対応
「そう言う事で国王様」
「お父さん」
「お父さん。あとハルも。落ち着くまでは私もハルも、お父さんや弟くんを手伝った方が良いですよね?」
「ハテラズに跡を嗣がせてはくれないのか?」
「私は貴族や王族の仕来りなんか知らないから、ハルと結婚しても王妃にはなれないもの。マーラさんは貴族の出身だし、王太子と結婚する気だったんだから、王妃にもなれるだろうし」
「それはそうかも知れないが」
「お父さん?ハルと私がここに入場して来た瞬間は、ハルと私を単なる冒険者として、跡を嗣がせようなんて思ってなかったのでしょう?」
「それは、まあ、そうなのだが」
「王妃様や宰相さんが変な事を言わなければ、次は弟くんを王様にする積もりだったんだから、それで良いのよ」
「確かにそうではあったが」
「だってお父さん?ハルが生きているだけで良かったって思ってたんじゃないですか?」
「・・・そうだな。確かに生きていてくれている事だけを願ったし、生きていてくれただけで充分だと思っていた」
そう言って国王はハルに顔を向ける。ハルと目が合うと、2人は微笑み合った。
「それでお父さん。宰相さんも」
リルに呼ばれて国王と宰相はリルを見た。
「このままだと王妃様が加護を撒き散らすと思うけど」
「加護とは呪いの事だな?」
「呪いじゃないわ!神の加護よ!」
「ええ。そう出来なくした方が良いと思うけど、どうですか?」
「なんですって!」
「杖を使えなくするだけでは駄目なのだな?」
「ええ。今は私が王妃様が加護を掛けようとするのを無効化してるけど、私がいなくなればまた加護を使う様になるかも知れません。マーラさん?」
「あ、はい。聖女リル様」
「王妃様の加護、あなたは無効化出来る?」
「え?あの、いいえ」
「その杖、使える様にしても無理?」
リルはオフリーの聖女の持つ杖を指差した。
「はい。やり方が分かりません」
「そうなのね。分かったわ。なのでお父さん?王妃様が加護を使えなくした方が良いと思うのですけど、どうですか?」
「そんな事はさせないわ!」
「その様な事がリルには出来るのだな?」
「その様な事が出来る訳ない!」
「ええ。魔石症を治療すればいいので」
「魔石なんかない!私は聖女よ!」
「それではリル。元王妃の治療をしておくれ」
「元王妃ですって!」
「はい。宰相さんもそれで良い?」
「治療なんか受けないわ!魔石なんてないもの!」
「・・・その治療と言うのは、後遺症とかはないのか?」
「呪いが掛け難くなるし、掛けれても効果が下がるけど、他の魔法は使い易くなりますよ?」
「呪いなんか使ってない!」
「神聖魔法はどうなのだ?」
「本人に才能があるか、また神聖魔法が使える杖を手に入れれば。でも魔石が出来たのは、この杖で神聖魔法を使った所為かも知れない」
「なに?リル?その様な事があるのか?」
国王が驚いてリルに尋ねるが、国王の他にも多くの人が驚きを顔に表していた。
「はい。神聖魔法を使う時にこの杖が、神聖魔法に向かない魔力を押し返すんじゃないかと思います。イザンの薬師さん?」
「リル。私の事はバジで良いよ」
「バジ様。そう言うのってありますよね?」
「リル?なんで聖女の私じゃなくて、ヘッポコ薬師のバジに訊くんだよ?」
「え?だってララ様は、私の母と同じ感じがするから、そう言うの苦手かなって。ごめんなさい」
「いや、まあ、良いけどさ」
「リル。リルの言う通り、杖が弾き返した合わない魔力の逆流で、魔石が出来た事は充分に考えられる」
「やっぱり?」
「ああ。特に神聖魔法用の杖で神罰と言っていた魔法を使うと、魔石が出来る可能性がかなり上がりそうだな」
「そうなのね」
「ああ」
「ありがとう、バジ様。と言う事で宰相さん?宰相さんも王妃様の治療に同意で良いですか?」
「なんで宰相に訊くのよ!私は同意しないわ!」
「宰相さんが同意しなければ、ハルの魔力を使って王妃様は封印します」
「なんですって!」
「封印?ダンジョンにか?」
「封印場所は教えません」
「封印なんてされてたまるもんですか!」
「でも王妃様?王妃様はこの杖がなければ何も出来ないでしょう?」
リルは王妃が使っていた杖を体の前に掲げた。
「杖を使ってももう、何も出来ないけど」
そう言ってリルは王妃に杖を差し出す。
「良ければ返しましょうか?」
リルは王妃に向けて、杖を持った腕を伸ばした。
王妃は手を伸ばさずに、リルの顔と杖を交互に見詰めた。そして王妃はゆっくりと手を伸ばし始め、リルが動かないことを確認しながら少しずつ手の速度を早め、杖をリルの手からサッと奪おうとした瞬間に、リルは電撃魔法を使って王妃を気絶させた。
「リル!」
王妃からリルへの攻撃だとハルは勘違いをして、リルを庇おうと動くけれど、リルは前に出て、倒れていく王妃の体を支えた。
国王がリルを助けようと動くけれど、それをリルは止めた。
「お父さんとハルは駄目!宰相さん!王妃様を支えて!弟くんも破廉恥じゃないなら!」
リルは駆け寄った王太子に王妃を渡すと、土魔法でその場にベッドを作る。
「ここに寝かせて」
リルの指示で、王太子は王妃をベッドに横にした。
「王妃様の事、お父さんは封印でも良い?」
「封印・・・ああ。仕方がないな」
「聞き忘れてたけど弟くん?王妃様の事は封印でも良い?国王様は治療でも良いって言ったけど」
「・・・その魔石症と言うのは、放っておいても治らないのだな?」
「ええ。王妃様の魔石はかなり大きいから、自然に治る見込みはないわ」
「・・・分かった。封印でも構わない」
「うん、分かった。宰相さんは?治療と封印、どちらを選びますか?」
「治療をすれば治るのだな?」
「ええ。跡も残らず綺麗に治ります。杖を使わせなければ、再発も多分しないでしょう」
「・・・分かった。治療を頼む」
「ハル?お父さん?女同士なら肌を見てもハレンチじゃないわよね?」
「なに?破廉恥?」
「ああ、リル。大丈夫だ」
「分かった。マーラさん。手術するから手伝って」
「え?・・・手術?手術ですか?」
「そう。王妃様が気を失ってる内にするから」
「私が手伝うよ」
「もちろんララ様にも手伝って貰いたいけど、寄進は払えないわよ?」
「仕方ない。貸しといてやるよ」
「あ、あの、私も手伝います」
「ええ。マーラさんはこの国の聖女なんだから、手伝って貰わなくちゃ。ハル、手を貸して」
「ああ」
リルに言われて差し出したハルの手をリルは掴む。
「宰相さんは手術を見届ける?王妃様の肌を見ても良いんでしょ?」
リルはハルの魔力を使って土ドームを作りながら、宰相に聞いた。
王妃の肌を宰相が見ると言う事は、2人の不倫を認める事になる。
「決断!急いで!」
「分かった!」
宰相が1歩前に出たので、リルは宰相とズーリナの聖女とオフリーの聖女を飲み込む様に、ベッドに横たわる王妃ごと土ドームで覆った。
土ドームからはただ1つ、ハルの手を握ったリルの手が出ていた。




