのですか?でもその時に一緒に杖を探したり、母が新しい杖を作るのを手伝ったりしてくれたのが父だったそうで、母としては杖はどうでも良くなっていたみたいです」
「どうでも良いって、そんな」
ズーリナの聖女が渋い顔をする。
「この杖の作りも気に入らなかったみたいなので、作り直せて却って良かったって言ってました」
「なんだって?ルルはそんな事を言ってたのか?」
「ええ」
「はあ。その杖は、私がルルに作らせたんだよ」
「え?ララ様が?」
「ああ。確かにセンスがどうの流行りがどうのって、作る時に文句ばかり言ってたけどね」
苦笑いするズーリナの聖女から視線をリルに移し、国王が口を開いた。
「この国の法律では、持ち主が自分の物だと証明でき、買い主が買い取った金額を証明出来れば、その半額を支払って持ち主が買い戻すか、同じく半額を支払って買い主が買い取る事が出来る。買い取った金額を証明出来なければ、持ち主に無料で返さなくてはならない」
国王の言葉に宰相が、「いや、しかし」と返した。
「王妃様がララ殿から杖を騙し取った訳ではなく、王妃様は別のところから買った筈ですので」
「リル?その盗まれた杖は誰が持っていたのだ?」
「マゴコロ商会と言う店の店主です」
「え?」
「昔のマゴコロ商会の店主と言うと、元王妃の母親だな?」
国王に見られて宰相は言葉が出ない。リルは首を傾げて国王に尋ねた。
「そうなのですか?母が言うには杖を見付けたのは小さな商店だそうで、マゴコロ商会の名を騙ったか、たまたま同じ名かと思ったのですけど、王妃様のお母さんって、小さな店なんてやってませんよね?」
「いいや。元王妃が聖女見習いになるまでは、マゴコロ商会は極小さな個人商店だった。元王妃が聖女になったからこそ、今の規模になったのだ」
「へ~」
リルの返しは国王に対しての返事としては相応しくなくて、周囲の何人かは顔を蹙めたりしていたけれど、リルはそれらには気付かずに、オフリー領主の娘の持つ杖を見詰めた。
「その杖もマゴコロ商会を通して買ったのよね?」
「え?」
「それがどうした」
オフリー領主が目を細めてリルを見る。
「私の杖をパーティーの資産扱いにしてたら、知らない間にパーティーがマゴコロ商会に買収されてて、杖を売られたから」
「え?まさか、その杖とは?」
「ええ。オフリーの聖女さんが使ってるその杖の事」
「え?この杖がリル様の杖だったのですか?」
「いや、しかし、この杖はマゴコロ商会から正規の手順で購入したのだ。領収書もある」
「さっき来てたマゴコロ商会のスルリって人から買ったのですよね?」
「いや、まあ、そうだが」
「リル?騙されたのか?」
「ううん、ハル。分からない。この国の法律に詳しくないし」
「私は詳しいから、杖を取り返そう」
「杖に限らず、マゴコロ商会には色々とあるかも知れんな」
「そうですね。元王妃が絡んだ不正が見付かるかも知れません」
「そんな・・・」
ハルと国王の言葉に宰相は、まだ意識を戻さない王妃に視線を向けた。




