宣言
「しかし、リルの功績を考えると」
「私だけならスタンピードは止められなかったし、瓦礫からの救出でも怪我人の治療でも、あんな人数は助けられなかったですよ?救出はほとんどハルの功績だし」
「リルが場所を示してくれなければ、私だってあれ程助けられなかった」
「でもハルがいたから魔力を気にしないで、探知や治療に集中出来たんだし」
「それで言えば私だけでは、探知も治療も出来ないがな」
「まあ、2人が良いペアだと言うのは分かった。しかしそうなると尚更、ハテラズには王太子になって貰って、リルには聖女になって貰わねばならん」
「その小娘を聖女になんかしないわ!」
王妃が叫ぶが、リルはちらりと王妃を見てから、神官に顔を向けた。
「聖女候補ってさっき聞こえたけど、何人もいるの?」
「それは、いましたけれど」
「候補って事は、誰が聖女になるか、最初は分からないって事?」
「はい」
「神様はどうやって聖女候補を選んでいるの?」
「あ、いや、神が直接選ぶ訳ではなくて」
「え?神様の信託って、聖女に関しては何を言われたの?」
「今回の場合なら、オフリーに聖女が現れたと」
「オフリー?」
「はい」
「神様って人間の街の地名とか、知ってるの?」
「当然です。神は全知なのですから」
「そうしたら誰が聖女かも、神様は知っているのね?」
「もちろんです」
「それで今回はそのオフリーの聖女が聖女に選ばれたのなら、聖女候補って何?候補も何も、神様は最初から誰が聖女か分かっていたのでしょう?」
「あ、いえ、マーラ殿が聖女だと神託があった訳ではないので」
「え?どんな神託があったの?」
「え?ですから、オフリーに聖女が現れたと」
「・・・聖女って誰が決めるの?」
「それは、高位の神官達が聖女候補から、最も相応しい人物を選定します」
「その聖女候補は?誰が決めるの?」
「各地の神官達が、今回の場合はオフリー各地の神殿の信者の中から、聖女に相応しい人物を推薦し、その中で素質のある人物を高位の神官達が選抜しました」
「素質?」
「ええ。神聖魔法に対しての素質です」
「・・・聖女に関する神様の信託って、オフリーに聖女が現れたって言う1度きりなの?」
「はい」
「そしたら他にも聖女がいたかも知れないのね?」
「え?」
「だって神様、聖女が1人なんて言ってないんでしょ?」
「聖女は私だけに決まっている!」
「私もオフリーにいたし、神聖魔法なら使えるし」
「お前が聖女の訳ない!」
「神官さんが聖女を任命したって事よね?」
「え?あ、はい」
「と言う事は、聖女の解任も神官さんがするのね?」
「聖女は神に選ばれたのよ!神官に解任なんて出来ないわ!そんな事をしようとしたら神罰が下るのだから!」
「い、や、解任権は神官にはなくて」
「え?そしたら間違ってた時、どうするの?」
「神が間違える訳ないでしょう!」
王妃の叫びの後、リルは視線を下げて少し考えた。そして小さく肯くと、再び神官に顔を向けた。
「この国でも聖女が1人とは決まっていないのよね?」
「聖女は私だけだ!」
「決まってはいませんが、最初の聖女様はお1人でしたので」
「私はズーリナ聖国の聖女らしいから、私がこの国でも聖女をしても良いわよね?」
「そんな訳があるか!」
「あなたが認めれば良いの?」
「言い訳があるか!」
「わたくしではなく、最終的には国王陛下がこの国の聖女を認める事になっておりますので」
「え?そうなのですか?国王様?」
「手続き的にはその通りだ」
「王妃様の事も認めたのですね?」
「先々代の国王がだが」
「オフリーの聖女は?」
「余はまだ認めてはいない」
「私がこの国の聖女になるって言ったら、認めて貰えますか?」
「認めない!」
「認めるとも」
「認める訳ないでしょう!」
「リルが聖女になってくれるなら、ハテラズも王太子になるだろうから、余としても願ってもない」
「そんな事許さない!」
「ハルの王太子は待って下さい。ハルも良いよね?」
「私は構わないが」
「なぜハテラズの王太子は待つのだ?」
「まず、私が聖女になるの、この場でも良いですか?」
「良い訳ない!」
「ああ、それは構わない」
「構うでしょう!」
「非常事態として口頭承認が可能だ」
「そんなの認めない!」
「リル?今、聖女に認めて良いのか?」
「そんなの認めないから!」
「はい。今でお願いします」
「余はここに!新しき聖女の誕生を認める!」
「認めない!」
王妃の叫びは会場に広がる拍手の音に消された。
「聖女の権力を使って、後片付けをします!」
リルの宣言にざわめきが広がる。
「まず!王妃は聖女を解任!」
「なんの権限があって!お前にそんな権限はない!」
「解任理由は神聖魔法が使えないから!」
「それはお前の所為よ!お前が杖を壊したからじゃないの!」
「そして王妃と国王は離婚させます!」
「なんですって!」
「離婚理由は王妃と宰相の不倫です!」
「国王もあの女と寝たじゃない!」
「処遇は宰相に一任すると言う、国王の判断を私も支持します!」
「ふざけんじゃないわ!」
「王太子はそのまま弟くん!」
「リル、弟の名はイラスだ」
「王太子はそのままイラス王子!」
「イラスはお前に言われなくても王太子よ!」
「理由は王太子に相応しい人材だから!」
「お前にイラスの何が分かるのよ!」
「そしてイラス王子は国王陛下の息子のまま!」
「当たり前よ!」
「理由は法律上問題がないから!」
「イラスは本当に国王の息子よ!」
「イラス王子はオフリーの聖女と婚約!」
「オフリーの聖女の名はマーラだよ」
「イラス王子はマーラ・オフリーさんと婚約!」
「婚約はもうしてる!」
「理由は、ちょっとここでは言えない!」
「え?ええ?あの?そんな言い方されたら困ります」
「そしてマーラ・オフリーを次代の聖女に指名します!」
「聖女は私だけよ!」
「理由は救助活動で大勢の人を救ったから!」
「そんな、あの、聖女リル様。ありがとうございます」
「マーラが建物を壊したのよ!救った事は功績になんてならないわ!」
「で、最後。私は聖女を辞めます」
「え?リル?」
慌てる国王にリルは微笑みを向けて、ハルに体を向けて笑顔を見せた。
「理由は聖女を辞めて、ハルと冒険者をするから」
「リル」
「ね?ハル?」
「ああ、そうだな。冒険者を一緒にやろう」
「初めはこの王都のダンジョンの調査と再封印だよね?」
「そうだな。そうだけれど」
「そうだけれど?」
「そこは冒険者をするからではなくて、私と結婚するからかと思ったのだ」
「もちろん結婚するけど、それは色々と片付いてからね」
リルがハルに手を伸ばす。
「・・・ああ。確かにそうだ」
ハルはリルの手を握って肯いた。




