神聖魔法と杖
「こちらが元王妃から取り出した魔石です。リルが浄化しましたので、触れても問題ありません」
「なるほど、そうか」
ハルが差し出す魔石を国王が受け取った。
「色が変わっているが、呪いの力ももうないのだな?」
視線を魔石からリルに移して尋ねる国王に、リルは「はい」と肯いて返す。
「念の為、王妃様に呪いが戻っていないか、細かく確認したいのですが良いですか?」
「ああ、是非見てくれ」
「私も同席して良いかい?」
「あっ!わたくしも是非!」
ズーリナの聖女とオフリー領主の娘がそう申し出る。
「いいけど、探知魔法を細かく使うだけだから、見てても分からないかも」
「う~ん、いや、見せておくれ」
「わたくしもお願いします」
「分かりました。宰相さんは立ち会いますか?」
「ああ、是非」
リルは王妃を中心に作った土ドームに3人も入れ、そして直ぐに土ドームを開放した。
「国王様。王妃様は問題ありません」
「そうか」
「それでどうします?王妃様を私が運びましょうか?」
「リルが?」
「はい。身体強化を使えるので、1人でも王妃様を運べますけど?」
「いいや、元王妃は宰相に運ばせる。宰相?それで良いな?」
「・・・はい」
宰相は国王に頭を下げ、続いてリルにも頭を下げる。その様子に周囲がまた騒めいた。
国王が1つ咳払いをする。
「さて、色々と解決した訳だが、リル?」
「はい、国王様」
「お父さん」
「お父さん」
「ハルを王太子にはして貰えないのだな?」
「私はもうこの国の聖女を譲ってしまいましたから、お父さんが権力を使ってハルを王太子にしようとするのを止められません」
「リル?」
「良いのか?」
ハルが困惑を浮かべ、国王は喜色を浮かべてリルを向く。
「でもハルが嫌がれば、ハルと2人で全力で逃げます」
「私はリル次第だけれど、リルは王太子妃とか王妃とか嫌なのだろう?」
「うん。ハルも私には無理だと思うでしょう?」
「そうは思わないが」
「確かに王妃様がやってたくらいだものね。だからハルが王太子や国王を望むのなら、私も努力はしてみるけど、でも適任者が他にいるのだし」
リルの視線に釣られて、ハルも国王も周囲の人々も、オフリー領主の娘を見た。
「あの、でも、わたくし、とてもリル様ほどの力がないのは良く分かりました」
「私も力なんてないわよ?さっきの手術もハルの魔力を貰ったから、あの手際で出来るのだし」
「いえ、それでも、わたくしは、杖がなければほとんど何も出来ません」
「それも変なのよね?ねえ?神官さん?」
急に呼び掛けられて、オフリーから付いて来ていた神官は挙動不審になる。
「あの・・・はい?なんでしょうか?」
「オフリーの聖女さんには、神聖魔法の才能があったから、聖女になったのよね?」
「それは、はい」
「それなのに杖がないと神聖魔法を使えないなんて、どうしてなの?」
「いえ、それは」
「リル。普通は使えないんだよ」
ズーリナの聖女が口を挟んだ。
「え?ララ様?ズーリナでもそうなの?」
「簡単のなら杖なしでも使えるよ?でも神聖魔法の様なものは無理だよ」
「え?本物の神聖魔法って、神様の力を借りるから、簡単なんじゃないの?」
「なんだい本物って?そんな訳ないだろう?」
「え?デメースではそう言ってたけど?神力を使うって」
「もしかしたら神官が使う中にはそう言うのもあるかも知れないけど、私が知ってる限りは神じゃなくて、聖女が自分の魔力で神聖魔法を使うんだよ。杖を使ってね」
「そう言えば神殿の秘儀があるとか言われた」
「秘儀?どんなのだい?」
「ゾンビを人に戻すって」
「どうやって?」
「さあ?秘技だから秘密にしているだろうし、私は知らないけど」
「そう言う神聖魔法があったとしても、神がいちいち人間に力を貸すとは思えないから、神官が適当に言ったんだろう」
「神官なのに?」
「神官は私達と見えてるものが違うからね。神官に取って真実でも、私達にはインチキに見える事はあるし」
ズーリナの聖女の言葉に、神官は挙動を更に怪しくしていた。




