魔石
王妃の魔石症を治療する手術は、執刀がリル、補佐はオフリーの聖女、バックアップはズーリナの聖女、魔力供給はハルで行われた。ハルは手術室となる土ドームの外にいたが、見届け役の宰相は土ドームの中に入る。
会場の皆が見守る中、土ドームは直ぐに解放され、中のリル達が見えた。
「リル?どうしたのだ?」
心配そうに国王が尋ね、土ドームの間近に立っていた王太子も不安そうにリル達を見る。
「終わりました」
そう言ってリルは魔石を顔の前に持ち上げて、国王達に見せた。
「え?もう?もう終わったのか?」
「はい」
リルの返事に会場にいる人々は訝る。
あまりにも早過ぎるし、リルがあまりにも普通通りだ。しかしズーリナの聖女は何かを考え込む様な様子を見せているし、オフリーの聖女は顔を赤らめて興奮を表している。宰相は国政の大仕事を片付けた時よりも疲れた様な顔をしていた。
「その魔石が、母上の中にあったのか?」
「あ、触ってはダメ」
王太子が伸ばした手をリリは避ける。
「魔毒の塊みたいなものだから、神聖魔法が使えないと、触るのは危険だから」
会場にいる人々は、1歩また1歩とリル達から距離を取った。
国王がリルに尋ねる。
「それは、しかし、どう処分したら良いのだ?」
「封印すべきだと思いますけど、これをタネにしてダンジョンが出来たりしないかが不安です」
リルは土魔法で台座を作りながら答えた。
「そんなに魔力が強いのか?」
「ハルの魔力を押さえ込んでいた元ですから、それなりには」
「私と同じくらいあるのか?」
作った台座に魔石を置きながら、リルはハルの質問に「ううん」と首を左右に振る。
「ハルの魔力には全然足りないから」
「なに?ハテラズの魔力と拮抗していたのではないのか?」
国王は眉間に皺を寄せながら、リルに尋ねた。
リルはボールを持つ様に両手を迎え合わせ、両手の感覚を広げたり狭めたりしながら、国王の問いに答える。
「そうですけれど、こう、押さえ込むだけならそれほどはいらないって言うか」
「推測ですが」
イザンの薬事が口を挟んだ。
「ハテラズ殿下の魔力が増えて膨らむ力と釣り合えば良いので、それほど魔力は必要ではなかったのでしょう。しかしそれだけの魔石ですから、魔力量は多いとは思いますので、安全な管理は難しいかと思います」
「なるほど。リルが封印と言った時に、ダンジョン内に封印すれば良いかと思ったが、危険かも知れないな」
国王の言葉にリルは「ええ」と肯いた。
「ダンジョンの魔獣が強くなったり多くなったりするかも知れませんし、それにもしかしたら王都に魔獣が集まって来てたのは、王妃様のこの魔力に惹かれたのかも知れません」
「この魔力にか」
「はい。魔毒と同じ感じがしますから、もしかしたらですけど」
「それなら魔獣の魔石の様に、利用できるのではないか?」
国王の言葉にリルは首を捻る。
「魔獣は魔毒を使いますけど、魔獣の魔力自体は魔毒を含みません。攻撃する時に魔力を魔毒に変えるのです。ですけれどこの魔石は普通の魔石と違って、魔毒が固まったみたいになって・・・」
リルはハルが侵されていた魔毒の事を思い出した。
もしあれが呪いだったのなら、リルは呪いを消したのではなく、破っただけかも知れない。呪いを破ると掛けた術者に返ると聞いた事がある。
王妃には前から魔石があったかも知れないけれど、もしかしたら魔石が魔毒の塊みたいになっているのは、リルが呪いを破ったからかも知れない。
「固まったみたいになって?どうした?リル?」
「魔毒を消してからなら使えるかなって思ったの」
少し心配そうな表情で尋ねて来たハルに、リルは微笑んで答えた。
呪いを破ったかどうかは分からないし、証明も出来ないから黙っておこうとリルは思った。その所為で王妃がおかしくなった、とか言い出されたら面倒だし。
「そうか」
ホッとして嬉しそうな顔を見せるハルに、少し良心が傷む。それなので後でハルだけには言っておこうと思いながら、リルは小さく肯いた。




