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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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証言

「さあ、証言するのだ」


 ハルにナイフを投げた男は宰相に背を押され、リル達の前に立つ。

 ナイフの男は後ろを振り返り、宰相を見た。


「宰相閣下。もう()めませんか?」


 小声で告げるナイフの男に、宰相は怒鳴って返す。


「馬鹿な事を言うな!悪を許す積もりか?!」

「ですが国王陛下はこの方をハテラズ殿下とお認めになったではありませんか?」

「国王陛下はお疲れで目が曇っているのだ!それを晴らすのは忠臣の務めではないか!良いから証言をしろ!」


 ナイフの男は前を向くが、男の声が聞き取れていた周囲からは、疑いの目が向けられていた。



「第2層で魔獣を退治している冒険者を王宮に招く様に手配しましたのは、国王陛下の御命令と伺っておりました。

 魔獣退治も一段落し、冒険者が訪ねて来たとの連絡を受け、待たせている部屋に会いに行きました。するとその中の1人、今私の前にいる男性を見て、私はハテラズ殿下に似ていると思いました。

 ハテラズ殿下はいつも前髪を垂らして俯き加減でしたので、額や目をお見せになる事は少なかったのですが、剣の稽古の時には汗で髪が貼り付く事も多く、私はハテラズ殿下の目も見慣れていましたので、直ぐに気付いたのです。

 するとこの男が私を隣室に誘い、自分がハテラズ殿下に成り代わる事に協力すれば、将来王太子や国王になった時に便宜を図るとの話を持ち掛けてきました。

 私が断ると突然壁が壊れ、こちらの少女が壁から入って来て私を襲ったのです。

 そこで気絶させられた為、私の記憶はここまでです」

「どうですか?この偽物は亡くなったハテラズ王子に成り済まし、この国を乗っ取ろうとしたのです。その仲間である小娘も、狙いを持つとしか思えないタイミングで我が国に来ているズーリナとイザンの特使も、全員共犯なのです」


「え?私も?」

「それはそうだろう。親子判定をしたのだから、リルが嘘を吐いているのなら、ララも共犯ではないとおかしい」

「バジならともかく、私は聖女だよ?」

「この国では聖女の信用が低いと言う事なのだろう。イザンとでさえ比べ物にならないくらいに低そうだ」


「そして偽物は監視下におき、小娘も牢に入れました。しかし2人ともそこを抜け出して、王宮の建物を破壊して回ったのです」

「何の為にだ?」


 国王は険しい表情を浮かべている。


「国の乗っ取りを企むのであれば、自分達の物になる王宮を破壊したりはせんだろう?」


 国王に(ただ)されたナイフの男は目を伏せた。ナイフの男が答える様子を見せないので、宰相が「さあ?」と国王に返す。


「何か気に食わなかったのではないですかな。犯罪者の心理など私には分かりませんので」

「どうやって次々と建物を破壊したのだ?」

「それは分かりません。何故ならこの2人が救助と称して、次々と証拠を処分して行きましたので」

「それならこの2人がやったと言う証拠もないと言うのだな?」

「ええ、ありません。念入りに証拠を隠滅したのでしょう」


 国王は溜め息を深く吐いた。


「リル?」

「はい」

「何か言う事はないか?」

「壁を壊したのは確かに私です。ごめんなさい」

「ほら!やはり!」

「何故壊したのだ?」

「その証人の人がハルにナイフを投げたからです」

「詰まらぬ嘘を言うな!壁を壊さなければナイフを投げたかどうかは見えない筈だ!ナイフを投げたのは壁を壊してからだ!」

「どうなのだ?リル?」

「ハルの様子が気になって、探知魔法で隣の部屋を見ていたのです」

「また嘘を!あの壁は魔法を通さない!王宮の事を知らないからその様な嘘を平気で口にするのだ!」

「そうだな。壁は魔法を通さない筈だ」

「国王陛下にも、やっと納得していただけた様ですね?」

「だが、魔法を通さない壁なら、リルはどうやって壊したのだ?殴ってか?」


 この場にいる多くには、小柄なリルが殴ったり蹴ったりして、王宮の壁を壊せるとは思わなかった。


「え?それは、それはきっと、壁の1部に魔法を通す極小さな穴があったのです!そうに違いありません!今は壁が壊れてしまっているので、気付けませんので」

「それなら魔法で中を覗けてもおかしくはないな」

「あ、いや、魔導具です!魔法で守られた壁を壊す為の魔導具がイザンから提供されていたのでしょう」


「そんなのあるの?」

「壁の強度次第では、用意出来るな」


「その魔導具はどこにある?」

「それは、壁と一緒に壊れてしまって」

「魔導具の破片は見付かったのか?」

「窓からでも捨てたのでしょう」

「王宮内に壊れた魔導具などが落ちていたら、報告に上がらない筈はないな?」

「あ、いえ」

「当日の報告書を確認せよ」

「魔導具は粉々にして、風に飛ばしたのかも知れません」

「報告書を確認しないうちに、魔導具が見付からなかった前提の推測を口にするのだな?」

「あ、いえ、その」

「宰相の言葉より、もっとシンプルな答えを余は出せるぞ?それは王宮の壁の魔法防御は、リルには通じないと言うものだ」

「そうです!国王陛下の言う通り!なので建物の破壊も出来たのです!」

「リル?」

「はい」

「建物が倒壊した時、そなたはどこにいたのだ?」

「牢の中です」

「嘘を吐くな!その時は既に脱獄していた筈だ!」

「私が牢にいた事は、さっきの3人が証人です」

「さっきの3人とは?」

「オフリーから来た元リーダーと店主とマゴコロ商会の3人は、建物が壊れた時に私と一緒に牢屋にいました」

「嘘を吐くな!あんな奴等の証言なんか信じられるか!」

「それなら宰相?そなたには証拠があるのか?」

「小娘を入れた牢から外に穴が開いていたとの報告があります!報告書もあります!」

「それは報告書が既に手元にあるのか?そしてその報告書には、建物倒壊より前に穴が見付かったとあるのだな?」

「あ、それは、穴の発見がいつであったかは」

「穴が倒壊より前なら、牢の中には穴から瓦礫が入り込んでいる筈だ。牢の後片付けはまだ行われていないから、調べれば穴が先か倒壊が先か分かる」

「が、瓦礫も粉々にして、風に飛ばしたかも知れません」

「何を馬鹿な。脱獄して建物を破壊して回った後に、人々を救助してから牢に戻り、瓦礫を粉々にして風に飛ばしたと言うのか?」

「それは、その可能性があると言う事でして」

「疲れているのは余ではなく、宰相の様だ。休暇を与える。余の許しが出るまでゆっくりと休め」

「何を言っているの!宰相は私が任じたのです!国王に人事権はありませんよ!」


「え?国王にないの?」

「聖女と言うのは凄まじい存在だな。イザンに聖女の制度がないのは幸いだった」


「国王陛下」


 ナイフの男が国王に呼び掛けた。

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