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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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165/189

最中

 リルに睨まれて、王妃は半歩後退る。


「そんなの、使ってないわ」

「そう?私にはこれだったけど、他の人には別の魔法だったの?」

「違う、違うわ!殺してなんかない!」

「まあ、それは証拠もないし」

「その通りだ!証拠もなしに聖女様を殺人者扱いにするなど!万死に値する!」


 リルはチラリと宰相を見るけれど、直ぐに王妃に視線を戻した。


「でも、じゃあ、王妃様は、建物が崩れた時、何してたの?」

「え?・・・なにって・・・」

「それは・・・それはだな・・・」


 王妃も宰相も言い淀む。

 リルはオフリー領主の娘を振り向いた。


「あなたもこの国の聖女よね?」

「え?ええ」


 オフリー領主の娘は、リルに急に鉾先を向けられたので身構える。

 しかしリルは直ぐに王妃に視線を戻した。


「彼女がオフリーでハルを殺そうとしたのは許せないけど」

「違うわ!殺そうとなんてしていない!」


 オフリー領主の娘の言葉をリルは無視する。


「でも彼女は建物が崩れた時に、ケガをしてる人を治療してた」

「え?」


 リルに責められるのかと思ったのにそうでもなくて、オフリー領主の娘は驚いた。


「他にも治療魔法が使える人や、クスリを使える人達はみんな、ケガ人を治療してたし、そうでない人も埋もれた人を掘り出すのを手伝ったりしてた」


 リルの言葉に周囲の人々も肯く。


「オフリーの聖女の彼女は、王妃様の事も助けたわよね?」


 王妃は驚いた表情で、オフリー領主の娘を見た。


「知らなかった?でも、王妃様を助けたのは彼女よ」

「あ、だけど、王妃陛下を助ける様に指示したのはあなたで」


 リルから糾弾を受けるかと思っていたのに王妃を助けた事を持ち出され、手柄を譲られた様に感じてオフリー領主の娘は思わずリルの指示だった事を口にする。けれどリルはそれも無視した。


「彼女は自分は聖女ですから助けますって言ってたけど、王妃様?王妃様はあの時、何してたの?」

「聖女様はこの国の宝だ!」


 宰相が叫ぶ。


「あの様な不測の状況なら!聖女様の安全を最優先するのは当然だ!」

「そうね。ズーリナの聖女もイザンの薬師も、安全なところで治療するらしいし、それは良いわ。でも安全なところに行った後、みんなが救助や治療をしてる最中に、王妃様は何をしてたの?」

「その様な事!下賤なお前が知る必要はない!」

「つまり、人に言えない事をしてたのね?」


 宰相と王妃が目を大きく見開く。


「宰相と?」


 宰相と王妃の目が更に開いた。周囲の皆が2人に視線を注ぐ。


「ふざけるな!」


 宰相は真っ赤顔でそう怒鳴るが、王妃は逆に顔色をなくしていた。


「お前だってその男と日中から破廉恥な事をしていたではないか!」

「ハレンチ?」

「人前で男に抱き付いているのを大勢が見ているのだ!」

「移動の時の事?」

「破廉恥な姿で走り回っていたのは認めるのだな!」


 宰相の言葉にリルは肩を竦める。ハルの真似をした王太子に抱き抱えて運ばれていたオフリー領主の娘が、その時の事を思い出して顔を真っ赤に染めた。


「私が走るより、ハルが私を抱えて走る方が早いから、1人でも多く助ける為には」

「2人が一緒にいるより!それぞれが救助活動をすれば!2倍の人間を救えた筈だ!」

「私だけなら1パーセントも助けられなかったわ。ハルが一緒にいてくれたから、あれだけ助けられたのよ」

「それは(いたずら)に走り回っていたからではないか!」

「違う。私だけなら魔力が()たないからよ」

「その偽物から魔力を貰ったとでも言うのか!」

「そうだけど?」

「そんな事が出来る訳がない!」

「え?なんで?さっき王様とハルの髪色を変えた時、ハルの魔力を使ってみせたじゃない?」

「人の魔力を奪う時は杖か魔石か魔法陣を使うものだ!お前がどれも持たないのは分かっている!」

「え?」


 リルは回りを見回す。


「そう言えば皆、杖を持ってるわね?」

「小さいのとかを持ってるんじゃないのかい?」


 ズーリナの聖女が眉を顰めてリルに訊いた。


「持ってないけど、着替えの時に、杖は持ち込めないって言われたから」

「預けちゃったのかい?」

「あ、ううん。杖はオフリーで取られちゃって、それから持ってないの」

「盗られたなんて、なにルルみたいな事やってるのさ?ないと困るだろう?」


 イザンの薬師が「ふっ」と笑う。


「杖などただの魔導具。なくても多少面倒なだけ。そうだな?リル?」

「え?うん」

「杖は杖だよ!聖女に取っては己の半身!魔導具とは違うって言ってるだろう!でも、リルは杖がなくても神聖魔法を使えるんだね」

「うん。ハルと王都まで来る間、ずっと杖なしで魔法使ってたから」

「だからなんだと言うのだ!」


 宰相が怒鳴った。


「え?杖がなくても魔法は使えるって話だけど?」

「違う!魔力を奪う時には必ず必要なのだ!」

「それは相手と自分の魔力波を同調させる為にでしょう?」

「関係ない!杖がなければ出来ないのだ!」

「杖があっても出来ない場合はあるし、杖がなくてもある程度波長が合えば出来るわよ?」

「嘘だ!」

「ええ~?こんな事、ウソ吐いてどうするの?」

「嘘に決まっている!そもそもハテラズ殿下は魔力がない!つまり!魔力を持つのはそいつが偽物だからだ!」

「魔力がなかったんじゃなくて、魔力を測れなかっただけでしょう?」

「なんだと!」

「ちゃんと測れば分かった筈よ?」

「違う!国一番の技術で測っても無かったのだ!」

「でも結果が間違ってたって事でしょう?」

「断じて違う!」

「聖女の私が見てもよ!ハテラズには魔力がなかったわ!」

「杖を使わなければ何も出来ない王妃様が言ったところで、ねえ?」

「何ですって?」

「本当は杖を使っても、神聖魔法なんて使えないんじゃ無いの?って言ったの」

「何ですって!」

「なんだと!」

「神罰魔法しか使えないから、ケガ人を助けなかったんでしょ?って言ったのよ」


 王妃と宰相を睨むリルの二の腕に、ハルがまた手を添える。


「リル。また魔力が漏れている」

「あ、うん。ありがと」


 リルは深呼吸を1つした。

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