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働き過ぎは、聖女になりますので、ご注意下さい  作者: 茶樺ん


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159/189

整理

「はあ?」


 複数人から上がったその声はリルの周囲をぐるりと囲んでいた為に、誰が発した声なのかリルには分からなかった。


「え?リル?」

「なんと申した?」


 自分の言葉が受け入れられない「はあ?」かと思って困惑をしていたリルは、ハルと国王の声に振り向くと、2人がそっくりな困り顔をしているので思わず「ふふっ」と笑いを漏らす。


「どうした?」


 心配そうなハルの隣で国王が同じ顔をしている。


「ハルとお父さん、そっくりだよ」


 リルは光魔法で空中に2人の表情を再生して見せた。


「これは余とハテラズか?」

「光魔法にこの様な使い方もあるのか」

「光魔法?あの手鏡のか?」

「あ、ううん、お父さん、違うの。これはあれとは別の魔法でこの場に映してるだけ」

「ほう。リルの魔法の腕は素晴らしいな」

「国王陛下、わたくしにも見せて頂けますか?」


 ズーリナの聖女が興味深そうに国王に話し掛けて来る。

 その隣でイザンの薬師は小さく左右に首を振っていた。

 そのイザンの薬師の様子を見て、ハルははっと我に帰る。


「いや、リル、国王陛下。そうではなく」

「そうよ!」

「お前!何を言ったのだ!」


 ハルの言葉を遮って、王妃と宰相がリルに向けて怒鳴った。


「不敬よ!」

「この者を捕らえよ!」

「待て!」


 宰相の命令で近衛兵が動こうとすると、ハルはリルを背後に庇い、国王は近衛兵の動きを手で制す。


「リル?」


 ハルは宰相を睨みながら、後ろのリルに声を掛ける。


「え?なに?」

「何ではない!」

「私は王妃よ!私の夫は国王だけだわ!」


 ハルがリルに続きを言う間も与えずに、宰相と王妃は交互に怒鳴った。


「国王陛下は聖女様への不敬を庇うのですか!」

「え?不敬?不敬って何?」

「お前は聖女様を貶める言葉を口にしたではないか!」

「そうよ!それもこんな皆の前で!」

「貶める?」

「第2夫とか言ったじゃない!」

「聖女様の夫は国王陛下だけだ!」

「え?その事?」

「それ以外にないでしょ!」

「それ以外にあるか!」

「ハル?この国では本当の事でも不敬罪になるの?」

「何だと!」

「何ですって!」

「いや、この国の法では二人目の夫は認められていない。王位や爵位を嗣ぐ子が出来ない場合に限り、二人目の妻が認められるのだ」

「じゃあ国王様と結婚したまま、王妃様が産んだ子供はどうなるの?」

「え?どう?」

「どうってなによ!」

「そんなのは国王陛下の子供に決まってるだろう!」

「そうなの?」

「リル?」

「そうではないと言う事か?」


 ハルと国王がそっくりの顔をしたけれど、その険しさに、今度はリルは笑えなかった。リルはただ小さく肯いて返す。

 国王はズーリナの聖女を振り向いた。


「ララ殿。もう一度、親子判定の魔法を掛けて貰えるだろうか?」

「え、ええ。はい」


 国王はズーリナの聖女に肯くと、近くで立ち尽くしている王太子に顔を向けた。


「イラス。こちらに参れ」

「え、ですが、父上」

「そんな必要はないわ!」

「国王陛下!その様な下賤の者の戯言を信じるのですか!聖女様よりその様な者を信じると言うのですか!」

「そうよ!王妃であり聖女である私を信じないなんて!神罰が下るわよ!」


 王妃が国王に杖を向ける。ハルが思わず国王を守ろうと動くけれど、しかし何も起こらない。

 ハルの背後から体をずらして、国王は王妃を見た。


「イラスが余の息子であるのなら、魔法でも親子と判定されるだけだ」

「それをする事が私への侮辱だと言ってるのよ!」

「その通り!この国が神の恩寵を失っても良いのですか!」

「あなたの神様はウソを赦すの?」

「この!」


 リルの言葉に王妃は今度はリルに杖を向けるけれど、やはり何も起こらない。


「嘘を吐いているのはお前じゃないの!」

「この国だと天罰が良く落ちるみたいだから、私がウソを言ってるなら、とっくに天罰に当たってるんじゃない?」

「何ですって!」

「神罰を望むような言葉を口にするなど!お前は悪魔か!」

「私が悪魔なら、それこそ天罰が落ちそうだけど」


 リルに言い返せない王妃と宰相を見て、参加者達が囁きを交わす。

 確かにいつもの王妃なら、とっくにリルに神罰を下しているだろう。


 国王は視線を王妃から王太子に移した。


「イラス。こちらに参れ」


 王太子は口を開いたり閉じたりするものの、足を踏み出さない。


「あの、王太子様があそこでも、大丈夫ですよ?ね?ズーリナの聖女様?」

「ララと呼びな、リル。それに2人が近い方が良いじゃないか」

「ううん。3人で確認すれば良いじゃない?」

「え?3人?」

「うん。宰相と娘さんと王太子さん」

「え?」


 リルを囲んで複数の人間からまた同時に声が上がったけれど、今度はリルは気にしなかった。


「そうすれば宰相の娘さんと王太子さんが兄妹って分かるし、私が言いたいのはそれだから」


 宰相は反射的に、驚きの表情を浮かべながら王妃を見た。王妃は徐々に顔に驚きを表して行く。

 その2人の様子を国王も参加者も見ていた。


 そうしてリルははっと気付いてハルを振り仰ぐ。


「この国の貴族は異母兄妹でも結婚できるの?」


 目を見開いて宰相の娘と王太子を見ていたハルには、リルの問い掛けが頭に入らなかった。


「そんな訳ないわ!」


 その叫び声にリルは王妃を向く。


「異母兄妹は結婚できないのね?」

「違うわよ!計算が合わないもの!」


 会場がしんと静まった。それに気付いた王妃は、自分の発言の意味に気付いてハッとする。


「違う!違うの!イラスは国王の子なの!」

「それなら親子判定を受けても良いではないか」


 叫ぶ王妃に向けて、静な声で国王が言う。


「私を信じないの?!」

「余はこのハルが余の息子ハテラズだと信じる。しかし王妃は信じないと言う。つまり余の言葉を王妃は信じないと言う事ではないか」

「違うわよ!私は王妃で聖女なのよ!」

「イラスが余の息子ではないのなら、そなたは王妃ではない。王妃ではなくなる」


 再び会場から音が消えた。


「ララ殿。三者の親子判定も可能なのだろうか?」

「可能ではございますが、リル?宰相殿と娘は親子なのだろう?」

「うん」

「戸籍上もそうだろうから、それならやはり、宰相殿と王太子殿下を判定するのはいかがでしょう?」


 後半は国王に向けてそう言うズーリナの聖女の言葉に、リルは首を傾げる。そのリルに気付いたズーリナの聖女は、もう一度リルを向いた。


「三者での判定では、異母兄妹は上手く確認出来ないんだよ」

「そうだっけ?」


 小首を傾げるリルに、ズーリナの聖女は苦笑をする。


「リルの使う魔法がどんなのか分かんないけど、ズーリナの聖女が使う魔法だとそうなのさ」


 ズーリナの聖女のリルに向けた説明を聞いて、国王は肯いた。


「ではララ殿。イラスと宰相とで、親子の判定をして貰いたい」

「待って!」

「待って下さい!」


 国王に向かってそう言いながら、王妃は国王に一歩近付き、宰相は王太子とズーリナの聖女から離れる様に後退る。


「違うの!違うのよ!」

「あり得ないのです!王太子殿下が私の息子だなんて!そんな事!ない筈なんです!」

「そうよ!分かんない筈よ!」

「分からないと言うのは、イラスが宰相の息子かどうか、そなた達には分からないと言う意味か?」

「違うわ!イラスは国王の子よ!」

「その通りです!王太子殿下は国王陛下の御子息です!」

「それならば、ララ殿に確認して貰っても、一切問題はない筈だな?」

「確認なんて必要ないって言ってるの!」

「聖女様の仰る通りです!」

「しかしこのままではこの場にいる者達は皆、疑いを心に抱えたまま帰路に就く事になる」


 王妃と宰相は言葉に詰まった。


 2人の言葉を待っても、王妃は口を開け閉めするだけで、宰相は唇を噛んでいるだけなので、国王はもう一度、ズーリナの聖女に魔法を掛ける事を依頼する。


 その結果、王太子と宰相は親子だと判定された。


「と言う事で整理すると、異母兄妹が結婚できないのなら宰相の娘さんは王太子さんと結婚できないんだけど、そうすると宰相の娘さんは、ハルが王太子じゃなくても、ハルと結婚するの?」


 リルの言葉に、宰相の娘も王太子も、反応を見せなかった。

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